嘘と事実
「だから、じゃないんだよ。事実があるんだろう? 事実が」
男のあくまでも押さえた口調がかえってK介に緊張を呼んだ。
「まさか、何もしませんでした、とは言いませんよね? タケダさん。ええ?」
(どう答えればいいんだ)と無言でいると、ナカニシはミサキの腕をグイッと引っ張った。
「あんたはオレの女をもてあそんだんだろ? オレのかわいい彼女をさー」
ミサキは両手で顔を覆っていた。
「いや、しかし、彼女は彼氏はいないって言っていたし」
「っざけんなよっ! タケダさん、あんた耳が聞こえないのか? たった今、オレの彼女だって言っただろう?」
「や、いや、だけど、そんなことは僕は知らないですよ。一人だって言ったから、それで」
「それで、何なんだ? それでヤッたって言うのか?」
まずいことを言い出してしまったと後悔した。自分からヤッたと言ってしまったようなものだった。だが自分には非がないと思い直して、強気に行こうと思った。
「僕には何のことかわからない。テレクラの電話で知り合って会うことになっただけで、大人同士のことだし、キミの存在は僕は知らなかった。ミサキさん、キミだって一言も言わなかったじゃないか」
「ちょっと待てよ。彼女が何を言ったか言わないかは関係ねぇだろ? どこで知り合ったかも関係ねぇ。問題はあんたがこの女と寝たかどうかだよ。それにな、大人同士って言ったよな? ふざけるなよっ!」
突然、声を荒げたナカニシの様子にビクッとなってK介は思わずバスローブの前をきつく合わせた。(ふざけるなって、何を言ってるんだ? なんのことだ?)
頭の中が混乱して、理解能力が激しく劣っているようだった。
「ミサキはな、まだ未成年だぜ。こいつは18歳の子どもなんだ。あんたは三十過ぎて、未成年と無理矢理ヤッたんだろっ!」
「無理矢理ってそんな…」
彼女の方が積極的だったと言いたかったが、それを口にすることも事実を認めることになる。下手なことは言わない方がいいと思った。
「しかし、彼女は自分で、短大を出たって言ってたし」
「タケダさん、何を言い訳だか、作り話だかしてんじゃないよ」
「いや、だって、ミサキさんがそう言ってたから。ねぇ、ミサキさん、キミ、短大を出たって言ってたよね?」
→物言わぬ証拠