高い勉強代
「うーん…しかし、みっともないな」「…そうですね。くそう。高い勉強代だな。二度と来るもんか」
「悪かったな」
「いや、おれの方こそすみません。誘ってしまって」
「これが、ぼったくりというやつか」
「コワイですね。もうこれで懲りましたよ。二度とああいう店には行きません」
約1ヶ月後、T橋さんのクレジットカードで20万円が引き落とされていました。めまいがしましたが、あの店に文句を言いに行く勇気もでないまま、あきらめることにしました。そういえば、
「あと、手数料をいただきますよ」
と言われたような気がします。
(10万円の手数料か)
あまりにも高い社会経験の勉強代だと思いましたが、やはりそれ以上はあきらめました。
それにしても…とT橋さんは思い返しました。あのとき、あの客引きに引っかからなければ…こんな思いをしないで済んだのに。もちろん、客引きの男と店の他の人物たちも皆ぐるに違いありません。すべて手順というか、段取りは決まっていたのでしょう。
よく考えてみると、自分たちがウマイ話に乗っただけです。彼らにとっては、カモがネギをしょってやってきた、という感じでしょう。ネギならぬ、キャッシュカードにクレジットカードといったところでしょうか。
ぼったくりの被害はこのT橋さんとY田さんのように、届け出ない人がほとんどなのです。届け出のあった件数の100倍以上は実数としてあるのではないか、とされています。
ある摘発された店の記録と、その店で被害に遭ったという届け出を調べてみたところ被害者の0.5%しか届け出ていなかったという話もあります。200人の被害者のうち、ひとりということでしょうか。
ある客引きの人が言ってました。
「だいたいねえ、どうして知らない人の言うことを信じるの? 子どもの時に言われたでしょ? 知らない人にはついていってはいけません、ってさ。おれらからしたら、ついてくる奴らの方が悪いっての。知らない人の言うことを信じてさ、金を取られたからって、誰を責めるって、そりゃ、自分を責めなさいよ、ってことよ。なーんであんなに簡単に見も知らぬ他人の言うことを信じるのかねぇ」
実はT橋さんにはさらなる被害が待っていました。傷心のT橋さんを襲った事件とは?
それは次の記事で。