西九州新幹線「かもめ」お披露目
西九州新幹線は、九州新幹線西九州ルート(博多~長崎)のうち、現在整備が進められている武雄温泉~長崎間(約66km)の路線名称である。武雄温泉駅では、在来線であるJR佐世保線と接続し、博多~武雄温泉駅を結ぶ在来線特急列車と同じホームで乗り換えを行う「対面乗換方式」によって博多~長崎間を結ぶ予定だ。すでに2022年秋頃の開業がアナウンスされている。この「対面乗換方式」は、現行の九州新幹線が全線開業するまで、新八代駅で行っていたのと同じ方式である。
西九州新幹線はフル規格(1435mmの標準軌)によって建設中だ。ここを走る車両として用意されているのが東海道・山陽新幹線を走行中の最新型車両「N700S」である。このたびその新型車両「かもめ」の第1編成が落成し、製造を担当している日立製作所笠戸事業所(山口県下松市)において報道公開された。取材する機会を与えられたので、詳しくレポートしよう。
「かもめ」用のN700Sはどこが違う?
「かもめ」用のN700Sは、東海道・山陽新幹線を走っているN700Sと、全く同じではない。東海道・山陽新幹線を走っている16両編成に対し、編成は6両(指定席3両、自由席3両)と短い。N700Sは編成の自由度は高いとのことだったが、実際に基本設計をする段階ではかなりの苦労があったという。車両の技術的な面での基本はいじっていないが、車体や内装のデザインはJR九州独自のものだ。がんじがらめの中でも何か工夫をすること、最後の1%をどうするかというのがデザイナーの大切な仕事だと、デザイン担当の水戸岡鋭治氏は語っている。 車体の塗装は真っ黒、真っ赤、そして赤と白の3通りが提案されたが、「一番無難なものが採用された」そうだ。とはいえ、この純白な白は、わずかな滴でも残ってしまうような「危険な白色」である。専門家に言わせれば非常識な色だが、「非常識」を「常識化」することに商品価値があるのではと水戸岡氏は言う。
これまでの、ある意味「過激な」デザインは影を潜め、上品で大人の感じ、飽きがこない落ち着いたデザインになったのではと振り返る。JR九州のコーポレートカラーである赤を取り入れ、日いずる地域から日本全国へ広がっていく、明るくて元気なものにしたいとの思いからこの色に決めたそうだ。 乗車時間は30分にも満たないくらいで短くあっけない。それでも、満足感のある、もう一度乗ってみたいと思えるような車両にしたいと手間暇をかけて造ったとのこと。JR九州の青柳社長は「自信作です」と胸を張って話した。ちなみに、車体に書かれた「かもめ」の揮毫(きごう)は社長の直筆だ。プロの書道家ではないと謙遜するものの気持ちを込めて書いたと強調した。
歴史ある列車名「かもめ」
列車名は「かもめ」。現在は、博多~長崎間を走る特急列車の愛称であるが、その歴史は古く、登場したのは80年以上前の1937(昭和12)年にさかのぼる。特別急行列車「富士」「櫻」「燕」に続く4番手として漢字名の「鷗」で登場、東京~神戸間を颯爽と走った。戦後は京都~博多間の特急「かもめ」として再登場、はじめて九州の地を特急が走った。 その後、1961年の白紙ダイヤ改正でディーゼル特急「かもめ」として初めて長崎まで乗り入れ、以後「かもめ」は長崎と縁のある特急列車名となった。現在も博多~長崎を走る列車名として「かもめ」が使われているのは周知のことであろう。今回の西九州新幹線の列車名も、他の意見はあったものの、多くの人の思いは「かもめ」だったので、すぐに決まったそうだ。3号車の車内
車内については3号車のみ公開された。座席などは全く新規のものではなく、800系「つばめ」で使った椅子を再デザイン(redesign)したという。それでも、手間暇をかけて良いものをつくったとのこと。ひとつひとつを積み重ねてこそ、上質なもの、誰もが満足するものができあがるのである。 800系同様、車両ごとにデザインが異なるので、繰り返し乗車する楽しみがある。3号車は指定席車両なので、普通車とはいえ、通路を挟んで2人席がずらりと並ぶ。グリーン車並みのゆとりがあるのが嬉しい。ひじ掛けやテーブルなど木を多用してぬくもりのある車内としている。また、全座席に電源コンセントがあり、スマホなどの充電が気楽にできるのもうれしい。 車端部には荷物置場もある。これまでの新幹線車両では、とかくスーツケースなどの置場に苦労した人も少なからずいただけに嬉しい設備だ。クリーム系の色合いの車内は上品な感じがして好ましい。ほかの号車の車内デザインが気になる。「かもめ」はこの後、西九州新幹線に運ばれ、試運転を繰り返した後、営業開始となる。乗車できる日が待ち遠しい。
取材協力=JR九州、日立製作所笠戸事業所
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