ストレス

荷下ろし症候群の乗り越え方…仕事・育児・介護後の無気力

【公認心理師が解説】仕事や子育て、介護などから解放された後、突然むなしくなり、無気力感におそわれることがあります。こうした不調は「荷下ろし症候群」と呼ばれるものです。とてもつらいものですが、乗り越えれば前向きに生きる気力がよみがえります。 荷下ろし症候群を乗り越える2つのポイントをご紹介します。

大美賀 直子

執筆者:大美賀 直子

公認心理師・産業カウンセラー /ストレス ガイド

仕事・子育て・介護がおわり……ほっとするとともに襲われるむなしさ

荷下ろし症候群の乗り越え方…仕事・育児・介護後の無気力

懸命に頑張ってきたことがおわり、ほっとしたのもつかの間、むなしさが押し寄せ、やる気が起こらない……。それは「荷下ろし症候群」によるものかもしれません


これまで仕事にがむしゃらに励んできたが、役職定年や定年退職、プロジェクトの終焉などを境に、暇をもてあます日が増えた。「あの忙しい日々はいったい何だったのだろう」とふと思ってしまう……。
 
子どもたちが成人、社会人となり、それぞれに自立。「手が離れてよかった」と思う一方で、無性にさびしい気持ちにとらわれてしまう……。
 
長年つづけてきた介護が終わり、忙しさから解放されてやっと一息。これからようやく色々なことができると思っていたのに、何もやる気が起こらない……。
 
中高年になると、上のような複雑な心境をおぼえ、つらく感じる人が増えていくようです。仕事や子育て、介護などの責務から解放され、ほっとすると同時に、むなしい気持ちやさびしい気持ちが押し寄せ、憂うつになってしまう。このような状態になる方は少なくありません。
 

重い荷物を下ろしたあとのように、無気力になる「荷下ろし症候群」

こうした状況のときに注意したいのが、「荷下ろし症候群」です。背負いつづけてきた重い荷物を下ろしたときのように、緊張感から解放されるとともに気が抜けてしまい、無気力になりやすくなる心身の状態です。
 
「休日も返上して全力で働いてきたのに、結局なにも残らなかったのではないか……」
「子どもはあっさりと親元を去ってしまった。何のために苦労してきたのだろう……」
「家族がいなくなった今、いったいなにを心の支えに生きていけばいいのか……」
 
このように、「自分は何のために生きているだろう」と考え続け、答えが見つからずに虚無感におそわれる方もいます。体を休めても疲労感がとれず、よく眠れない、食欲がわかない方も少なくありません。
 

なにもしたくない、人に会いたくない……家にこもり老化が進むことも

暇になったらやってみたいこと、行ってみたい場所がたくさんあったのに、時間ができた今、何を見ても心が動かされず、どこに行っても心が満たされない……。その思いのギャップに戸惑い、「どうしたらやる気が出るのだろう」とため息をつく方もいるでしょう。
 
人に会うのもおっくうで、友だちに誘われても行きたくない、行ったところで憂うつな表情を見せるのはつらい、繰り言ばかり聞かせてしまいそう。そう思い、人と会うことに躊躇してしまう方も多いものです。そのため、家にこもる時間が増え、ぼーっとすごしているうちに足腰も体力も衰え、老化が進んでしまう方も少なくありません。
 
上のような状態がつづいている場合、うつ病などの心の病の可能性もあるので、まずは心の専門医に相談することをお勧めします。同時に、このつらさを楽にするためのヒントを2つお伝えしますので、ぜひ参考にしてみてください。
 

1)一度、立ち止まって自分にとっての「正しい生き方」を見出す

荷下ろし症候群に苦しむ方には、それまでやりたいこともがまんし、全力で走りつづけてきた人が多いのではないでしょうか。今は、自分なりの「正しい生き方」を見出すための模索期間だととらえてみましょう。
 
自分なりの「正しい生き方」を知るには、立ち止まって考えるのがいちばんです。「正しい」という字を分解してみてください。「一」と「止」で構成されていますね。この字の構成からも、今の自分にとって何が正しいのかを理解するには、「一度、止まる」ことが必要だといえるのではないでしょうか。
 
「何もやりたくない」「何にも興味がそそられない」という思いは、無理に何かをしようとせず、止まってゆっくり考えたいという心のサインなのかもしれません。
 

2)少し興味を感じたことを「歩くペース」でやってみる

1)を意識して過ごしていると、心のなかから「なぜかこれが気になる」「ここに行ってみようかな」といった思いが、ふと湧いてくるものです。そう感じたら、ぜひできることからやってみましょう。
 
気になる場所を訪れる、読みたい本を読む、食べたいものを食べる……。一つひとつはささいなことかもしれませんが、つなぎ合わせていくと、今の自分が求める「正しい生き方」が鮮明に浮かび上がってくるかもしれません。
 
ただし、心がけたいのは「歩くペース」でおこなうことです。時間がないからさっと、あるいはなにかのついでに漫然とやるのではなく、歩くペースで一つひとつのことをゆっくり、じっくりやってみることです
 
ちなみに、「歩く」という字も分解すれば、「少し」と「止まる」で構成されていますね。少し進んだら立ち止まって考える、このペースを意識して進みましょう。このような歩みで進めば、これまで見落としてきた大切なことに気づく瞬間が訪れることと思います。
 
荷下ろし症候群はつらいものですが、そこをくぐり抜けると、これからの生き方の指針となる大切な気づきを得られることが多いものです。上記の2つをヒントにしながら、ぜひ自分の心がほんとうに求めていることを探る気持ちで、ゆっくりと進んでいきましょう。
※記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。
※当サイトにおける医師・医療従事者等による情報の提供は、診断・治療行為ではありません。診断・治療を必要とする方は、適切な医療機関での受診をおすすめいたします。記事内容は執筆者個人の見解によるものであり、全ての方への有効性を保証するものではありません。当サイトで提供する情報に基づいて被ったいかなる損害についても、当社、各ガイド、その他当社と契約した情報提供者は一切の責任を負いかねます。
免責事項

あわせて読みたい

あなたにオススメ

    表示について

    カテゴリー一覧

    All Aboutサービス・メディア

    All About公式SNS
    日々の生活や仕事を楽しむための情報を毎日お届けします。
    公式SNS一覧
    © All About, Inc. All rights reserved. 掲載の記事・写真・イラストなど、すべてのコンテンツの無断複写・転載・公衆送信等を禁じます