更なる不審事
2人で考える |
「じゃあ、結婚していて子どものいない人は?」
「5人いるんだけど、2人は妊娠中。2人は子どもを作らない主義。もう1人は離婚を考えているっていうから子どもどころじゃない」
「あとの人たちは?」
「みんな結婚していて子どもが1人か2人いるのよねぇ。それに子どもの写真の年賀状をくれた人もいるし」
「しかもこれは年賀状のコピーよね。実物なら、年賀状を見せてといえば見せられない人、手元に残っていない人だって分かるけど」
「そうなの。コピーだからますます誰がやったか分からないのよ」
「今どき、コピーなんてコンビニでも家庭でもできるしねぇ。これじゃ犯人探しは難しいわね。無理かもしれない」
「やっぱりそうかぁ。さすがの麻季子さんでも無理よね」
「そんな。私は別に探偵でもないし、推理作家でもないんだから。でも、誰がやったかは気になるわね」
麻季子が紅茶のカップに手を伸ばすと、絵里も紅茶を飲んだ。目の前の切り刻まれた年賀状を2人でじっと見つめた。
「これ、気持ち悪いから捨てちゃおうかしら」
「気持ちは分かるけど、これは証拠品だからとっておかないとダメよ」
「そうか。いやだなぁ」
「これが何を意味するのかってことよね、問題は。これを送ったあなたに対して悪意があるのか、子どもに対して何かあるのか。それとも両方なのか」
「いやだ、怖いこと言わないで」
「とりあえず年賀状を送った全員に探りを入れてみたら? さりげなく電話してみるとか」
「そうね。送った中に犯人がいるのは間違いないものね」
果たしてそうだろうか? 子どもの写真の年賀状ばかりが盗まれた事件があったし、家族の誰かがやったら分からないのではないか。麻季子はそう思ったが、今以上に絵里を怯えさせることもよくないと思ったので黙っていた。
「だから警察にも相談できないし、警察沙汰にはしたくないわ」
「まあ、事件になっているわけじゃないしねぇ」
「うちは男の子ばかりだから、まだいいけど」
「何言っているのよ。男の子だって女の子と変わらないわよ。子どもは子どもなんだから」
「そうだけど、やっぱり違うわよ」
なんとなく絵里の言葉に引っかかるものを感じたが、それが何なのか麻季子は自分でもよく分からなかった。結局、絵里が年賀状を送った相手に順次電話をしてみることにして、2人の他に誰にもこのことは話さないことにした。だが、二日後に絵里から、メールではなく電話がかかってきたとき、その口調から何かもっと大変なことが起きたらしいと直感した。
「麻季子さん、すぐ来てもらえる? お願い!」
「分かった。すぐ行くわ」
急いで絵里の家をたずねると、小学2年生の長男の肩を抱いた絵里がこわばった表情で立ちすくんでいた。
■絵里の自宅にかかってきた電話はいったい誰から?
第2回「ミセスの危機管理ナビ~聞き戻せない電話」
■【全4回】連載
第1回「ミセスの危機管理ナビ~切り裂かれた年賀状」
第2回「ミセスの危機管理ナビ~聞き戻せない電話」
第3回「ミセスの危機管理ナビ~推理から見えたもの」
第4回「ミセスの危機管理ナビ~揺れ動く心のありか」
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