「千三つ屋」「クレーム産業」と蔑称される不動産業界
突然ですが、もしも宝くじで1億円が当たったら、何に使いますか?―― そう質問すると、多くの人が「マイホームを買いたい」と答えます。おそらく、マイホームはいつの時代もあこがれの存在であり、渇望の対象だからでしょう。
その昔、マイホーム購入は男子一生の仕事といわれていました。ライフイベント上の大仕事と位置付けられていたのです。高額な買い物ゆえ、誰もが手軽に買えるものではありません。当然、失敗も許されません。「夢のマイホーム」を「悪夢」へと暗転させてはならないのです。
にもかかわらず、今なおトラブルはなくなりません。欠陥住宅や住宅ローン破綻などの悲劇は繰り返されています。くしくも「不動産業はクレーム産業」と言われ続けています。一体、なぜなのでしょうか。
その理由のひとつとして考えられるのが「情報の非対称性」です。宅建業者は不動産取引に関する専門知識も経験も豊富なのに対し、一般消費者は素人の域を出ません。つまり、両者には「情報の格差」が存在しているのです。営業マンはこの情報格差を逆手に取り、自分に有利に働くよう夜討ち朝駆けで“ポジショントーク”を展開します。リスクに関する説明は先方から質問されない限り行いません。不都合・不利益となる説明は避けるのが常とう手段なのです。
それが証拠に、かつて不動産屋は「千三つ屋(せんみつや)」と呼ばれていました。千三つ屋とは「千のうち三つしか本当のことを言わない」という意味で、「ほら吹き」や「嘘つき」を意図した慣用句として使われています。
はたして、こうした蔑称が「過去形」なのか「現在進行形」なのかは意見が分かれるところですが、いずれにせよ不動産営業マンは嘘もいとわない巧みなセールストークを駆使し、日夜、顧客から契約を勝ち取っていきます。
『正直不動産』で描かれる業界裏事情の真偽は…?
さて、ここから本題に入りますが、今春、不動産業界に根付く悪習を巧妙に描いたNHKドラマ『正直不動産』が好評を得ています。このドラマでは上述したような悪しき不動産慣習をリアルに再現し、口から出まかせの営業トークで顧客をだましていた主人公・永瀬(山下智久)が、突然、嘘つき営業ができなくなることで生じる人間模様を巧みな演出で表現しています。登場人物の喜怒哀楽が、感動と笑いを交えて痛快に描かれています。末端ながら不動産業界に身を置いていた筆者の『正直不動産』に対する率直な感想として、ここまで業界のダークサイド(裏事情)を赤裸々にドラマ化したNHKに対し、不動産各社や業界団体から「お叱りの声」がないのか気になっています。たかがドラマとはいえ、かなり「核心」に迫った内容になっているからです。今後、ドラマの影響で現役の営業マンは仕事がしにくくなるのではないかと、余計な心配までしてしまうほどです。
「だます方が悪い」のではなく「だまされる方が悪い」と心得よ!
その一方、これからマイホームを取得しようと考えている人にとっては、業界の裏事情や騙(だま)しのテクニックを知ることができ、知識武装に格好の題材として役立っているはずです。主人公は物語の中で「正直者がバカを見る。嘘をついて、なんぼのイカレタ世界 ―― それが不動産の営業だ」と発言しています。「だますほうが悪い」のではなく「だまされるほうが悪い」のです。マイホームの購入検討者は自分がバカを見ないよう、「性悪説」に基づいて営業マンと接する必要があります。不動産営業マンの「正直度」「嘘つき度」を見極める5つの質問
そこで、営業マンの「正直度」「嘘つき度」が見極められるよう、5つの質問を考えてみました。各項目は筆者の不動産営業マン時代の体験や失敗談が発案の基(もと)になっています。これからマイホームを買おうと考えている人は、商談時、以下の質問を活用してリスクヘッジに努めてください。【質問1】なぜ、不動産業界で働こうと思ったのですか?
