労務管理

サービス残業の温床? 「固定残業手当」の正しい適用・「就業規則」の確認方法を社労士に聞く

「固定残業手当」、適正に処理されていますか? トラブルになりやすい「固定残業手当」について特定社会保険労務士が解説します。

小岩 和男

執筆者:小岩 和男

労務管理ガイド

「固定残業手当」とは

「固定残業手当」をサービス残業の温床にしないために

給与計算の簡素化のため残業代を固定で支給している企業があります。適正に処理されていればもちろん問題ありませんが、法定(労働基準法)ルールで計算した結果、固定額を上回った場合、追加額を支給しなければなりません。トラブルになりやすい「固定残業手当」について確認しておきましょう。
 

「残業代は固定なので追加支給なし」はNG

「固定残業手当」とは、一定時間分の時間外労働、休日労働および深夜労働に対して定額で支払われる割増賃金のこと。定額残業手当・みなし残業代等と呼ばれることもあります。なお固定残業手当は、基本給の中に組み込む方法と基本給とは別の手当として支払う方法があります。

給与計算を簡素化するため、実際の残業時間にかかわらず、この「固定残業手当」で割増賃金を支給している場合、処理が適正になされていればもちろん問題ありません。残業時間が少なく一定時間未満であっても定額支給されます。
 
問題は法定(労基法)ルールで計算した結果、この固定額を上回った場合に追加額を支給しなければ違法となるということです。固定額の設定は実態に合ったものにしないと、上限額(固定額)があるからといって、いわゆるサービス残業の温床となってしまいます。
 

「固定残業手当」導入のための3つのポイント

適法に固定残業手当を導入するには、まず就業規則等に「時間外割増相当分として支給する」旨の記載をすることが必要です。次の3つを記載しておきましょう。なお、3の追加支給は翌月に繰り越しての相殺処理はできませんのでお間違いなく(※固定残業手当が20時間分だとして、当月23時間残業した場合に、次月の残業を17時間に抑えることで残業代の支給を相殺しようとする、など)。
 
  1.  固定残業手当を除いた基本給の額
  2.  固定残業手当に関する労働時間数と金額等の計算方法
  3.  固定残業時間を超える時間外労働、休日労働および深夜労働に対して割増賃金を追加で支払う

<NG記載例>
就業規則等の次のような記載は誤りです。自社就業規則等をチェックしておきましょう。
  • 「固定残業手当は給与に含む」(金額、何時間分かともに不明なため×)
  • 「営業手当(固定残業代)7万円」(何時間分か不明なため×)
  • 「給与20万円(固定残業手当20時間分を含む)」(固定残業手当額が不明なため×)

<OK記載例>
  •  基本給:20万円(固定残業手当を除く額)
  •  固定残業手当:3万2000 円(時間外労働の有無にかかわらず、20時間分の時間外手当として支給)
  •  20時間を超える時間外労働分についての割増賃金は追加で支給

ハローワークにおける、求人票の記載内容と実際の労働条件の相違に対する申出・苦情で一番多いのが「賃金に関すること(固定残業代を含む)」です。働き手からして、賃金は労働条件の中でも一番の関心事。公的データを見てみても、実労働時間に相当する賃金が支給されていないトラブルが多数発生しています。

雇用主側も労働者側も今一度、就業規則を確認してみましょう。

<参考>
固定残業代を支払うこととすれば、残業や休日労働をさせても別途に残業代を支払わなくてよいでしょうか?(厚生労働省)
固定残業代を賃金に含める場合は、適切な表示をお願いします(厚生労働省)
 
<おすすめ記事>
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