誤解に曲解
電話にパニック |
「あら、それとロマンチックというのは違いますでしょ? 私とだけ飲みたいとおっしゃったじゃないですか」
「いえ、北条さんのような美人とだったら酒もうまいだろうなとは言いましたが」
利之はだんだん混乱してきた。どうも話が一方的過ぎる。思い込みが激しいようだ。だが、どう言っても話が通じない。まるで異星人とでも会話しているようだった。
「ですから、もし今後、仕事でご一緒することがあればですね、打ち上げの際にはスタッフ全員で飲みに行くことはあると思うんですよ。あくまでも打ち上げですから」
「でも、飯田さん、私のことを誘ったじゃないですか」
「いえ。そうは申しておりません。あくまでも通常の打ち上げのことを」
「では、ロマンチックだの私と飲みたいだのというのは嘘でしたの? 私とお酒を飲めるように努力するっておっしゃったじゃないですか」
「ですから、それは仕事がうまく行くようにというつもりで」
「仕事のことだけを考えてあんなことをおっしゃったの? 私のことを誘っておいて仕事はダメになったから無視するってことですの?」
「いや、誘うも何も。それは仕事でのことで」
「それじゃ、セクハラかパワハラじゃないですか!」
利之はギョッとした。あまりにもエキセントリックな物言いにも恐れをなしていた。言いがかりではないかと思った。
「私のことを美人と言ったり、お酒やカラオケを誘ったり。ロマンチックがどうのとか。それで仕事の話ということなら、完全にセクハラですわよね? パワハラでもありますでしょ」
「いや、ですから、そんなつもりはまったくなくてですね」
「ひどいお話ですのね。私が女だから、とバカにしてるんですか」
「と、とんでもないです」
利之はパニックになっていた。同じ言葉を話しているとは思えなかった。誤解に曲解で、苦手な英語よりもっとワケが分からなかった。
「飯田さんが独身だからまだ救いはありますけど」
「は? いえ、私は結婚しておりますが」
「んまっ……。じゃあ、奥様がありながら、私を誘ったんですか? ヒドイっ! 信じられない」
「いやでも、いちいち私は結婚してますなんて言いませんよ」
「独身だと思わせておいて、お酒を誘ったというのは詐欺じゃないですか?」
「……!」
利之は言葉を失っていた。ああ言えばこう言うで、話がまったく噛み合わない。
「あのう、誤解をされたのでしたら謝りますが、私は結婚指輪はいつもしてないんです」
「持ってるのにしていないのは下心があるってことじゃないですか」
「そんな……」
「仕事でこんな目に遭うなんて信じられませんわ。どうせ、今回の仕事も私をわざと落としたんでしょ」
「いや、会社の会議で決まったことですから」
「なんにしても、私、許せませんわ。飯田さんの失礼で不愉快な対応は当社と私自身への侮辱です。それなりに対応させていただきますからねっ!」
「あう……」
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