やはり原点は重要です。どうして不動産業界で働こうと思ったのか、なぜ、その会社を選んだのか、志望動機を単刀直入に聞いてみましょう。入社理由が分かれば、営業マンの仕事に対する熱意や意欲、その会社へ期待していること、やりたいことなどが分かります。
ちなみに『正直不動産』の主人公・永瀬は、父親が友人の連帯保証人になり、その責任を負って自宅が競売に掛けられそうになったとき、たまたま登坂不動産の登坂社長(草刈正雄)と遭遇し、助けてもらったのが入社のきっかけでした。ドラマ内で永瀬は「お客から感謝され、金ももうかる。そんな仕事、最高じゃないですか」と、不動産営業への興味を示していました。
その後、彼は登坂不動産のトップ営業マンを目指すのですが、その手口は嘘や詐欺まがいの営業を繰り返し、不正直を絵に書いたような手段で営業成績1位の座を射止めます。誇りややり甲斐以上に、金儲けが入社の動機として強く働いていました。高給取りを目指すがゆえ、顧客との商談時、都合の悪いネガティブ情報は封印せざるを得なくなりました。
【質問2】営業スタイルは飛び込み営業ですか、カウンター営業ですか?
続いて、営業マンの「正直度」「嘘つき度」を見極める方法として、その会社の営業スタイルが「飛び込み営業」か「カウンター営業」かも重要な判断材料になります。
読者の皆さんの中には、突然、自宅や勤務先にマンション投資の勧誘の電話がかかってきて、迷惑した経験をお持ちの人が少なからずいると思います。かつて、私も営業マン時代、高額所得者や医者などのリストを手に入れ、友達のふりをして勤務先に投資勧誘の電話をかけていました。
大多数は門前払いされるのですが、それでも月に1本は電話セールスで契約していました。節税や老後の私的年金を目的に、ワンルームマンション投資に興味を示すサラリーマンが一定数いたのです。クロージング(商談時の最後の詰め)では「空室の心配はありません。安心してください」とサブリース契約を提案し、言葉巧みに方便していたのを思い出します。
不動産の営業スタイルは大きく「飛び込み営業」と「カウンター営業」に分けられ、前者のひとつが上述した電話セールスです。同じく、飛び込み営業にはアポなしの訪問販売もあり、こちらも「招かれざる客」となって玄関先で押し売り営業します。そして、どちらの飛び込み営業にも高額なインセンティブ(成果報酬)が手当され、営業マンはぶら下げられた“にんじん”の獲得を目指し、荒手の営業に手を染めていきます。
これに対し、カウンター営業は広告を見て興味や関心を持った客が自ら店舗にやって来る販売手法です。先方から「相談に乗ってほしい」「物件を紹介してほしい」と依頼してくるわけです。わざわざ方便を並べて押し売り営業する必要はありません。むしろデメリットも同時に説明したほうが、かえって顧客の信頼獲得につながります。
このように「飛び込み営業」か「カウンター営業」かによって、営業マンの成約に対する熱量(貪欲さ)は大きく異なっていきます。えてして、飛び込み営業には荒々しいイメージがあり、今日、オレオレ詐欺が社会問題化している現況下で、騙されるのではないかといった不信感は否めません。契約に持ち込みたい営業マンには、より言葉巧みなセールストークが求められます。
【質問3】給与体系は固定給ですか、それとも歩合給ですか?
