愛と故意のラビリンス~第1回を先にご覧ください。
<前回までのあらすじ>
負け犬脱出を図る会社員・逸美(32歳)は、自分で相手を見つけようと、お見合いパーティに出向くことにした。三度目のパーティで出会った男が目に留まり、声をかける。
探りを入れる
相手のことを知りたい |
「白崎さんでしたよね」
「ええ。嬉しいです。名前を覚えていてくださって」
「いやー、なんだかちょっと気になっていたんですよ」
「あら、ウフフ。あのぉ、高井さんってご長男なんですか?」
「えっ? どうして分かるんですか?」
「だってお名前が謙一さんって“一”の字が付いているから」
「うーん。そうなんですよ。オヤジがあまり深く考えずにつけたみたいで。でも、謙一の謙の字は、謙虚とか謙遜とか控えめ、へりくだる、って意味があるんですよ。それで一番というので、おかげで僕、社会に出ても強気に出られないんですよ。ハハハ」
「えー? 本当ですか?」
「いやー、そんなことはないですけどね。ただまぁ、名前に数字なんてちょっとイージーな気もしますよね」
「それで弟さんは数字の“二”が付くお名前なんですか?」
「え? 弟ですか? そうなんですよ。謙二っていうんです、って言ったら当たり前過ぎますね。さすがにオヤジも二人目だからという名付けはしなくて、しかも一文字で“誠”なんです。へりくだるより、誠、誠実のほうがいい意味の気もしますけどね。あれ、でも僕、弟がいるなんて言いましたっけ?」
「いいえ。ただお名前の話から、もしかして弟さんがいらっしゃるかと思ったんです」
「ほう。なかなか鋭いですね。僕は弟と二人兄弟なんです。妹かお姉さんが欲しいと思ったこともありましたけど」
逸美は、頭の中で(ヨシッ! 小姑はいないわ)とガッツポーズをしていた。(小姑がいるところはやっぱりイヤだもの。男兄弟だけのところに嫁ぐほうが絶対にいい)と計算していたのだ。名前から推測して、家族構成を知ろうと振った話題だった。
「そうですか。私は年の離れた妹がいるだけで、やはり男兄弟はいないんですよ」
「じゃ、弟か兄が欲しいと思ったことがありますか?」
「さぁ、どうでしょう。特に考えたことはありませんけど。でももう30歳を過ぎているので、兄弟というよりは…」
兄弟よりは夫が欲しいのだと、口に出して言うことはさすがにできなかった。謙一はそこでさりげなく会場内を見渡して、急に話題を変えた。
「今日の来場者たちはけっこう若い人が多いようですね」
「あ、そうかもしれませんね。私は実はちょっと気後れがするんですよね」
「そうですか? 全然関係ないじゃないですか。僕は今31歳ですけど」
「私は32歳になったばかりなんです。先月誕生日だったので」
・→積極的な逸美……p.2
・→→謙一という男……p.3