夫婦の決断
「仕方ないわよ。自分で撒いたタネだわ。でも、彼らにそんなことをさせないためにもこれはちゃんとけじめをつけるべきよね。警察に相談するしかないでしょう。私だって本当は許したくはないのよ。だけど悪いことをする人たちの方がもっと許せないの。私とあなたのことはそれからゆっくり考えましょう」
「すまない」
「私だって怒ってるわよ。だけど、こんなことで大切なあなたを失うのはもっと悔しくて、バカらしいことだと思う。あなただって反省しているでしょう?」
「もちろんだよ。あぁ、悪かった。本当に。もう二度とあんなバカなことはしない」
「とにかく事態がわかってよかったわ。もしまたお金を要求しに来たりしたらその場で警察に連絡すればいいと思うけど、それよりとにかく被害届を出しておいたほうがいいと思うのよね。さぁ、警察署に行ってすべてを話して。私は一緒に行かないわよ。子どもじゃないんだから」
妻の考え方にあらためて妻の心の広さを感じて、K介はすがりつきたいような気持ちだった。この女性を妻にしてよかった、とつくづく思った。ただ事態にパニックして興奮したり騒いだりせずに、冷静に物事を把握してよい解決方法を見つけだそうとする前向きな思考が素晴らしいと思った。
「ありがとう。正直に言って、オレ、離婚されるかとおびえてたんだ」
「何言ってるのよ、そりゃあ、私だってショックよ。でも、私があなたと結婚したのは、離婚するためじゃない。何があっても続けるためよ。いいときも悪いときも、助け合って生きていこうってお式のときに誓ったじゃない。それに私も仕事を言い訳に、あなたのことをあまりかまってあげなかった。私も反省しているのよ。『雨降って地固まる』って言うでしょ。これでもっと私たち、夫婦として強くなれるような気がするの」
そう言って、K介をじっと見つめる妻の目を見つめ返して、K介は体の中が何か熱い力で満たされるのを感じていた。
「キミを選んでよかった」
「フフフ。いつかあなたの“借り”は返してもらうわね」
「もちろん」
K介はシティホテルのある街の所轄署に相談に行って届け出をした。その後、何の連絡もないまま月が変わって、また新しい月になってからようやく警察署からの連絡が来た。その間に、別の事件が発生していたのである。
最終回・連載第8回テレクラの甘い罠~ヤツらの最後に続く
【連載第1回】テレクラの甘い罠~夫の言い訳
【連載第2回】テレクラの甘い罠~女からの誘い
【連載第3回】テレクラの甘い罠~シティホテル
【連載第4回】テレクラの甘い罠~インザルーム
【連載第5回】テレクラの甘い罠~深夜の訪問者
【連載第6回】テレクラの甘い罠~夜明けの苦悩
【連載第7回】テレクラの甘い罠~妻の覚悟
【連載第8回】テレクラの甘い罠~ヤツらの最後