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好意が脅威に変わるとき…社交辞令のリスク(4ページ目)

仕事のできる会社員・利之が打ち合わで会った相手・瑠璃子。いつものように社交辞令を言ったところ、思いがけない展開に。口は災いの元だと気づいたときは遅く……。口がうまい人はトラブルに注意しましょう。

佐伯 幸子

執筆者:佐伯 幸子

防犯ガイド

意趣返し

どうしよう…
どうしよう…
一方的に電話が切れた。利之は呆然としていた。どういうつもりだろう。何でそういうことになるのだろう。まったく訳がわからない。何をどうするつもりなのかも予測がつかない。そしてその日の午後から、利之は社内のあちこちで弁解をして回ることになった。

まず、人事課から連絡が来た。北条瑠璃子が「セクハラとパワハラの社員を何とかしろ」と言ってきたというのだ。それから、直属の上司の企画部長からも呼び出された。そして、差出人不明のファックスが届いた。内容は利之のセクハラ行為についてで、一方的な内容だった。このままだと、社長にまで連絡が行くのではないだろうか? 部長と会議室で相談をしながら、先に手を打つべきだということで、会議室の電話を取ったが、直接行ったほうが早いと思って、上の階にある社長室へ走った。

社長室の受付で秘書が電話を取りながら、利之を見て会釈をした。少し待つようにと手で制されて、やきもきしながら立って待っていた。秘書が、「はい? 北条様? お約束でしょうか?」北条と聞いて利之はあわてて秘書に手を振って両手で「×」のしるしを出した。秘書はいぶかしげに首をかしげながら、「恐れ入ります。外出しておりまして、本日はこのまま戻らないことになっております。明日、ご連絡を差し上げましょうか」

電話を切った秘書に急いで言った。
「よかった。すみません。今の人、北条さんですよね? 今後、連絡があっても、絶対に社長には取り次がないでいただきたいんですが」
「は? はあ、でもそうしたことは書面でご連絡をいただかないと」
「そうですよね。待っていてください。後でお持ちしますから」
そう言って、頭を下げるとまた会議室に戻った。部長が渋い顔で待っていた。

「部長。すみません。それがちょうど社長室に電話がかかっていて。いや、社長は不在だったのでよかったんですが」
「飯田。マズイよ。それにしてもすごい剣幕でセクハラだのパワハラだの言ってたぜ。向こうの言い分だけだとお前はよっぽどいやらしくて権威を振り回すセクハラオヤジみたいなことになっているぞ」
「部長~、だから、違うんですよ。部長は私のことをよく知ってるじゃないですか」
「まあ、分かるけどな。相手は女性で、応接室で2人だけで会っていたのは事実だろう」

「いや、あの時は同席するはずの久保が急用で不在で」
「それなら代わりの者を同席させるべきだったな」
「はあ。そう言われればそうなんですが」
「危機管理だよ。会社の危機、君個人の危機」
「ええ。確かに」
「言った言わないは水掛け論になる。とりあえず、君の言い分を通しておかないと。急いで書面にしたまえ。それから、今後のことを相談しよう」
「はい」

社内で緊急の危機管理会議が行われることになった。大方の人間は利之の言い分を信用してくれたが、日頃から利之のことをよく思ってない人たちはここぞとばかりに利之を責めた。露骨に「仕事が出来ると思って調子に乗りすぎたんじゃないか」と言われた。なんと言われても、利之は自分の危機管理が甘かったことを自覚していたので、じっとしていた。結局、部長と人事課長が2人で北条瑠璃子の会社に行くことになった。


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