
上場企業が過去最高益を記録する一方で、街の小さな店や工場は物価高と重税に押しつぶされようとしている。
増田明利著『限界労働者 格差社会にあえぐ22人の生活』は、低賃金や重い税金にあえぎながらも懸命に生きる労働者たちの“生の声”を集めたノンフィクションである。
本書から一部を抜粋し、1人で店を切り盛りする56歳女性店主の事例を紹介する。納税遅延時の容赦ないペナルティや、価格転嫁できずに税金を自ら「被って」納める小規模事業者の知られざる実態に迫る。【前後編の後編/前編から読む】
取材者プロフィール
荒川園子(56歳・仮名)
最終学歴……1988年高校卒
出身地……東京都練馬区
現住所……東京都墨田区
居住形態……持ち家
職業……飲食店経営
収入……個人年収として約380万円
家庭状況……夫とは死別、長男、次男は社会人
最近の大きな出費……差し歯の作り替え(2本自由診療) 20万6000円
周囲に漂う深刻な不況の影
店にやってくる馴染みの客も、景気の良い話はしていない。
「近隣には小さな事業所がいくつかあって、そこで働いている人たちや経営者の人もよく利用してくれるけど、みんな浮かない顔ですよ」
町工場の経営者が言うのは、仕事は戻ってきたけど工賃の引き下げ要求がきつい。今まで受けていた仕事を中国やベトナムに持っていかれた。従業員の人たちは給料もボーナスもほとんど上がらない。社会保険料が上がっているので手取りはずっと減り続けている、など。
「月曜日と木曜日に必ず寄ってくれるトラックのドライバーさんがいましてね、その人は、俺毎日2時間サービス残業でタダ働きさせられていると愚痴っています」
新聞を読むと、上場企業の株主配当が過去最高だとか、大卒新人の初任給を30万円以上に設定する会社が続出していると載っているが、どこの国の話なんだと腹が立ってくる。
赤字経営でも課税される消費税の怖さ
「先週中には消費税を払っておかないといけませんでした。消費税の怖いところは、たとえ赤字経営でも課税されること。商売をやっている身としては納得しがたいですね。一昨年は夫が眠るお墓を建て替えたり、実家の母の入院代を援助したりしたので、消費税の支払いがきつかったんです。それで分割でお願いできないか税務署に相談したんです。そしたら14.6%の延滞税が加算されるって言われましたよ」
銀行の利息が米粒ぐらいの時代に年利で14.6%とは高利貸よりひどい。泣く泣く帰宅し、定額預金を一部解約して納税したが、これでは税金に殺されると思った。
「小さな商売をやっているところは、お客さんから預かった消費税を国に納めているんじゃありません。値上げできない分を被って納めているんです」
消費税が8%から10%に引き上げられたときに、商店街にあった酒屋とクリーニング屋がもうやっていけないと廃業している。自分のところもいつまでやれるか心配だ。
【前編から読む】
「年商1300万でも自分のお金は月15万」月300時間労働の56歳店主が嘆く“自営業貧困”のリアル

著者:増田 明利(ルポライター)
1961年生まれ。1980年都立中野工業高校卒。ルポライターとして取材活動を続けながら、現在は不動産管理会社に勤務。2003年よりホームレス支援者、NPO関係者との交流を持ち、長引く不況の現実や深刻な格差社会の現状を知り、声なき彼らの代弁者たらんと取材活動を行う。著書に『今日、ホームレスになった』『今日、派遣をクビになった』『今日から日雇い労働者になった』『今日、会社が倒産した』『本当にヤバイ就職活動』『今日からワーキングプアになった』『貧困のハローワーク』『今日、借金を背負った』『お金がありません』(いずれも彩図社)、『不況!! 東京路上サバイバル─ホームレス、28人の履歴書』(恒友出版)、『仕事がない!―求職中36人の叫び』(平凡社)、『ホープレス労働─働く人のホンネ』(労働開発研究会)がある。






