敵対心
「次長! もう、これ以上は……もう」「立川。オレもこれ以上、恥をかかせたくないと思う」
「しかし、何の証拠もないだろう」
「証拠がないとどうして言える。証拠を出したら言い逃れは出来ないぞ。それでもよければ証拠を出そう」
「室長! もう止めてください。私、私どうかしていたんです。次長、すみません。私、もうこれ以上は無理です。お先に失礼します」
文恵が出て行く |
「立川。もし人事のことなら仕事で競うべきだ。卑怯な真似はよせ。しかも、女性を利用するなんて」
「加瀬。お前はいつも正しいこと、いいことを言うよな。だが、そんなお前の影で割を食ってる人間もいるってことを忘れるな。自分だけが正しいなんて思うなよ。お前は人望もあるさ。女子社員にも人気がある。出来すぎだよ。この前の企画だって、たまたまお前が担当したってだけじゃないか。オレだって必死で仕事をしているのに。お前を見てると頭にくるんだ」
好かれていないことは分かっていたが、そんなことを面と向かって言われて、春彦は何も言えなかった。ライバル心というより、敵対心だと思った。
「努力した分だけ報われるなんて嘘だね。世の中は不公平に出来ている。オレだけが地方へ飛ばされるなんて納得できない」
「まだ決まったわけじゃないだろう」
「オレかお前だということを聞いたんだ」
「じゃあまだ分からないじゃないか。誰だって努力してるんだ。上層部もちゃんと見るところは見てるはずだ」
「お前のそういう能天気ないい人ぶりも納得いかない」
「立川。オレへの納得いかないところはしょうがないとしても、横井さんはどうなるんだ」
ふん、と顔をゆがめて、立川があごをしゃくってそっぽを向いた。
「彼女だってかわいそうなものさ。お前に憧れていたのに相手にされず、つまらない出向社員ばかりかわいがって無視されてんじゃな」
「相手にするも何もオレは結婚してるじゃないか。それに女子社員には同じように接しているつもりだ」
「ふん、またいい人のふりか。まあ、もうどうでもいい。彼女もお前に相手にされないから、オレになびいただけだろう。だが、彼女はやさしい上に付き合っていくうちに2人ともお前に対する不満があることが分かった。お前にオレたちの気持ちなんか分かるもんか」
「だからって、こんなバカなことまでするとは」
「黙れっ! お前にバカ呼ばわりされたくない。証拠もないくせに」
「君をバカにしたんじゃない。行動がバカらしいと言ってるんだ。立川。同期のよしみで何もなかったことにする。2人のことも知らないことにする。だが、社内に知っている人間がいることを忘れるな。オレは嘘はつかない。証拠を出して問題にはしたくない。卑怯なことはされるのもいやだが、するのはもっといやだからな」
「お前ってヤツは……本当に虫酸が走るくらいいやなヤツだな。ふん。どっちにしても会わなくて済むようになるさ」
鼻でせせら笑うようにして立川が部屋を出て行った。すると、ドアの影から男がすべるように入ってきた。
最終回「ミセスの危機管理ナビ~女と男の自己防衛」も続けてお楽しみください!
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