愛と故意のラビリンス~第1回
愛と故意のラビリンス~第2回を先にご覧ください。
<これまでのお話>
お見合いパーティで出会った逸美と謙一。二度目のデートで逸美が手料理を振る舞う約束をした。ある土曜日、謙一が逸美の自宅をたずねた。
自宅を訪ねる
花束持参で訪れる |
手には花束を持っている。謙一としては一番無難な手土産だと思ったのだ。
「わぁ、キレイ。ありがとう。さ、どうぞお入り下さい」
やはり新しく買ったスリッパを勧めて、室内に招き入れた。
「へえ、きれいな部屋だね」
物珍しそうに逸美の部屋を見渡して、謙一は感心した様子で頷いていた。BGMのようにさりげない音楽がかかっている。
白やパステルカラーが基調でどこを見ても女性らしいものが置かれている。リビングダイニングのほかに寝室もあるようだがドアは閉じられている。
「さすが、女性の部屋って感じだね」
「そう? 狭いのでちょっと物足りないんだけど、便が良くて住み易いからもう長く住んでいるの」
「やっぱり交通の便がいい所がいいよね」
「本当はもっと広い所に移りたいのだけど」
何気ない会話の中に、さりげないアピールをしているつもりの逸美だったが、謙一は敏感に悟っていた。視線を移して本棚を見た。話題になった文芸書が並んでいる。
「へえ、こういう本を読んでいるんだ」
そう言いながら、手に取ってみたりして話題を逸らした。
実は謙一はベストセラーというものは読まない主義だった。売れているから、話題になっているから読む、というのは嫌いだったのだ。それに女性らしいインテリアといえばそうだが、謙一の好みはあくまでもシンプルだった。だが、他人の好みにケチをつける気はないし必要もない。
勧められた席に座ると、逸美がすぐに料理を運んできた。
「ささやかですけど。ワインもあるのよ」
「お、いいね。おー、美味そう」
彩りも鮮やかな料理が次々と運ばれてくる。ワインは謙一が開けて注いだ。
「すごいなぁ。こんなに手の込んだ料理なんて、家で食べたことないよ」
そう言いながら、美味しそうに食べる謙一を見て逸美は嬉しかった。
「男兄弟だけだしね、お袋も大ざっぱだから」
「あら、私もいつもこんな料理ばかりという訳じゃないのよ」
「毎日こんなご馳走じゃ太っちゃうよ、ハハ」
「私も一人のときは簡単なものばかりだから」
とりとめのない会話を交わしながらワインを飲み、食事が進んだ。
→・合わない趣味……p.2
→→・約束はできない……p.3
→→→・セカンドバージン……p.4