ケース2.女子中学生
制服を着た中学生くらいの女子生徒。少女向けの文庫本を1冊、コートの中に隠し、やはり店内を小走りに走って出ていきました。駅までの商店街の通りを走って行く彼女を追いかけました。駅前に出たところで立ち止まりコートから文庫本を取りだした彼女の肩を、ガッチリとつかみました。信じられないことに「へへへ、見つかっちゃった」と、笑ったのです。とにかく店まで、と連れて行きました。「名前は、住所は、学校名は」と問いただしても、「知らない、忘れた、言わない」と、のらりくらりとあまりにも態度が悪いので、警察に通報しました。
警察官が来てくれるまでの時間、少女は私に詰め寄り、「警察に言うなんて!」と、私に襲いかからんばかりでした。実際、恐怖を感じたほどで、警察官が到着したときに思わず「この子、私を脅したんですっ」と、訴えてしまいました。あとから13歳の中学1年生とわかり、保護者に連絡した旨を知らせてもらいました。
親が親なら…
その夜の閉店後、アルバイトや社員を皆、帰らせて、シャッターをかがめば入れる高さにまで降ろして、帰り支度をしていると、突然、中年夫婦がシャッターをくぐって入ってきました。
「ウチの娘がこちらで何かしでかしたそうで。状況を教えてください」と言うのです。
こちらは帰宅しようとしているのに、都合を聞こうともしません。仕方がないので、店内のその場所を示し、こちらが防犯ミラー(凸面鏡)で見ていて、少女がコートに本を隠して小走りに店を出ていった様子などを話しました。すると、
「ばかなヤツだ。せっかくいい私立中学に入ったのに。そんなことをすれば退学になるってことを知らないわけじゃないのに」と、父親が言います。
「ウチの子は、遅くできた一人っ子なのでつい甘やかしてしまって」と母親。「あの鏡で見られていることに気がつかなかったのね。だめねぇ」
まるで「見つかるなんてバカなことを。よくも見つけてくれたわね」とでも言いたそうな様子の両親に、こちらは言葉を失いました。手みやげひとつ持ってくるでなし(もちろんそんなものが欲しいわけではありません)、人の都合をたずねもせず勝手に説明を要求して、「ウチの子が行っているのはとてもいい学校」と、まったく無用のことを言う親。
そして、最初から最後まで、少女からも両親の口からも「申し訳ない。すみません」といった謝罪の言葉は一度も聞くことはできませんでした。
ケース3.中年男性
五十がらみの男。店にいたお客様から「男性が本を盗んだのを見た」と知らせを受け、隣の店舗の店先にあるワゴンの前にいた男を、男性店員と二人で両脇からはさんで「会計の済んでいないものがありますね。ちょっと事務所まで来てください」と店内に連れていこうとしました。先に男性店員、次に万引きした男、そして私が順に店内に入ろうとしていたのですが、
店員が入った直後、万引きした男がいきなり、店の外に向かって逃走しました。商店街を奥の方へ、猛烈な勢いで走って行きます。私は店内に向かって、「逃げた!」と叫んで、男を追おうと走り出しながら、「泥棒っ!ドロボー!」と叫びました。
夕方の商店街で行き交う人も多く、前方から近くの現場の工事をしている作業着の人が気がついて、男に足払いをかけてくれました。転倒する万引きした男。追いついた男性店員が、男を引っ立てて店の事務所に連れていきました。
すぐに110番をしたところ、隣の店でも110番通報をしてくれていたことがわかりました。じきに警察官が二人来てくれて、万引きした男は駅前の交番に連れていかれました。
男は四十代後半、妻と二人暮らしの共働き。子どもはいない。所持金は4,5千円。盗んだ本は8冊、金額は6千円弱でした。奥さんが身元を引き受けに来る、すべて買い上げるというので、それ以上は追及しないことにしたのでした。
お金を持っていないわけではないのだから、買える分だけ買えばよかったのに。共働きで子どもがいないのだから、普通に考えればお金にゆとりがないわけでもないはず。おまけに盗んだ本が、「頭のよくなる×××」「人生の○○○」「哲学の×○」といった内容の本ばかりでした。せいぜい「買った」本をよく読んでくれればいいなあと思ったものです。
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