クレジットカード!
「クレジットカードでもいいんですよ」と、その男がT橋さんのカードをひらひらさせました。
「銀行のキャッシュカードはないのか」
「入ってないですね」
人の財布を勝手に探りながら男が言いました。銀行のカードは妻が持っているのです。少しホッとしたT橋さんでしたが、
「じゃあ、カードで支払ってもらおうか。おい、サインしていただけ」
はい、はいと痩せた男がカードを持って部屋をいったん出ていきました。伝票を持って戻ってくると、手回しよくボールペンも持っています。
「ちゃんとサインしてくださいね、あ、ここですよ」
痩せた男は低姿勢で、サインする場所を指示しました。
(サインなんかしたくない。でも、そうしないとここを出られない。どうしよう。Y田は大丈夫かな)
いっそのこと、走って逃げようかと思いましたが、部下のY田さんのことが気がかりです。
ひとりだけ残して逃げるというのも、先輩としては申し訳ないし、怪我をさせられたり、まさか殺されでもしたら大変です。いやいやながらもサインしましたが、カードを返してくれたので少し安心しました。
服を返されて急いで着込みました。気がつくと女の姿はありません。Y田さんはどうなっているのでしょう。部屋を出ると誰もいません。店を出て周囲を見回しても先ほどの客引きの姿は見えません。Y田さんが心配で、しばらく待っていると、がっくりとうなだれたY田さんが出てきました。
「大丈夫か」
「T橋さんこそ」
二人で、歩き出しながら事情を話し合いました。Y田さんも同じような手口でしたが、銀行のキャッシュカードを持っていたので、暗証番号を言わされて、男がどこかのATMで現金を引き出してきたというのです。
「いくら払わされたんだ」
「まけてやるって言われて、10万円ちょうどだって。T橋さんは?」
「おれ? おれは…おれはいくらなんだろう? クレジットカードで払わされたんだ」
「明細書は?」
「くれなかったよ」
「じゃあ、いくら取られるかわからないんですね」
「そうだな…でも、君が10万円ならこっちもそうだろ」
「どうしましょう。警察に行きますか?」
→高い勉強代