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キハ40形ディーゼルカー導入で注目の「小湊鐵道」 里山を走るローカル線の魅力

里山を走る非電化単線のローカル線「小湊鐵道」は、このほどJR東日本から旧国鉄形ディーゼルカーであるキハ40形を譲り受け、定期列車として運行を始めた。首都圏にありながら長閑な田園風景の中を走る列車、時代から超然としたような鄙びた駅。その魅力を探ってみた。

野田 隆

執筆者:野田 隆

鉄道ガイド

里山を走る非電化単線のローカル線「小湊鐵道(こみなとてつどう)」は、このほどJR東日本から旧国鉄形ディーゼルカーであるキハ40形を譲り受け、2021年に定期列車として運行を始めた。首都圏にありながら長閑な田園風景の中を走る列車、時代から超然としたような鄙びた駅。その魅力を探ってみた。
 

ディーゼルカーが走る小湊鐵道

小湊鐵道は、JR内房線の五井駅(千葉県市原市)を起点に房総半島の内陸部に分け入り、上総中野駅まで39.1kmの路線だ。終点の上総中野駅でいすみ鉄道に乗り換えるとJR外房線の大原駅(千葉県いすみ市)に至り、房総半島横断ルートを形成している。電車ではなくディーゼルカーが走る非電化単線の鉄道は、首都圏では珍しい存在だ。
キハ200形が勢ぞろいする五井機関区

キハ200形が勢ぞろいする五井機関区

小湊鐵道は、この半世紀ほど、朱色とクリームの塗装のキハ200形ディーゼルカーが走る路線として知られてきた。春は黄色い菜の花畑、新緑、そして秋の紅葉と四季折々の風景の中を長閑に行き来し、写真家にとっては絶好の被写体となっている。もっとも、車内は通勤型車両同様のロングシートだったので、物足りなさを覚える「乗り鉄」も少なからず存在した。
里山トロッコ列車

SL風ディーゼル機関車牽引の「里山トロッコ列車」

そうした小湊鐵道が変わり始めたのは、2015年に里山トロッコ列車の運行を開始してからである。SLの形をしたディーゼル機関車が牽引する観光列車は瞬く間に人気となり、紅葉の頃の養老渓谷は、今までにも増して多くの人が目指す観光地となった。
 

旧国鉄形ディーゼルカー キハ40形の導入

定期列車として走り始めたキハ40 2

定期列車として走り始めたキハ40 2

その一方で、半世紀以上走り続けてきたキハ200形は老朽化が目立ち始め、代わりの車両を導入することになった。本来であれば、最新型の車両が登場するのであろうが、諸般の事情から他社から中古車両を譲り受けることになり、それが何とJR東日本のローカル線で活躍してきたキハ40形ディーゼルカーだった。
JR只見線を走っていた頃のキハ40形

JR只見線を走っていた頃のキハ40形

JR東日本は、このところローカル線の刷新を図っていて、電気式気動車GV-E400系、蓄電池駆動電車EV-E801系といった新機軸の車両を相次いで導入している。こうした車両に道を譲って相次いで引退しつつあるのがキハ40形ディーゼルカーである。

キハ40形は、最初にデビューしたのが1977年なので、すでに40年以上の歴史を持つ「高齢車」ではあるけれど、小湊鐵道のキハ200形の初期のものは1961年に製造されているので、60年選手だ。それを考えれば、今回譲渡されたキハ40形は1979年の製造なので20年も若返ったことになり、小湊鐵道では「新型車両」といえる。部品はキハ200形と共用のものもあり、メンテナンス上も都合がよいそうだ。
「小湊色」に塗りなおされたキハ40 1

「小湊色」に塗りなおされたキハ40 1

キハ40形は、まず2020年にJR只見線で活躍していた2両が譲渡された。その後、2021年7月には、JR東日本の秋田地区で働いていたキハ40形が3両譲渡され、合計5両となっている。同じ形式の車両でありながら、塗装がバラエティに富んでいるのは面白い。また座席配置など細部も少しずつ異なっている。

最初に導入された2両は、「東北地域本社色」と呼ばれる、緑と白の塗装だったが、うち1両(キハ40 1、JR時代の車番は、キハ40 2021)は塗りなおされ、キハ200形と同じ朱色とクリーム色の「小湊色」になった。
キハ40 2019

秋田で活躍していた頃のキハ40 2019(男鹿線色)

秋田からやってきた3両のうち、キハ40 2019 は、「男鹿線色」といってクリームと緑の独自の塗り分けだ。あとの2両は「首都圏色」(俗称「タラコ色」)と呼ばれる朱色一色のもので、キハ40形がデビューした時の塗装になっている。これらの車両の塗装が、そのまま使われるのか、あるいは塗り替えられるのか興味津々である。
タラコ色のキハ40 2018

タラコ色のキハ40 2018(五井機関区にて)

 

