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「年商1300万でも自分のお金は月15万」月300時間労働の56歳女性店主が嘆く“自営業貧困”のリアル

夫との死別後に店を継いだ56歳の女性。年商1300万円でも、物価高と重い税金が経営を圧迫する。1日12時間働き続けても老後の不安が消えない、自営業者の切実な日常とは。※サムネイル画像:PIXTA

All About 編集部

仕入れ値の高騰や多額の納税に苦しみながら、1人で店を切り盛りする女性 ※画像:PIXTA
仕入れ値の高騰や多額の納税に苦しみながら、1人で店を切り盛りする女性 ※画像:PIXTA

「何のために働いているのか」――。確定申告のたびに重いため息をつく自営業者がいる。手元に残るわずかな利益を税金が削っていく、小規模店舗の非情な現実があった。

増田明利氏の著書『限界労働者 格差社会にあえぐ22人の生活』は、低賃金や重税にあえぎながらも懸命に生きる労働者たちの“生の声”を集めたノンフィクション。本書から一部を抜粋し、夫を亡くし50歳で未経験から飲食店の経営者となった女性の事例を紹介する。容赦ない公租公課の重みとブラック労働など、自営業者を追い詰めるシビアな現実に迫る。【前後編の前編/後編を読む】

目次

取材者プロフィール

荒川園子(56歳・仮名) 
最終学歴……1988年高校卒 
出身地……東京都練馬区 
現住所……東京都墨田区 
居住形態……持ち家 
職業……飲食店経営
収入……個人年収として約380万円 
家庭状況……夫とは死別、長男・次男は社会人
最近の大きな出費……差し歯の作り替え(2本自由診療) 20万6000円

「個人経営の小商いでも、商売をやっていると消費税を納めなくてはならないんです。わたし個人の所得にも所得税が課されるでしょ、確定申告をして納税額がはっきりすると気分が重たくなります。何でこんなに税金を払わなきゃならないのかと思います」

つい1週間前に確定申告を済ませた荒川さんは、憤懣(ふんまん)やるかたないという顔で愚痴をこぼす。荒川さんは墨田区内でご飯処兼一杯飲み屋を営んでいる。法人登記はしていないからまったくの個人商店で自営業ということになる。

夫が遺した寿司屋を継ぐ

「元々は夫と寿司屋を営んでいたんです。ところが夫が6年前に亡くなりまして、商売替えしてわたし1人で今の店をやっています」夫は病死で膵臓がんだったそうだ。診断が確定したときにはかなり進行しており、手術をして化学療法もやったが効果は薄かったという。

「生命保険には入っていましたし郵便局の簡易保険にも加入していたので、それなりの保険金は支払われました。それで当座の生活はできるけど、主人が亡くなったとき次男はまだ高校3年生、これから学費が必要になるわけだから働かないわけにはいかなかったんです」

そうは言っても30歳のときからずっと寿司屋の女将さん、経理ができるわけじゃないし、パソコンだって使いこなせない。

「ハローワークにも行ったんですよ、だけどそのときで50歳。特別な資格や特技はありませんから、病院の用務員とかビジネスホテルのお掃除さんぐらいしかなかった」

景気の良いときもあったから店舗兼住まいは遺してくれたし、寿司は握れなくても家庭料理なら何とかなりそうということで、現在の業態に衣替えして商いを続けることにした。「今は11時半から14時までがランチ営業、17時半から22時までは赤提灯という二毛作です」

客数は昼も夜も15人前後、大半がお馴染みさんだ。客単価は昼が平均1000円、夜は2000円前後。売上の合計はランチ営業で1万5000円、居酒屋で3万円前後、1日で4万5、6000円程度になる勘定だ。

「月25日で110万円台、1年だと1300万円を少し超えるぐらいの商いです。わたし1人で切り盛りしているのだからこれが限界ですね。まあ、良くやっている方だと思います」

