労務管理

「残業代なし」「45時間超残業」を丸め込まれてない? 「裁量労働制」の正しい適用を社労士に聞く

「裁量労働制だから残業代なし」「月45時間超の残業代なし」「一定以上の役職者は自動的に裁量労働制」としている事業場を見受けます。法律違反になっていませんか? 裁量労働制の正しい適用を解説します。

小岩 和男

執筆者:小岩 和男

労務管理ガイド

裁量労働制とは

「裁量労働制」を盾に違法な労働を強いていませんか?

 「裁量労働制だから残業代なし」「いくら残業させても問題ない」と認識されている事業場を見受けます。この取扱い、実は正解・不正解の両面があります。採用できる業務や残業代などの正しい処理方法を特定社会保険労務士が解説します。
 

そもそも裁量労働制とは? 採用できる業務に定めがある

「裁量労働制」とは、実際に働いた時間に関係なく「あらかじめ労使間で定めた時間を労働時間とみなす制度」のこと。どんな業務でも採用できるわけではなく、業務の性質上そのやり方を大幅に従業員の裁量に委ねる必要のある業務で採用することができ、業務範囲は「専門業務型」と「企画業務型」の2つに限定されています。そのため業務範囲に関係なく一定以上の役職者を一括りに裁量労働制としている場合は問題あり。この2形態に該当しない場合は、裁量労働制は採用できません。
 
(1)専門業務型裁量労働制の対象業務は「研究開発等の19業務」のみ
「専門業務型裁量労働制」は、研究開発業務等の19業務に限り、事業場の過半数労働組合又は過半数代表者との労使協定で定める時間(みなし労働時間)労働したものとみなす制度です(労働基準法第38条の3)。19業務以外の業務で採用している場合は法律違反となります。

<参考>
専門業務型裁量労働制(厚生労働省)
 
(2)企画業務型裁量労働制の対象業務は「企画・立案・調査・分析」の業務
「企画業務型裁量労働制」は、事業運営について、企画・立案・調査・分析の業務で採用でき、あらかじめ労使委員会で定めた時間(みなし労働時間)を労働時間とみなす制度のこと(労働基準法第38条の4)。業務がかなり限定されています。労使委員会は使用者と労働者代表で構成(委員の半数は事業場の過半数労働組合又は過半数代表者に任期を定めて指名されている者)します。

<参考>
企画業務型裁量労働制(厚生労働省)
 

裁量労働制の“悪用”に注意! 割増手当未払い・45時間超(特別な事情がある場合の例外あり)の残業は法律違反

裁量労働制では、あらかじめ定めた労働時間分の給与が支給されます。例えば、あらかじめ定めた労働時間(みなし労働時間)が8時間の場合、8時間を超えて労働(例:9時間)しても時間外割増手当は発生しません。一方で、平日に、事業場であらかじめ定めた労働時間が9時間であるなど、法定労働時間(1日8時間、週40時間)を超える場合は、時間外手当を含んだ給与が支給されていなければなりません。ポイントは事業場の実態を勘案してみなし時間を設定することです。

また、裁量労働制であっても、労働基準法に反して労働時間を超過させることはできません。時間外労働には「月45時間、年間360時間まで」と上限(臨時的な特別の事情がある場合の例外あり)が定められているので、裁量労働制であっても、それを超過する労働時間を強いることは法律違反となります。

加えて誤解が多いのが、法定休日や深夜時間帯の労働です。当該日や当該時間帯に勤務した場合は、休日割増手当や深夜割増手当が発生するのでお間違えなく。
 

要チェック! 2024年4月1日以降の裁量労働制の導入・継続には新たな手続きが

また、2024年4月1日以降の導入・継続には注意が必要です。今までの対応方法だけでは足りず新たな手続きが必要となります。上記2形態の導入・継続には、本人の同意を取る・同意の撤回の手続きを定めるなどして労基署に協定届、決議届が必要になります。

<参考>
裁量労働制の導入・継続には新たな手続きが必要です
裁量労働制の概要(厚生労働省)

<参考記事>
これからの外勤従業員の労働時間管理に要注意!
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※記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。

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