バレンタインの困惑
カラオケハラスメント |
「ストレス発散になったでしょ。今の人はみんな歌うまいんじゃないの?」
「まあ、下手なやつもいるけど、そういや星野さんだけが1人歌わなかったな。聴くほうが好きです、とか言って」
「ふ~ん」
「歌いたくない人に無理に勧めると今度は“カラハラ”になるしね。カラオケハラスメント」
「あなた、またきっとウンチク王子だったんじゃない?」
夫のウンチク好きはお酒を飲んだらますます調子に乗ることを麻季子はよく分かっている。
「ハハハ。ま、彼女は喜んで聞いてたんじゃないか。話がおもしろいとか、ためになりますとか言われたような気がするよ」
「それでその3人はいつ元の会社に戻るの?」
「うん。男1人だけ残って、ほかの2人は昨日で終わりだ。打ち上げプラス2人の歓送会でもあったわけ」
「そう」
なんとなく、その30代前半の星野という女性が麻季子の気に障っていた。漠然とした胸騒ぎがする。顔を見たわけでもなく、もう会社には来ないようだし、春彦は特に何も考えていないようなので、考えすぎだろうと思いを振り払うように首を振った。そのまま何事もなく週末を過ごして、麻季子もそのことを忘れていた。だが、バレンタインデーの2月14日に宅配便が届き、インターホン越しに配送の人に差出人の名前を確かめたとき、麻季子の胸騒ぎがよみがえった。
星野美穂からだったのだ。夫宛だし、知らない名前ではなかったので受け取らざるを得なかった。見ると送り状の品名のところには、チョコレートとネクタイと書かれている。その夜帰宅した夫に小さな荷物を手渡すと春彦は差出人の欄を凝視して、眉をひそめた。
ネクタイを贈る意味は |
「会社で調べたんじゃない?」
「いや、個人情報に関しては出向社員には分からないようになってる。う~む。ただネクタイについてはウンチクを話した記憶がある」
「贈る相手を束縛したいって意味でしょ? あなたに首ったけとか。昔、あなたから聞いたわ。それをあなたに送ってくるなんて」
「送り返すのも角が立つしなあ」
両手で頭を抱えた春彦を麻季子はじっと見つめていた。どのようにして星野さんが自宅の住所を知ったのだろうか? それに、バレンタインデーに妻帯者にネクタイを贈ることは常識はずれだろう。これは慎重に対処しなくてはならない問題だ。麻季子は思わず深く息を吸い込んでいた。
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