就業ドレスコード緩和の根底にある「大きな課題」
日本企業は長らく、画一的な価値観を社員に植え付けることで組織の統制をとり、企業としての総合力を向上させ発展を遂げてきたという歴史があります。その過程において服装や髪型というものは、就業意識や帰属意識を定着させる最も基本的なものとして、重視されてきたのです。特に接客サービス業では、お客様に対して統一感のある対応姿勢を示す上で欠かせないものでした。すなわち、就業ドレスコード緩和により若手スタッフのモチベーション向上や若年層採用促進でのメリットが見込まれる一方で、企業経営としては対顧客サービス上で欠かすことのできない帰属意識やプライドといったものを、いかに今の時代に合ったものに置き換えていくか、という新たな課題が提示されているとも言えるのです。
Apple Storeやスターバックス コーヒーのようなブランド力の強いストアでは、いかなるルール変更があろうともスタッフには変わらずその職場で働くプライドや自負が醸成されるので、帰属意識や求心力の維持は容易です。しかし、古くからのチェーンストア等で長年定着した接客ルールを緩めるケースでは、接客サービス水準の維持向上を図るためには、併せて何らかの対応が必要になるのではないかと思うのです。
つまり、就業ドレスコードの緩和によって個々人が個性を主張できる体制は整ってはくるものの、その個性を確実に組織にとってプラスに生かすためには、別の仕掛けが何か必要になるのではないか、ということです。そこに必要なものは、どのような変化があっても、スタッフが皆同じ方向を見て顧客サービスに向き合えるか、という問いかけに対する回答でもあります。
今ビジネス界で、自分たちの会社が何のために存在しているのかを1人ひとりが自分事として考える「パーパス経営」が注目され、それを取り入れる企業が増えています。これは、ダイバーシティやSDGs的な考え方が浸透してきた新しい時代の反映とも言われているのです。就業ドレスコードの緩和は、まさしくこの流れの真っただ中にある動きではないかと思うのです。
就業ドレスコードの緩和は単なる髪型やヘアカラーの自由化にとどまるものはなく、実はその根底には時代のうねりへの対応という大きな課題が横たわっているのです。そういった目で新たな動きを見せている各社の接客サービスを見てみると、髪型やヘアカラーだけではない変化に気が付くかもしれません。
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