定期列車として運行を開始したキハ40形

五井駅で発車を待つキハ40形

五井駅で発車を待つキハ40形

さて、小湊鐵道線は、2021年7月初旬の集中豪雨の影響により、光風台駅と上総牛久駅の間が不通になったままだ。列車は、10月中旬以降の予定で進められている復旧作業が終わるまで、五井駅と光風台駅の間を折り返し運転している。この間は片道18分ほどで、昼間は1両のディーゼルカーが行ったり来たりしている。

小湊鐵道の列車は、朝夕は通勤通学客で混雑するのだが、昼間は閑散としている。それで、車内の中央部がクロスシート(4人向かい合わせのボックス席)のキハ40 2が任務についている。春にデビューを記念したイベント運転をしたあとは、どうなるのかと思っていたら、夏になって毎日のように五井と光風台の間を通常の列車として走り出したのだ。
キハ40 2 の車内

キハ40 2 の車内。中央部はクロスシートだ。

コロナ禍もあって本数を減らしての運転なので、昼間はキハ40 2 の独壇場の趣がある。緑豊かな田園地帯には、小湊鐵道らしからぬ緑と白の車体が違和感なく溶け込んでいる。SNSなどで話題になっているので、さっそく、乗りに行ってきた。
 

キハ40形の小さな旅

クロスシートから眺める田園風景は旅情を感じる

クロスシートから眺める田園風景は旅情を感じる

列車は、各ボックスに1~2人乗っているくらいの混み方で、多くは地元の高齢者だった。「乗り鉄」を楽しんでいそうな人も2~3人はいた。五井駅を発車すると、すぐにJR内房線と分れて左へ左へとカーブしていく。まわりは住宅地だが、ものの1~2分で広々とした田園地帯に出る。東京駅から快速電車で1時間ほど乗って、小湊鐵道に乗りかえると、すぐにこんな情景に出会えるとは奇跡のようにも思える。
田園地帯の中をまっすぐに延びる線路

田園地帯の中をまっすぐに延びる小湊鐵道の線路

高速道路の下をくぐると最初の駅上総村上駅に着く。レトロな木造駅舎だ。キハ40形と鄙びた駅の組み合わせだけを見ると、東北のローカル線を旅しているような錯覚にとらわれる。次の海士有木(あまありき)駅も風情のある駅だ。駅名からして遠くに来てしまったと思わせるような旅情を感じる。
海士有木駅

レトロな雰囲気が充満する海士有木駅

上総三又駅も広大な田園地帯の真ん中にポツンとある周りに何もなさそうな駅だ。その次の上総山田駅は集落の中にあり、ちょっぴり賑わいが感じられる。ただし、駅を出ると再び広々とした田園風景の中を進む。ごとんごとんと走り、ふわふわと揺れるような感じは幹線をすっ飛ばす電車では感じられない乗り心地だ。しばらく忘れていた感触で、わざわざ乗りに行ってよかったと思う。養老川を鉄橋で越えると、あっけなくこの列車の終点光風台駅のホームに滑り込んでいく。
光風台駅で折り返すキハ40形

光風台駅で折り返すキハ40形

この先は上総牛久駅まで不通になっているので、先へ急ぐ人は代行バスに乗り換えて、上総牛久駅から先は別の列車に乗り換える。筆者は、ちょっとだけの「乗り鉄」なので、同じ車両で折り返す。といっても、そのまま乗っていることはできず、一旦ホームに降りなければならない。

キハ40はドアを閉めると上総牛久方面へ向かい、駅の少し先で停車、しばらくすると進行方向を変えて戻ってきた。ただし、線路がかわり、島式ホームの反対側、五井方面の乗り場に横付けとなる。再び車内に入り、席に着くとすぐに発車した。
光風台駅付近の情景

光風台駅のホームからは広々とした田園風景が望まれる

単純に往復するだけの旅だったが、久しぶりに乗ったディーゼルカーは、充分に満足できるものだった。早く復旧して養老渓谷方面まで乗り通したいものである。しかし、全線復旧すると、行きも帰りもキハ40形に乗れるのかどうかは定かではない。5両も譲り受けたキハ40形がどんな使われ方をするのか、まだ何のアナウンスもない。従来のキハ200形は、キハ40形の導入によっても、すべての車両が消えてしまうことは当分ないと公表しているので、「葬式鉄(※廃線や列車引退の日に訪れる人)」が殺到することはなさそうだ。
五井~上総村上間を走るキハ40形

五井~上総村上間を走るキハ40形

五井駅に戻ったあとは、キハ40形の走りを撮影するために15分ほど上総村上方面へ歩きながら撮影場所を探す。のんびりした「乗り鉄」と「撮り鉄」を楽しんだ後、再訪を考えつつ、小湊鐵道を後にした。

小湊鐵道の往復乗車券は、片道ごとに乗車券を購入するよりも安くなっている。例えば、五井駅と光風台駅間は、片道=460円のところ、往復で購入すると110円割り引かれて、810円となる。
こみなと待合室

お洒落なカフェで寛げる「こみなと待合室」

また、五井駅に隣接して、カフェスペースが併設された「こみなと待合室」が新設された。行き帰りの休憩に便利なおすすめスポットだ。

小湊鐵道ホームページ



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