【連載第1回】出会い系サイト~嘘つきなメール
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悪 癖
夏のように暑いある6月の夕暮れに、ありふれたごく目立たない車が郊外型の大きなスーパーマーケットの客用の無料駐車場に入っていった。止まった車から中年の男が一人出てきた。カジュアルな服装をして、スニーカータイプの靴を履いている。ジャケットのポケットに左手を入れたままである。男は店内に入り、陳列棚を何気なく見ながら歩いていた。夕食の準備をするにはやや遅めの時間だがじきに安売りを始める時間でもあり、店内はそこそこの混み具合である。店員らは商品の陳列や呼び込みに忙しそうで、客は皆、商品を選ぶのに余念がない。
男は商品を見るふりをしながら、店内の凸面鏡の防犯ミラーや商品棚の後ろの鏡面に映った店内の様子もさりげなくチェックしながら、トイレのほうを伺って、トイレが無人であることを確認していた。男女共用のトイレである。人目のない瞬間を選んで、男は奥まった場所にあるトイレに入っていった。誰も男がトイレに入ったことを見てはいなかった。
入り口ドアと同じ壁面に洗面所があり、奥に個室が二つあった。奥の個室に入りカギをかけると用を足すでもなく、ジッと立ちつくしたまま、左のポケットからデジタルカメラを取り出した。スイッチをオンにする。セレクターボタンを押し、メモリの画像を再生して眺める。しかし、耳は澄ましている。
モニタにはこれまでのコレクションが映し出される。駅の階段、通勤電車内、書店やドラッグストアなどさまざまな場所での女性のスカート内部を写した写真ばかりである。レンタルビデオショップのやはり男女共用トイレの個室内での女性の姿態も映っている。つまり、男は“盗撮”の常習者であった。
ドアが開く音がして、突然、店内の喧噪が聞こえた。買い得商品の購入を勧める男女の店員の張り上げた声が入り混じって聞こえる。そしてそれらの音はドアが閉まるとまた急に遠くなった。かわりに女性の靴のヒールの音がはっきりと聞こえた。つっかけるようなかかとの音が、ミュールと呼ばれるサンダルだと男には見当が付いた。
とすると若い女性に違いない、と思って、男はボタンを押して撮影可能な状態にした。フラッシュがたかれないようにもう一度確認して、ドアをそっと開けた。足音がしないような靴を履いているので、気配はしないはずだ。
その店では過去にも盗撮したことがあり、トイレ内の位置やカメラの角度は研究済みである。個室のドアと床の間には5センチ程度のすき間がある。デジタルカメラは厚みが3センチ程度である。中にいる女性に気づかれない位置からデジカメを持った手を差し込んだ。
→発 覚!
→→逃 走
→→→証拠隠滅