驚愕の一瞬
エッと思う間もなく、ガバッと抱きつかれた。驚愕して息を呑んだところ、口を男の手でふさがれた。もう一方の手で体を締め付けられ、体ごとエレベーターの壁に押し付けられた。ひじが押し付けられて指が開いてバッグが手から落ちた。口をふさがれた恐怖で目を見開いたまま、体を動かそうとしたが、もがくほど男の押し付ける力が強くなった。(殺されるかもしれない!)という恐怖が蓉子の頭をよぎった。ガタンという軽い衝撃があり、エレベーターが止まりドアが開いた。男は蓉子を押し付けたままドアのほうを振り返った。蓉子も男の肩越しに見た。外には誰も立っていなかった。
一瞬、男の力が弱まったのを蓉子は見逃さなかった。全身の力を振り絞って、男を押しのけた。ドアに向かって飛び出そうとしたが、男が蓉子の肩口をつかんだ。そのときになって初めて、蓉子の口から声が出た。
誰か~~~ |
「やめて! 誰か~~~」
そう叫びながら、「開」ボタンを叩いた。すると閉まりかかっていたドアが開いた。転がるように飛び出すと、男がエレベーターの中でボタンを操作してドアが閉まり、エレベーターは降下を始めた。
肩で息をしながら、ブラウスをかき寄せて呆然としていた。バッグはエレベーターの中に残ったままだった。携帯電話もない。鍵もないため家に入ることもできない。額に手をやって、どうしたらいいのか考えようとした。だが、まだ体が震えている。歯も噛み合わないまま、はあはあと荒い呼吸を繰り返していた。
すると、エレベーターから一番近い部屋のドアがチェーンをかけたまま少し開いた。ドアのすき間から二人の人がこちらを見ていた。蓉子は両腕で胸を抱きしめるようにしながら、ふらふらと2~3歩近づいた。
「女の事件白書~恐怖のエレベーター(下)」に続く。
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