老後は時間が増える一方で、「何をして過ごそう」と悩むこともあります。趣味を始めようと思っても、教室代や道具代、交通費などを考えると、なかなか踏み出せない人もいるでしょう。
今回は、60歳で定年退職したK子さんが、年会費500円の短歌講座をきっかけに見つけた、お金をかけずに楽しむ老後の過ごし方をご紹介します。

年会費500円。月1回だから気軽に始められた
K子さんは60歳で会社を定年退職し、その後は週4日のパートで働いています。
時間に少し余裕ができたため、「何か始めたい」と思ったものの、これといって好きなことがあったわけではありません。
考えていたことは「できるだけお金のかからない趣味にしよう」ということでした。
そんなとき、地元の自治体が主催する生涯学習講座の案内が届きました。いくつかある講座の中から選んだのが短歌。年会費は500円、活動は月1回です。「これなら続かなかったとしても、それほど惜しくない」そんな軽い気持ちで始めました。
講座では、月1回の活動日に向けて短歌を一首作って事前に提出します。当日は参加者の作品を並べ、互いに感想を述べたり、先生から講評を受けたりします。人の作品を味わううちに、短歌の面白さが少しずつ分かってきました。
短歌をきっかけに、新しい交流と世界が広がった
短歌講座のメンバーに、朗読グループに所属している人がいました。あるとき、「朗読会の発表会があるので、よかったらいかがですか」と誘われ、参加してみることに。こちらも無料でした。短歌を始めなければ、おそらく足を運ぶことのなかった場所です。
月1回の短歌講座に、こうした別の予定が加わることで、K子さんの生活にも少しずつ外出する楽しみが増えていきました。
そして短歌を1年ほど続けたころ、「もう少し上手になりたい」と思うようになりました。
先生に相談すると、いくつかの短歌結社を紹介してもらい、そのうちの1つに参加。年会費は1万2000円で、月に1回の歌会があります。これまでの月1回の講座と合わせ、短歌に触れる機会が月2回になりました。
吟行会で「同じ景色」から違うものが見えてくる
短歌結社には「吟行会」という活動があります。
吟行とは、みんなで街を歩いたり、景色を眺めたりしながら、そこで感じたことを短歌にする活動です。
同じ場所を歩いているのに、できあがる短歌は人によってまったく違います。
「そこを見ていたんだ」「そんなふうに感じるんだ」など、ほかの人の作品から、自分にはなかった視点に気づくこともあります。
それが、普段の街の見方にも影響するようになりました。「いつもの道でも、何か詠めるものはないかな」と考えながら歩くと、今まで気にもとめなかった景色が目に入ります。
短歌を作ることが、日常の散歩まで楽しみに変えてくれたのです。
1つの趣味から、知らなかった世界へ
短歌会で披露される作品から、新しい興味が生まれることもあります。
美術館や文化施設に行った人の作品があれば、「私も行ってみようかな」と思う。相撲を題材にした短歌があれば、相撲が気になる。サッカーのワールドカップや甲子園を詠んだ作品があれば「スポーツも短歌になるんだ」と面白く感じる。
こうして、短歌を始めたことをきっかけに、美術や文化、スポーツなど、これまであまり興味を持っていなかった分野にも目が向くようになりました。
「ちょうどいい交流」が心地いい
K子さんが短歌を続けて感じているのは、趣味を通じた人との距離感の心地よさです。
毎月、短歌会に行く予定がある。作品を作るために、何かを見たり、感じたりする。人の作品を読めば、新しい発見がある。自分の作品が選ばれればうれしいし、「ここをこうすると、もっとよくなる」と講評してもらえば、次の作品を考える楽しみもあります。
一方で、人との交流はほどほど。「短歌という共通の話題があるから話せる。それ以上でも、それ以下でもない。そのくらいの関係がちょうどいい」。K子さんにとっては、好きなことを通して自然に人と会い、必要以上に気を使わない関係が心地よいようです。
定年後は仕事を通じて人と会う機会が減りやすくなりますが、月に数回、共通の趣味を持つ人と顔を合わせることが、老後の孤独を遠ざけることにもつながっているようです。
老後の楽しみは、小さな一歩から
趣味というと、旅行やスポーツ、習い事など、ある程度のお金がかかるものと思うかもしれません。そんなときは、自治体の生涯学習講座などを探してみると、少ない負担で気軽に参加できる講座があります。
まずは身近で、無理なく始められるものを1つ選んでみましょう。そこから新しい人との出会いや興味が生まれ、思いがけない楽しみへと広がっていくこともあります。







