積極的な逸美
条件はバッチリ |
「あら、私の方が半年上ですね。あのう、年上でもいいんですか?」
「半年なんて年上のうちに入りませんよ。それとも気になりますか?」
「いいえ。私は気になりませんけど」
「僕もですよ」
またしても、逸美の中では(ヤッタ)と思っていた。学年が一つ上でも気にしないという。謙一は身長も高すぎず低すぎず、太り過ぎてもいない。見た目も感じがいいし、会話もテンポがあって話しやすい。勤め先も市内では有名な会社というのもいい。(まさにビンゴだわ。なんとかこの人と付き合いたい)と、強く思った。
その後、フリータイムのほとんどを二人で話して過ごした。だが、お開きの時間が近付くに連れて逸美は不安になってきた。会話は楽しいが、このパーティの後のことが決まらない。誘って欲しいのに、謙一はなかなかそう言ってはくれないのだ。
メールアドレスも、電話番号も聞かれない。逸美は時間がなくなってしまうことに焦りを感じていた。パーティの司会者が最後の挨拶で締めくくろうとする頃になって、逸美はついに勇気を出して自分から誘うことにした。
「あの、今日この後、何かご予定がありますか?」
「僕ですか? いや、特に」
「そうですか…。あの、もしよかったらご一緒にお茶でもいかがですか?」
「いいですよ。ご一緒しましょう」
「じゃあ、終わったら」
「そうですね」
そして、二人で並んで会場を出ると、繁華街を歩き出した。逸美の知っている洒落た店に行き、会話を楽しんだが、謙一はその名の通り、控えめなのか、逸美の方がリーダーシップを取るような流れになっていた。半年だけ年上という意識も手伝ったのと、元々、仕切ることが性に合っている逸美としては、それもまた自分にとってはいい条件だと思えた。
自分から誘おうとしなかったことは、女性に対して慎重なのだろうとこれもいいように解釈した。いずれにしても、結婚相手としての条件は逸美にとってはかなりよかった。というより、(この人しかいないかも)とさえ思っていた。
31歳の会社員・高井謙一は、これまで何度もカップリングパーティと呼ばれるお見合いパーティに参加していた。数人の女性とパーティ後の交際に及んでいたが、いずれも自然消滅していた。彼女たちは、謙一の煮え切らない態度に見切りを付けたという感じだった。二十代で付き合った女性たちも女の方から去っていたが、謙一としては「相手に振られた」形を取ってきたつもりだった。自分から振って、恨まれたり憎まれることを極端に嫌ったのだ。
・→謙一という男……p.3