「ヘンだなあ。何も用事はないと言われましたよ。さっきの人は他の家の人と間違えたのかなあ」
とK子さんに話しかけた。
「ああ、今日は大安だから多いですものね」
と話を合わせながら、受け付けたご祝儀袋を文箱に入れた。

「あっ!」
と、思わず息をのんで身体が硬直した。先ほどまで山のようになっていたご祝儀袋がない。漆塗りの文箱はスッカラカンだ。

「あのっ! ここにあったご祝儀は?」
と、○山さんを見ながら指で示したが、
「え? 僕は、今戻ってきたのですが」
たしかにそうだ。
「でも、さっきまであったのに」
あわてて受付台の下までのぞき込んだり、周囲を見回したが、見あたらない。

「どうしました?」
と○山さんが目を見開いて声をかけた。
「ご祝儀がなくなっている…」
両手で頬を押さえながら、K子さんはつぶやくように言った。

「さっきの男の人…」
すがるように○山さんを見た。
「どうしたんです? 説明してください」
と、目に緊張がよぎっている。

「盗まれたみたいです」
顔を寄せて手のひらで口を覆うようにしながらささやいた。

「ええっ?」
と○山さんも絶句した。
「どうしよう…」
「どうしようって…」

2人で顔を見合わせた。○山さんが
「警察だ。それより先に会場の責任者に言わないと」
と、会館のマネージャーの所に走って行った。

「当方では責任を負いかねます」
と、マネージャーは言った。
「しかし」
「でも」
と2人は目を見合わせたが、そこに

「そろそろ始まります」
と会場の係が告げに来た。新郎新婦とも満面の笑みで会場に入る様子を見ながら、2人は立ちつくしていた。

「おめでたい結婚の日にドロボウに遭うなんて!」
と、新郎の母親の刺すような視線ととげとげしい声にも、返す言葉はなかった。晴れの日にご祝儀をほとんど盗まれてしまい、受付の2人はなすすべもなく控え室でうなだれていた。

私服の刑事がやってきて、事情を聞かれた。
「ご祝儀ドロですね。よくあるんですよ」
とのことだった。男の風体を訊ねられたが、顔もはっきり思い出せない2人だった。


→ケース2/被害を防ぐために