
愛子さまの将来や女性皇族のあり方が注目されるなか、皇室では皇族数の減少が大きな課題となっています。これは皇位継承だけでなく、国内外の公務や国民との交流にも関わる問題です。
女性宮家創設や旧宮家復帰などの議論が続く背景には、どのような事情があるのでしょうか。
この記事では、『教養として学んでおきたい日本の皇室』(西川恵・著/マイナビ出版)より一部を抜粋・編集し、皇族減少がもたらす課題を読み解きます。
悠仁さま誕生で変わった皇位継承議論
小泉首相は有識者会議の報告書に基づき、2006年1月、施政方針演説で皇室典範改正案を国会に提出する方針であると表明する意向を事前に示し、記者団との懇談でも「(有識者会議の結論に)理解は得られると思う」と語っていました。
しかしこの流れが突然、途切れます。翌2月、秋篠宮妃の紀子さまのご懐妊が発表されたのです。このため政府は皇室典範の改正案の国会提出を見送ることを決めました。
同年9月6日、紀子さまは第三子となる男子を出産され、「悠仁」と命名されました。皇室での男子誕生は秋篠宮さま以来41年ぶりで、この時点での皇位継承順位は徳仁皇太子さま、秋篠宮さまに次ぐ第3位となりました。
しかし一時的に安堵感は広がったものの、再び皇位継承問題が差し迫ったものとして認識されたのが徳仁天皇の即位でした。これより前の2017年6月、明仁天皇の退位等に関する「皇室典範特例法」が衆参両院本会議で可決・成立しました。
法案採決にあたっては「政府は女性宮家の創設など安定的な皇位継承のための諸課題について、皇族減少の事情も踏まえて検討を行い、速やかに国会に報告する」という附帯決議がなされました。
それから約4年たった2021年3月23日、菅義偉首相が設置を決めた、安定的な皇位継承のあり方を検討する有識者会議の初会合が開かれました。
冒頭、菅首相は「皇室典範特例法の附帯決議に示された課題について、国会に報告するように求められています。十分に議論し、さまざまな考え方をわかりやすい形で整理していただきたい」と述べました。
会議には清家篤(前慶應義塾長)、大橋真由美(上智大教授)、細谷雄一(慶大教授)、宮崎緑(千葉商科大教授)ら男女3人ずつ計6人が参加。清家氏が座長に就任しました。
本著を執筆している2021年6月末時点ではまだ報告書はまとまっておらず、読者の参考までに主たる論点を挙げるのにとどめます。
安定継承を巡る二つの選択肢と残された課題
皇位の安定的な継承のための具体策として、大きくは二つあります。
A案:皇位継承者の範囲を女性や女系まで広げ、女性宮家を創設する
B案:1947年に皇室を離れた旧宮家から男子(直系)を皇族に復帰させるか養子に迎える
A案は、小泉政権時代の有識者会議の報告書に沿った考えです。これに危機感をもった右派、保守派から出てきたのがB案で、旧皇族の復活論でした。
いずれも課題があります。A案は直系男子の伝統から離れることで、皇配(女性天皇の配偶者)の地位・称号の問題もあります。また女性宮家をそのまま認めていくと、戦前のように皇室の規模が膨れ上がっていきます。
皇室の適正規模をどうするかともかかわりますが、宮家創設の対象となる女性皇族の範囲をどこまでとし、また一代限りとすべきかも検討する必要があります。
もう一つ、人権のからみの課題もあります。結婚したら皇室を離れることを前提に育ってこられた女性皇族が、法律が変わったからと、急に皇室に残って宮家を創設するように言われることになります。
またもし皇籍保持・離脱についてご本人の意思を尊重するとした場合、皇籍保持を選択する女性皇族がいないという事態になることも考えられます。
一方、B案の大きな問題は旧宮家が皇籍を離れて70年以上も経っていることです。
70年以上も前に皇族を離脱した家系の男子を再び皇族とした上で、本人、もしくはその子供を天皇として国民が受け入れられるのかという問題があります。加えて旧宮家は現天皇の系統とは約600年も前に枝分かれしています。
旧宮家が皇籍を離脱したのは1947年です。敗戦という状況のなかで、現実的に皇室を維持できなくなったことがありました。連合国軍最高司令官総司令部(GHQ)から皇室財産を国庫に帰属させるよう指令があり、宮家を財政的に維持するのは困難になっていました。
この結果、内廷の皇族と、昭和天皇の弟である3直宮家(秩父宮・高松宮・三笠宮)だけを皇族として残して、11宮家の51人(男性26人、女性25人)が皇族を離れ、一般民間人となりました。
皇室と国民を結ぶ絆をどう守るか
象徴天皇制は国民の信頼が基礎となります。女性の社会進出がふつうのことになり、女性にもっと活躍してもらおうという流れが強まっています。また世論調査で約8割の人が女性天皇を容認しているなかにあって、保守派がこだわる「男系男子」で国民の合意が形成されるのは難しいといわざるを得ません。
エリザベス女王の夫君のエジンバラ公フィリップ殿下が2021年4月9日、逝去されましたが、同殿下はこういう言葉を残したといいます。
「欧州の君主制の多くが、その最も中核に位置する、熱心な支持者たちによって滅ぼされたのである。彼らは最も反動的な人々であり、何の改革や変革も行わずに、ただただ体制を維持しようとする連中だった」
ギリシャ王族の一員で、生後1歳半で軍部のクーデタによって家族とともに亡命を余儀なくされた同殿下が、成長する中で身をもって感じとったことなのでしょう。日本にとっても無縁の話ではないと思います。
一方、皇位継承や女性宮家創設問題とは切り離して、結婚によって皇籍を離脱して民間人となられた女性元皇族に、社会福祉や国際親善といった分野で、皇室としての公務を引き受けてもらえないかとの考えもあります。
これは皇族の減少によって皇室の国内外での活動が制約され、その結果、皇室と国民をつないでいる絆が細くなり、皇室の存在自体が危ぶまれることになることへの危機意識があります。
もっとも解決しなければならない課題もあります。公務に従事される間は、例えば特別公務員とするとしても、肩書をどうするか、また人的・経済的支援措置も考えなくてはなりません。皇族経験者の公的な活動が、国内外でどこまで積極的に評価されるかについても検討の必要があります。
右派、保守派には、この措置は女性宮家の一歩になりかねないとの警戒があります。有識者会議が皇位の安定的な継承のためにどのような報告書を出すか分かりませんが、女性元皇族に公務を引き受けてもらう点を書き入れる可能性もあります。
この書籍の著者:西川 恵 プロフィール
1947(昭和22)年長崎県生まれ。71年毎日新聞社入社。テヘラン、パリ、ローマの各支局、外信部長、専門編集委員を経て、2014年から客員編集委員。仏国家功労勲章シュヴァリエ受章。『エリゼ宮の食卓』(新潮社)でサントリー学芸賞。『ワインと外交』(同)、『知られざる皇室外交』(KADOKAWA)など著書多数。






