防犯/防犯小説

見られてしまった“万引き”が思わぬ方向に… 人妻が落ちた真昼の奈落?第2回(3ページ目)

単身赴任中の夫が帰宅しないことになった日、奈美恵は口紅を万引きしてしまった。それを見ていた女性に声をかけられて、後悔していた。だが、連れて行かれた先で話は思わぬ方向に発展していく。

佐伯 幸子

執筆者:佐伯 幸子

防犯ガイド

需要と供給

携帯の番号を教えて
携帯の番号を教えて
「大丈夫よ。女であるだけ、主婦であるだけでいいの。需要と供給よ。元手はいらないし、そのままでいいのよ」
「でも…」
「だから、いやだったらいいの。別に無理には勧めない。でもね、たかが口紅ひとつ満足に買えないようじゃつまらないでしょ? 自分で稼ぐことができる。しかも、短時間でいい金額を。誰にも知られない。誰にも迷惑をかけないし」
「……」
「だから、とりあえず一度来てみたら? できるかどうかやってみたらいいじゃない。大丈夫よ。どうってことないわよ。ダンナさんとだってやってることだし。難しいことはないはずよ。別にね、断ったからって、あなたのやったことを告げ口したりしないし。でも、あんなことができる勇気があるくらいだから、できるはずよ。絶対」

とんでもないことを持ちかけられてしまった…。万引きのことを言わないとは言っても、知られていることに変わりはない。さらに、許されざる仕事の話まで勧められてしまった。万引きができるくらいならできる? そんなものだろうか?

「ダンナさんは、単身赴任でほとんどいないんでしょ? そういう人、他にもいるわよ。誰にもバレなければいいんじゃない? お金に違いはないし、自分のお金だもの。へそくりでもいいし、家族のために使ってもいいし。夫公認で家のローンに当てている人もいるしね。お子さんは、公立?」
「え、まぁ。ただ私立中学に行かせたいとは思っているけど…」
「ほらぁ。お金はいくらあっても足りないじゃない? だから、やってみてダメなら辞めればいいし、できるときにできるだけすればいいんだからさ。どう?」
「いや、どうって言われても。ちょっと考えてみたこともないので。それに私、もう若くないですから。そういう仕事は若い人がするものじゃないんですか?」
「だ・か・ら、需要と供給なのよ。人妻がいいって人もたくさんいるの。なにより安全だしね。二十代からいるけど、中には四十過ぎの人もいるのよ」
「えー? そんな…」

そんな年になってもそんな仕事を…と言葉を飲み込んだ。奈美恵は混乱していた。なぜこんな話になってしまったのか。冷静に頭の中を整理しようとしていた。自分にそんな仕事ができるだろうか? 夫とそれ以前の二人しか男性は知らない。子どもを二人産んではいても、人からは若いとかスタイルがいいとか言われることもあるが…。そこまで考えて、奈美恵はハッとした。まるでもうその“仕事”をするつもりになっているようではないか?

「あなたも携帯電話持っているでしょう?」
「え? あ、ええ」
「私の番号を教えておくから、その気になったら連絡して。私は宮下というの。あなたは? あ、下の名前だけでいいのよ。嘘の名前でもいいの。源氏名っていうかね。できれば「子」をつけて。ウチではみんな、ナニ子さんて「子」を付けた名前にしているのよ。そのほうが主婦とか人妻っぽいでしょ(笑)」

なるほど、と妙に感心しながら名前をどうしようかと思った。本名は使いたくない。だが、突然言われても源氏名など思い浮かばない。自分の名前の一部を使った。

「じゃあ、美恵子で」
「あらぁ、いい名前じゃない。美恵子さんね。大丈夫よ。みんなやっているから。場所は○○駅だから、ここから急行に乗れば20分もかからないでしょ。大きなターミナル駅だから人の数も多いし、絶対に誰にもわからないわよ。駅から5分くらいのマンションで便利だし。じゃ、私の番号言うから今すぐかけてみて。それで登録するから」



4p.迷 い
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