3番目に、会社の給与体系が「固定給」か「歩合給」かも聞いてみましょう。
固定給は毎月、何本契約しても自分が受け取れる給料に変わりはありません。他方、歩合給は契約本数に応じて大きく給料が変動します。成績が上がれば上がるほど、収入は増えていきます。そのため、高いノルマを達成するためにも、歩合給の営業マンは必死で契約の獲得に動きます。カスタマーファースト(顧客第一主義)はないがしろにされ、不正直営業が幅を利かせます。
ドラマの舞台となる登坂不動産は基本給と歩合給の二段構えになっており、主人公の永瀬は「営業成績を上げるのは、イコール自分のためだ。客や入居者のためじゃない。自分のために家を売るんだ」と明言していました。トップの成績を維持するためには手段を選ばないのです。給与体系が歩合給になると、「客や入居者のため」より「自分のため」が優先されやすくなるのです。
これは筆者の現役時代の体験談ですが、歩合給で飛び込み営業している会社では社員同士が「仁義なき戦い」を繰り広げます。ドラマでは嘘がつけなくなった主人公の永瀬と後輩の桐山(市原隼人)が社内で顧客を奪い合っていました。
実は現実の世界でも、歩合給で飛び込み営業している不動産会社では営業マン同士が見込み客を奪い合っています。上述したように、飛び込み営業では自分の足で客を見つけなければなりません。電話にしろ訪問にしろ、開拓営業を強いられます。開拓営業は経験したことのある人なら分かると思いますが、精神的にも肉体的にも過酷な作業です。
にもかかわらず、毎月、コンスタントに契約をあげ続けなければなりません。タコ社員(契約ゼロの社員)にならないよう、営業マン同士で見込み客を奪い合うのです。当然、嘘をもいとわない巧みな営業トークが展開されます。会社の給与体系が「固定給」か「歩合給」かによって、営業マンの正直度合いは大きく異なってきます。
【質問4】新卒ですか中途入社ですか、勤続年数は何年ですか?
このように「契約がすべて」のシビアな世界では社員の入れ替えが激しく、離職率も高い傾向にあります。ドラマではスパイ疑惑をかけられた桐山が、劇中、退職していきました。
そこで4つ目の質問として、新卒か中途入社か、また、勤続年数は何年かストレートに聞いてみましょう。加えて、中途入社の場合は前職も要確認です。なぜなら、不動産業界は募集要項が「高卒以上」「未経験可」といったハードルの低さから、異業種や中高年の中途入社が少なくないのです。さらに、常に社員を募集している会社も要注意です。従業員の定着率が低いのです。人間関係の不和や教育体制の不備が気になります。
【質問5】あなたの保有資格を教えてください
最後、5番目は営業マンの保有資格についてです。
ご存じでしょうか。不動産会社で営業活動するのに資格はいりません。不動産取引といえば宅地建物取引士(宅建)ですが、宅建が必要になるのは重要事項説明の時だけです。日常の営業活動には必要ありません。たとえ無資格の新卒社員が入社当日から営業しても、法的に何ら問題はないのです。
ちなみに、証券会社や銀行で金融商品を取り扱うには「証券外務員」の資格が必要です。同じく、保険会社では「保険募集人」の資格がないと保険商品の勧誘・販売ができません。どちらも事前にコンプライアンス精神や倫理規範を学び、顧客本位の業務運営を身に付けるためです。
そこで、ぜひ、最後の質問として営業マンに聞いてみてください。不動産業界で仕事をする以上、宅地建物取引士は持っていて「当たり前」です。
その他、賃貸不動産経営管理士やマンション管理士、住宅ローンアドバイザーやファイナンシャルプランナーなど、資格の内容や保有数によって、営業マンの仕事に対する姿勢や能力が分かります。資格の取得を通じて法令順守の精神が身につくのです。
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以上、5つの質問を紹介しました。共感・納得いただけましたでしょうか。ドラマ『正直不動産』は業界の悪しき慣習をリアルに再現・映像化し、嘘がつけなくなった主人公の営業姿勢の変化を通じて、真のカスタマーファーストとは何かを探求しようという作品です。
マイホーム購入に失敗・後悔は許されません。正直者がバカを見る社会は改善しなければなりません。不動産業界に内在する「情報の非対称性」の一刻も早い解消が求められます。その第一歩として、不正直な不動産営業マンには退場いただきたいのです。本稿がその一助となるよう願ってやみません。