真夏の夜の夢
女性専用アパートで |
ごく普通のアパートだが、防犯のために建物入り口にはオートロックがついている。しかし、周辺では“下着泥棒”の被害や、痴漢が出没するなどであまり治安がいい地域とはいえない。昔ながらの住宅街なので、道路が入り組んでおり、犯人が逃げやすいのだ。
梅雨が明けて一気に暑い日々が続くようになったある晩、バイト先の友人らと食事とカラオケを楽しんで帰宅した。未成年だがすでにお酒は飲むA菜である。かなりの量を飲んできて、愉快な気分だった。
シャワーを浴びてぼんやりとテレビを見ていたが、猛烈な眠気に襲われた。エアコンをいつものようにタイマーで1時間後に切れるようにセットして、電灯とテレビを消すと、吸い込まれるようにベッドになだれ込んだ。
どれくらいの時間が経ったのか、A菜は夢を見た。
南側にあるベランダの窓がゆっくりと開いた気配がした。金縛りにあったように、体が動かない。目を開けることもできないのだが、心臓がドキドキする。頭の中で
(夢よね。これは…。私はちゃんと窓のカギをかけたもの)
と、自分を納得させようとしていた。
黒い人影が足音をひそめて近づいてくる気配がする。男のようである。自分を見下ろしている様子がわかる。壁のほうに体を向けて寝ているのだが、その背中に痛いほどの視線を感じる。
ふと、視線と気配が離れる。カーペットの床の上を、スニーカーのようなゴム底の靴を履いた足がそっと進む。踏むときよりも、足の裏が離れるときの感じがわかるというか、かすかな音がする。心臓の音が大きくなって、自分の耳に響くようだ。
(夢だけど、もしかすると現実?)
自分の寝息も聞こえるようで、呼吸が大きくなっているように感じる。わずかな物音がした。男が床に置いたバッグを持ち上げたようだった。トートバッグなので、中に入れてある財布がすぐ見えるはずだ。
財布には学生証、運転免許証、クレジットカード、銀行のキャッシュカードが入っている。月末でいつもより現金も多い。その財布を盗もうというのだろうか?
→刃 物!/壁を叩く音2p
→→夢だった?/現実…3p