よき夫
若い女性社員だけでなく年上の女性たちにも人気がある。情熱的な視線をK介に送ってくる女性もいるが、社内や仕事関係ではトラブルの元になるだけと割り切って、絶対に手を出さないようにしている。ときおり、(この女性なら)と思うこともあるが、自分の身が大切であることをよく理解している。
3年前に結婚した。相手は数年間交際したM子(32歳)で、やはり仕事のできるキャリアウーマンである。30歳になる前に結婚したいという彼女の希望だった。結婚しない理由はなかったし、K介が仕事をしていく上でも結婚していることは信頼につながることでもあった。既婚者であることは女性からのアプローチを避けることにもなった。
夫としては、年に二度の海外旅行につき合って、あとは「結婚記念日」と「誕生日」「クリスマス」などといったイベントに、適当なプレゼントを用意してディナーを一緒にすれば、妻は一切文句を言わなかった。互いに忙しいので、ウィークディは連絡事項以外の会話をすることはほとんどない。それでも週末は必ず一緒に過ごした。形としては「週末婚」に近いと思っている。
たまに週末にホームパーティを開くときに、ワインを注いだり、バーベキューをまかされたりという“夫”としての役割を果たさなくてはならないこともあるが、それもいやがらずに愛想良くこなす。友人たちの間では、「理想的な夫婦」と評されることも多いのだ。
互いに仕事上の責任が重くなり、つき合いも避けられない日常になってきて、妻とは同居人あるいは兄妹のようなあっさりとした関係になってきた。もちろん愛情はあるし、間違いなく夫婦なのだが、本来は他人同士でありながらむしろ肉親のような感覚になってきていた。だが、K介には不満があった。
→夫の不満
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