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『かもめ食堂』のイメージを払拭したい!荻上直子監督が“宗教”にのめり込む主婦を描く衝撃作『波紋』(5ページ目)

映画『かもめ食堂』『川っぺりムコリッタ』などを手がける荻上直子監督の最新作『波紋』。夫が失踪後、宗教にのめり込んだ主婦の生き方を描いた本作について、荻上監督にインタビューしました。画像:(C)2022 映画「波紋」フィルムパートナーズ

斎藤 香

執筆者:斎藤 香

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日本の映画界の改善点

――現在、動画配信サービスのオリジナル作品も含めて日本映画がたくさん制作されていますが、そういう現状について監督はどう思われていますか?
 
荻上監督:映画作りができるのはとても良いことなのですが、やはり制作費がネックですね。予算が少ないと結局そのしわ寄せが撮影現場に来るんです。短期間で撮影しないといけなくなるので、必然的にスタッフも俳優たちも1日の労働時間が長くなります。
 
海外の撮影現場のように、1週間のうちに体を休める日がきちんと設けられていたり、1日の撮影時間が決められていたりというように、スタッフや俳優たちが万全の状態で撮影に臨めるようにしたい。そのためにも撮影現場の改善はまだまだ必要だと思います。

――なるほど。最近はNetflixやAmazon prime ビデオなど、動画配信サービスでも映画制作が行われています。荻上監督もAmazon Originalの『モダンラブ・東京~さまざまな愛の形~』(2022)で、エピソード4は監督と脚本、エピソード7は脚本を担当されましたよね(アニメーション作品『彼が奏でるふたりの調べ』山田尚子監督作)。そういった動画配信サービスの作品を監督することなども視野に入れていますか?
 
荻上監督
:オファーがあればやりたいですが、でもやっぱり私は映画館で観る映画が好きですね。自宅でどれだけプロジェクターやスクリーンに凝って準備したとしても、やはり映画館にはかなわないです。

自分も映画は映画館で見ますし、私の映画も映画館で見ていただきたいと思って作っています。やっぱり私は大きなスクリーンで見る映画が大好きなんです。
 

荻上監督が影響を受けた監督は?

――それだけ映画好きになったのは、いつからですか? 子どもの頃から映画好きだったのでしょうか?
 
荻上監督
:父がすごく映画が好きで、よく映画館に連れて行ってもらいました。大学時代は写真について学んでいたのですが、写真はうまい人がたくさんいるし、映画を勉強してみようとアメリカの大学で映画製作を学んだんです。
 
――影響を受けた監督はいますか?
 
荻上監督
:たくさんいますが、好きな監督は、フィンランドのアキ・カウリスマキ、アメリカのジム・ジャームッシュ。ジャームッシュ監督の『パターソン』(2016)という作品はとても良かったです。そうそう、デヴィッド・リンチ、ジョエル&イーサン・コーエン兄弟も好きですね。
  ――なるほど。荻上監督の作風と近い感じがします。
 
荻上監督
:それはうれしいです。脚本に取りかかる時、イメージに近い作品をいろいろ見ることにしているんです。『波紋』は最初、『アメリカン・ビューティー』(1999)みたいな物語をイメージしていたので見直しました。あとプロデューサーにおすすめを聞いたりして、いろいろな映画を何度も繰り返して見たりします。
  ――仕事抜きでプライベートでもよく映画を観に行ったりしますか?
 
荻上監督
:よく行きますよ、サービスデーなどを利用して(笑)。1日3本ハシゴすることもあります。
 
最近ではヴァルディミール・ヨハンソン監督の『LAMB/ラム』(2021)が面白かったです。羊飼いの夫婦が羊の出産に立ち会うと羊ではない何かが生まれてくるという物語。「よくこんなアイデアを思いついたな」と。とにかくいい意味で変な映画でした。

あと『逆転のトライアングル』(2022)も良かった。リューベン・オストルンド監督のこれまでの作品もいいですね。
 
巷の評判がいまひとつでも、映画の良し悪しは自分が決めるものなので、自分の感性を信じて選んでいます。『LAMB/ラム』など周りの評価はそれほど高くはありませんが、私にとっては星5つ満点です!
    ――最後に、映画『波紋』を楽しみにしている読者に向けてメッセージをいただきたいです。個人的には主婦の皆さんにおすすめしたい映画だと思っているんですが……。
 
荻上監督
:昭和世代の専業主婦の方の中には、夫の給料で家庭を回していくのが普通のことで、共働きなんて恥ずかしいという感覚の方がいらっしゃると思います。でも今の若い世代は、共働きは恥ずかしいなんて思っていない人も多い。私は仕事をしてお金を稼ぐことは、自分のアイデンティティを保つために必要だと思うんです。
波紋

(C)2022 映画「波紋」フィルムパートナーズ

どの世代の方が見ても響く映画になっていると思いますが、特に子育てが終わり、やりたいことが見つからない、何をしていいのかわからないという主婦の方は、ぜひ見ていただきたいですね。家族から解放されて自立するとはどういうことか。依子の生き方は反面教師として、興味を持っていただけるのではないかと思います。

取材・文/斎藤 香
 

荻上直子(おぎがみ・なおこ)監督のプロフィール

千葉県出身。2003年に長編映画『バーバー吉野』で監督デビューし、ベルリン国際映画祭児童映画部門特別賞を受賞。2006年『かもめ食堂』が大ヒット。翌年にリリースした『めがね』も高評価。海外の映画祭に出品され、ベルリン国際映画祭パノラマ部門マンフレート・ザルツゲーバー賞を受賞した。もたいまさこ以外は海外のキャストを起用して制作された『トイレット』(2010)では芸術選奨文部科学大臣新人賞を受賞。そのほかの監督作として『彼らが本気で編むときは、』(2017)『川っぺりムコリッタ』(2022)がある。
 

『波紋』(2023年5月26日公開)

波紋

(C)2022 映画「波紋」フィルムパートナーズ

須藤依子(筒井真理子)は、美しい庭を毎日丁寧に手入れしながら、自身が入信している新興宗教の勉強会に向かう日々を送る。息子の拓哉(磯村勇斗)が自立して家を出てからは、ひとり穏やかに過ごしていました。ところがある日、10年前に失踪した夫の修(光石研)が突然帰宅します。がんになったから治療費を支援してほしいと言うのです。加えて、息子の拓哉も帰省しますが、彼は障害のある恋人を伴っていました。依子は心に湧き上がる黒い感情を信仰心で押さえつけようとするのですが……。
 
監督・脚本:荻上直子
出演:筒井真理子、光石研、磯村勇斗、安藤玉恵、江口のりこ、平岩紙、津田絵理奈、花王おさむ、柄本明、木野花、キムラ緑子
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