サバ読み
電話で近況報告 |
泉は今でも麻季子の高校時代の呼び名で呼ぶ。
「出張で留守なの。イズミーは元気?」
麻季子も泉の名前の語尾を伸ばした呼び名を使う。
「元気よぉ。でも、ダンナがいないときくらい外に遊びに行けばいいのに」
「ダンナはいなくても、息子がいるもん」
「あ~、結婚して子どもが出来ちゃうとホント、自由がないのね」
「そうねぇ。束縛があるからこそ、たまの自由に感謝できるってことはあるかも」
「うっ! なるほど、そう来たか。まあ、仲のいいご夫婦ですから」
「イズミーはどうなの? 電撃結婚とかないの?」
「アハハ。残念ながら、そんな相手は今はいません」
「いい女なのにねぇ。美人だし、家事もできるし、仕事もできてお金も稼げる。何でも出来る人なのに、なんで結婚出来ないのかな」
「ちょっと待って。『結婚しない』って言ってくれない? 『結婚出来ない』のと『結婚しない』じゃ、だいぶ意味が違うから。それに私は一度してるんだし」
「いまだに再婚願望ないの?」
「ない。今さら、他人の面倒なんか見られない。ひとりが快適だもん」
「ひとりが長いとそうなっちゃうのかしらね」
「仕事がデキる男は女遊びもイケるって言うじゃない? 仕事のできる女が男遊びをしても問題はないでしょ?」
「そう言い切られると、夫を持つ妻の身としては微妙で答えられないものがあるわよ。でも、イズミーはなんだかまるで男みたいね」
「まあ、仕事に性差はないし。これでも彼氏と一緒のときはカワイイ女だったりもするのよ。フフフ」
「前は年上の相手が多かったみたいだったけど、最近は?」
「20代の子なんかと付き合うとね。最近はさすがにちょっとしんどくなってきたかも」
「20代? 相変わらずすごいわね。いったいいくつだって言って付き合ってるの?」
「わたし? 32歳とか。ムフフ」
「ちょっとぉ、すごいサバ読み。私たちじきに40代よ?」
「いいじゃない。通用するんだから」
「まあねぇ。イズミーは若く見えるもんね。きれいだし。しっかし、バレたらどうするつもり?」
「だって、遊びなんだから、関係ないわよ。年齢なんて本当のことを言わなければ、そんなもんなかなってことで通るのよ」
「でも、困ることない?」
「高校生のときに流行っていた歌はなに? とかね。とっさに嘘はつけないから、一番バレやすいって。一応、わたし、押さえてるからね。フフ。でもさ、この間、化粧品を買おうとしてちょっと考えちゃったのよ。『40歳からの基礎化粧品』ってのがあるじゃない? 私は気持ち的にも、見た目的にも全然、遠いんだけど、40代に効果があるってことは、30代で使えば、よりいっそう効果があるんじゃないかって思ったのよねえ」
「なるほど~。美容に効果があるんだとしたら、年を上にサバ読むのもアリってことか。逆サバだね」