売上の半分が経費で消える

年間1300万円はなかなかと思うが、内実はそうでもない。出ていくものが多いから。

「物価高の影響で原価率は40%近くになります。食材の仕入れで年間520万円もかかるんです。電気代も馬鹿みたいに高くなったから嫌になりますね。水道光熱費が毎月7万円だから1年間で85万円ぐらい払うんです」

消費税も重たい。申告はみなし仕入れ率60%の簡易課税方式で、納税額は約45万円。それに丼鉢が欠けたら新しい物を買うわけだし、調理器具も何年かに1回は買い替えなければならない。上がり座敷の畳表の交換、座布団の交換も2年に1度はやる。他にも雑費、消耗品代として年間で10万円前後出ていくので大変だ。

「売上が1300万円あってもあれやこれやで半分近くも出ていくんだもの、手元に残るのは650万円がいいところですよ」

「社会保険料控除(荒川さんの場合は事業者別の国民健康保険組合と国民年金)と生命保険料控除、基礎控除、必要経費を引いた申告所得は450万円ぐらいなものですね。これに所得税と住民税も払っているんです」

店と住まいは夫が遺してくれたが、固定資産税は年間7万円払っている。消費税、所得税、住民税、固定資産税の総計は100万円近い。自分でも驚く金額だ。

「とりあえず手元には380万円ほど残りますが、勤め人みたいな退職金はないし、年金だって微々たるものだから不安でしょ。1カ月当たり30万円使えるお金があっても、半分以上は老後のために貯金しています。だから自分のお財布に入れるのは毎月15万円が上限ですね」

1日12時間労働の過酷さ

昼の商いは11時半から14時までだが、下準備があるので10時には厨房に入る。一度暖簾を下げたら洗い物や、夜の商いに必要な食材の買い出しと下ごしらえもやらなくてはならないから、休む暇もない。

「昼と夜の間に1時間ほど休憩できるときもあるけど、なんだかんだで1日12時間前後も働いている。月25日営業すると、働いている時間は300時間ってことですよ。貧乏暇なしそのものだと思います」

もう少しお客の数が増えればと思うが、増えたら増えたで1人では対処しきれない。人を雇う余裕はないから今が精一杯なのだ。

「この3年は食材の値上がりが続いているので頭が痛いです」

肉、魚はもちろん小麦粉、食用油、味噌や醤油などの調味料も小刻みな値上げが繰り返されている。値上がりしないものは内容量が減っているので、実質的に値上げと同じ。

「野菜類は天候で左右されますから、先週は3本198円だった長ネギが、今日は1本98円ということもある。物価の優等生と言われている卵も3年前より5割近い上昇です」

昼の定食に出していた鰺の開き干しを国産のものから安いオランダ産のものに変えたこともあったが、脂の乗りが良くなく、味もしっくりこなかったので元に戻したこともある。

「うちみたいな個人営業だと、大量仕入れでコストカットするのは無理です。安い物を探してスーパーを駆け回っていますよ」

【後編に続く】
「赤字でも課税、これでは税金に殺されると思った」56歳女性店主が叫ぶ“自営業貧困”のリアル

著者:増田 明利(ルポライター)
1961年生まれ。1980年都立中野工業高校卒。ルポライターとして取材活動を続けながら、現在は不動産管理会社に勤務。2003年よりホームレス支援者、NPO関係者との交流を持ち、長引く不況の現実や深刻な格差社会の現状を知り、声なき彼らの代弁者たらんと取材活動を行う。著書に『今日、ホームレスになった』『今日、派遣をクビになった』『今日から日雇い労働者になった』『今日、会社が倒産した』『本当にヤバイ就職活動』『今日からワーキングプアになった』『貧困のハローワーク』『今日、借金を背負った』『お金がありません』(いずれも彩図社)、『不況!! 東京路上サバイバル─ホームレス、28人の履歴書』(恒友出版)、『仕事がない!―求職中36人の叫び』(平凡社)、『ホープレス労働─働く人のホンネ』(労働開発研究会)がある。

※記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。

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