予 感
「あのう、何か物音がというか、壁をドンッと叩くような音が聞こえたような気がしたんですけど、ただこちらも寝入っていましたので。何時頃だったか、本当だったかどうかもわからないのですが」「手帳に何か記録があるんですか」
「いえ、○月△日は学校は夏休みに入っていたので、その日はバイトをしていたんです。で、友だちなんかと食事やカラオケに行って帰ってきて、疲れてすぐに寝ちゃったと思うんです。なので、よく覚えていないんです」
「壁を叩くような音がしたというのは?」
「あのう、私、その時、夢を見ていたようで、現実だったかどうかわからないんですけど。ただちょっと気になったことはなんとなく覚えていて…」
「そうですか。おそらく、それは現実だったのかもしれませんね。ま、詳しいことは言えないのですが、お隣の女性がその晩、侵入被害を受けていると思われるんですよ」
「ええっ? 本当ですか?」
「窓を少し開けていたらしくて、男が侵入したんですよ。で、その男を今回、私どものほうで捕まえましてね。供述に従って、被害を確認しているんです。数十件の余罪というか犯行があるようで。ま、連続婦女暴行犯人ということなんですが。報道されましたけどね。新聞は見ていませんか?」
「あ、新聞は取ってないんです。じゃ、お隣の人は」
「被害届は出ていないんですがね。犯人はそれこそ日記のように、犯行を逐一ノートに書いてあったんですよ。で、昨年の○月△日にお隣で犯行があったというようなことが書かれてあったものでね」
あの晩の夢については、ずっと忘れていたが、じわじわとハッキリと思い出してきた。刑事さんたちに詳しく状況を聞くわけにもいかなかったし、彼らもそれ以上は話してはくれなかった。また、見た夢について話すこともしなかった。
しかし、A菜には、あのとき夢で見たことが現実に、壁を隔てた隣室で起きていたのだと確信できた。夢だと思っていたが、あのとき、自分が夢で体感したようなことが実際に起きていたのだと…。
夜、アパートに帰ってきて何気なく2階を見上げると、よく隣の部屋の窓が少し開け放したままだったことを思い出した。
あらためて外から見てみると、201号室は建物の端で、隣家との境界にある塀を伝えばすぐにベランダに侵入できそうだ。おそらく、犯人はそのようにして侵入したのだろう。
201号室と202号室の部屋の間取りは対称形になっている。A菜がベッドを置いた場所の壁をはさんで同じ位置に隣の部屋もベッドを置いてあったと思われる。開け放した窓から侵入した男が女性の首に手をかけて、そして…
→夢ではなく現実/窓は開け放さないこと!3p