拒絶する
オートロックなのに? |
だが、やはりどう考えても突然、女性の自宅に押しかけるのはおかしい。どんな理由があろうともだ。事前に電話一本よこしたわけでもない。非常識だと思う。いつまでも玄関先でうだうだされても困る。洋美は受け取った資料を持ったまま、○○の目を見てしっかり言った。
「すみません。今、他の原稿の締切を抱えているんです。このままお帰りいただけませんか」
「なに? 水の一杯も飲ませてくれないの? つれないなぁ」
「申し訳ありません。駅まで行く途中にコンビニも自動販売機もありますので」
「なんだよぉ。いいじゃないか、ちょっと君の仕事場を見せてよ」
「困ります。どうぞお帰りください」
「わざわざ資料を持ってきてやったのに、冷たいというか失礼じゃないの」
失礼と言われてカチンときた。深夜に女性の家に突然やってくるのは失礼じゃないのか?
「資料を持ってきてくださったのは感謝してます。ですが、電話で連絡もせず突然にやってこられるのは困るんです」
「なんだ。君は冷たいな。そんなことじゃ、仕事も期待できないな」
「仕事は一生懸命やっています。こういうことは困ると申し上げているんです」
「わざわざ持ってきてやったことが迷惑だというのか」
「明日でも間に合いましたし、宅配便でもバイク便でもよかったんです。ご好意は感謝しますが」
「だって、君は仕事場が自宅なんだろう? 仕事場なら顧客に茶を出すくらいしてもいいんじゃないか」
「私がお客様のほうに伺います。普通は会社だけで用事は済むはずです。どうか会社だけでのお話にさせてください」
「そうか。わかったよ。洋美ちゃんはそういう子なんだ」
どういう子だと言いたいのかわからなかったが、もうどうでもよかった。
「すみません。締切が迫っていますのでこれで」
「わかりましたよ」
ムッとした顔でドアの間から身を引いて、うらめしそうに洋美をにらんでからドアを力いっぱい閉めた。洋美はホッとしてドアの鍵をわざと音を立てて締めた。