連載第2回「ミセスの危機管理ナビ~男と女の間のウソ」
を先にご覧ください。【全4回】
《前回までのあらすじ》泉がリョウ君に対して思いのほか、入れ込んでいることに驚いた麻季子。大金を貸して欲しいという彼の要望に、目を覚ますように泉に迫るが、なぜかあいまいな泉。友だちと会うときに麻季子もそばにいることにした。
下準備
二人で打ち合わせ |
「だから、絶対にその場ではお金を出すなんて言っちゃダメよ」
「うん。大丈夫。もうお金を出すとは考えていないから。明日、電話して場所を指定するの。私の仕事が終わってからということで。どこがいいかなぁ」
「携帯電話がかけられるような場所がいいと思う。地階はダメだし、隣の席に私がいて話が聞こえるところじゃないと。そうだ。カフェSの外の座席は? 電話もしやすいでしょう?」
「そうね、あのカフェなら外にテーブルがあるから。早めに行って、隣のテーブルを確保して」
「それから、もしリョウ君がこんなことを言い出したら……」
考えられるあらゆるケースに備えて、麻季子は家に泉を招いてシミュレーションを行った。相手がこう言ったらこう切り返す、といったようなことを繰り返した。もちろん、どんなことがあっても、すぐにATMに行ったり、二人だけで別の場所に移動することもしない。状況によっては、麻季子が救いの手を出す。隠しマイクで録音しようかという話も出たが、互いにそんな道具も持っていないし、値段が幾らするかも、どこで買ったらいいのかも分からず、やめにした。
「テレビドラマのようには行かないわね」
「ほんとね。じゃあ、今日はこれで。遅くまでごめんなさいね」
「いいのよ。主人は部下と飲み会とかでたまたま遅いし」
「管理職は大変よね。でも、明日、翔太クンは?」
「明日は私の母が泊まりにくるのよ。明後日、歌舞伎を観に行くことになっているから。だからちょうどよかったの」
「よかったわ。助かる。ごめんね、本当に。じゃ、明日、時間が決まったら電話する」
「うん。じゃ、明日ね」
翌日、麻季子は早めに街に出ていた。夕方の5時過ぎに泉から携帯に電話が来て、6時にカフェでということを知らせてきた。早めに行って席を確保しておかなくてはならない。書店でインテリア雑誌を買い、カフェでは店の外に並んでいるいくつかのテーブルのうち、隅の席に座ることができた。隣のテーブルには人が座っているが、飲み物がほとんどなくなっている。じきに席を立っていったので、ほかの客が来ないように麻季子はさりげなく雑誌をテーブルに置いた。