
「新NISA? そんな余裕はない」――。国立大学を卒業しながら、度重なる不運でガソリンスタンド勤務となった34歳男性は語る。切り詰めた生活の果てに見えるのは、出口のない閉塞感である。
増田明利著『限界労働者 格差社会にあえぐ22人の生活』は、不本意な非正規労働や低賃金にあえぐ労働者たちの実態と、その切実な叫びを浮き彫りにしたノンフィクションである。
本書から一部を抜粋し、将来への希望を失い、かつての友人とのつながりさえも断ち切らざるを得ない「転職貧乏」の過酷な日常を紹介する。【前後編の後編/前編から読む】
取材者プロフィール
早川昇介(34歳・仮名)
最終学歴……13年大学卒
出身地……神奈川県相模原市
現住所……東京都荒川区
居住形態……賃貸アパート、家賃5万7000円
職業……ガソリンスタンド従業員
収入……月収約29万円
家庭状況……独身
最近の大きな出費……冷蔵庫の買い替え 6万7800円
奨学金と生活費で消える月給
今の生活に楽しみや張り合いはまったくない。仕事は楽しくないし、金銭的に恵まれていないから。
「お金のことで言うと、先月の振込額は24万3000円。家賃と水道光熱費、通信費の合計が7万4000円、奨学金の返済が約2万円あるので手元に残るのは約15万円。ギリギリというほどではないけど贅沢はできませんよ」
先月は奥歯の金冠が取れて歯科医院に5回通ったから1万4000円の出費、インフルエンザにも感染してしまったので内科クリニックに3回通って薬代込みで約6000円の治療費を払うことに。医療費は聖域だと思うが、痛い出費だった。
新NISAより明日のパン代
こんな状況なので貯金はあまりできない。引っかき集めても200万円がやっとだ。「証券会社から新NISAのパンフレットが送られてきたけど、投資に回せるお金はない。開封しないでゴミ箱に投げ捨てました」
生活の基本は倹約、倹約、また倹約。日課は閉店間際のスーパー回りで、あちこち行って処分価格に値引きされたものを拾い買いしている。
「アジフライが88円とか鰹の刺身が198円になっているんです、貧乏人は頭を使わないと駄目ですよ。俺は50代の主婦かよ、とときどき思ったりしますけど」
生活レベルが上がらないため、知人との交際の範囲はどんどん狭くなっていく。大学を卒業してから3、4年の間は旧友との交際が活発だったが、今はほとんどない。親戚付き合いも同様だ。
「困るのは結婚式の招待状が届くことです。去年2回、今年も3月にお呼ばれしまして。大学のゼミで一緒だった人とサークルの2年後輩の人なんですが、ご祝儀を包まなくてはならないですよね。まさか1万円なんてわけにはいかないし、自分にも多少の見栄があるから3万円包んだわけですが、自分には生活を左右するほどの大金です」
現状では自分も伴侶を見つけて祝福されることはないと思う。人の幸せな姿を見て笑いながら拍手をしていても、気持ちは複雑だ。
将来に対しての不安も大きい。まず今の仕事がずっと続けられるか分からない。今度また失業したら次はないだろう、長期アルバイトや製造業派遣、さもなくば飲食関係か介護関係くらいしか行き場がないと思う。
再チャレンジできる社会というが、現実には一度でもしくじったら修正は難しい。そう痛感するのだ。
【前編から読む】
「一部上場から転職5回、国立大卒の看板は通用しない」GS勤務34歳が嘆く“高学歴貧困”のリアル

著者:増田 明利(ルポライター)
1961年生まれ。1980年都立中野工業高校卒。ルポライターとして取材活動を続けながら、現在は不動産管理会社に勤務。2003年よりホームレス支援者、NPO関係者との交流を持ち、長引く不況の現実や深刻な格差社会の現状を知り、声なき彼らの代弁者たらんと取材活動を行う。著書に『今日、ホームレスになった』『今日、派遣をクビになった』『今日から日雇い労働者になった』『今日、会社が倒産した』『本当にヤバイ就職活動』『今日からワーキングプアになった』『貧困のハローワーク』『今日、借金を背負った』『お金がありません』(いずれも彩図社)、『不況!! 東京路上サバイバル─ホームレス、28人の履歴書』(恒友出版)、『仕事がない!―求職中36人の叫び』(平凡社)、『ホープレス労働─働く人のホンネ』(労働開発研究会)がある。






