今回はAll About編集部に寄せられたエピソードの中から、「瓶ビールの注ぎ方」についてAll About ビジネスマナーガイドの美月あきこが解説します。
ビールはラベルを上にして注ぐべき?
All About編集部が実施した「ビジネスマナーに関するアンケート」では、“ビールの注ぎ方”に関するマナーについて、さまざまな声が寄せられました。まずは、「知らずに恥ずかしい思いをしたことはありますか?」という質問に対して30代女性はこう回答。
「ビールを注ぐ際にラベルを上向きにして注ぐということ。身内でお酒を飲む人間が1人もおらず飲みの席への縁が無く全く知識がなかった。後日こうやって注いだ方がいいんだよと指摘されて初めて知った」(30代女性/熊本県)
一方、このビールを注ぐときにラベルを上にすることについて、疑問に感じる、不要だと言う人も。
「宴会などで上司など目上の人には瓶ビールのラベル側を上にした状態でグラスにビールを注ぐというマナーは、何の意味があるのかわからない」(40代女性/福島県)
「瓶ビール等を注ぐときにラベルを上にして注ぐ。一応注ぐときに気にはしますが、実際ラベルの向きなんて気にしている人なんていないと思う」(20代女性/兵庫県)
「乾杯の時は部下は下にグラスを合わせるやビールのラベルが見えるように注ぐ等の、飲み会での謎マナーがあるが必要ないと思う」(50代女性/福岡県)
「ラベルを上に向ける」実は意味がある
瓶ビールを注ぐときに「ラベルを上に向ける」。この所作には、実は意味があります。「この銘柄をお持ちしました」「あなたのために注いでいますよ」という気持ちを、さりげなく伝えるもてなしの所作です。
これは、ワインの注ぎ方から派生したものだと考えられます。ワインのラベルは、その“ボトルの顔”です。ラベルが相手に見えるように注ぐのが世界共通のマナーであり、液だれによる汚れを防ぐ意味もあるのです。こうした所作が、瓶ビールに応用されてきたのかもしれません。
なお、飲食サービス業や接待を伴う業種などでは、こうした所作がマニュアルや教育研修の中に正式なサービス手順として組み込まれています。仕事としてお客さまにお酌をする立場にある人にとっては、「ラベルの向き」は職業上の基本スキルです。こうした業務上必要なマナーは“印象”ではなく“信頼”に直結するため、より丁寧な所作が求められます。
相手を思いやる“選択肢”の1つ
ところで、缶ビールの場合は、注ぎ口とラベルの向きが自然に整うようにデザインされています。缶を持って注ぐだけで、相手にラベルが見えるのです。これは、マナーを意識せずとも気配りが伝わるように設計されていると言えます。とはいえ、令和の今、価値観は多様化しています。「気にしたことがない」「形式的すぎる」との声も増えていますし、無理な誘いやお酌の強要も、パワハラやアルハラと受け取られる時代です。
そのため筆者は、TPOに応じて柔軟に振る舞うためにも、マナーは“知識として持っておく”ことが大切だと考えます。目上の方と同席する場では、周囲に合わせ、相手に対する敬意の表れとしてラベルを上にして注ぐ。気の置けない仲間との場では、形式にとらわれず、リラックスして注げばいいのです。
マナーとは押しつけるものではなく、相手を思いやる“選択肢”の1つです。
知っているからこそ、柔軟に対応できる、それが今の時代にふさわしいマナー力だと筆者は思います。
<調査概要>
ビジネスマナーに関するアンケート
調査方法:インターネットアンケート
調査日:2025年5月12日
調査対象:全国20~60代の250人(男性:90人、女性:158人、その他:1人、回答しない:1人)
※回答者のコメントは原文ママ
※20歳未満の飲酒は法律で禁止されています