唯一残った都電の路線が、荒川線だ。三ノ輪橋(荒川区)から早稲田(新宿区)までの12.2kmの間に起終点を含めて30カ所の停留場があり、バラエティに富んだ車両が1両で走る。下町情緒を感じながら長閑な電車の旅や沿線の散策に出かけよう。
 

1. 出発は三ノ輪橋

三ノ輪橋停留場への入口

三ノ輪橋停留場への入口

都電荒川線の駅ナンバリングは三ノ輪橋停留場のSA 01から始まり、早稲田停留場のSA 30で終わる。したがって、話を三ノ輪橋停留場から始めよう。三ノ輪橋は、終着駅らしく行き止まりの構造で、かつて都電の停留場で使っていたレトロな標柱や昭和にタイムスリップしたような広告看板、木製の柵など都電全盛時代を彷彿とさせる雰囲気に満ちている。
レトロな雰囲気の三ノ輪橋停留場

レトロな雰囲気の三ノ輪橋停留場

季節には線路際のバラが美しく目を楽しませ、「春には見事なバラが咲き揃う都内唯一の都電が走る停留場」として関東の駅百選に認定されている。

「三ノ輪橋おもいで館」という案内所があるほか、近くを走るJR常磐線のガード下の壁にはカラフルな都電のイラストが描かれているし、停留場のすぐ近くには都電カフェがあるなど、都電を中心にした街づくりで盛り上がっている。
都電のイラスト

JR常磐線ガード下の壁面に描かれた都電のイラスト

停留場近くをJR常磐線が通っているけれど駅はない。一番近いのは徒歩5分ほどでたどり着ける東京メトロ日比谷線の三ノ輪駅だ。上記の案内所あるいは運転士から都電1日乗車券(400円)を買うとお得である。1乗車は全線均一料金の170円なので、3回乗車するだけでモトが取れるのだ。
 

2. 愛称は「東京さくらトラム」

東京さくらトラム

あちこちで見られる「東京さくらトラム」の表示

東京都交通局は2017年に荒川線に「東京さくらトラム」という愛称を付け、駅ナンバリングのアルファベットをSAと定めた。しかし、沿線ですんなりと歓迎されたわけではなく異論も多い。

確かに沿線の飛鳥山や早稲田近くの神田川あたりはさくらの名所として広く知られている。だが、荒川線沿線で有名なのはバラであり、とくに荒川区内の線路際で春と秋になるとバラが咲き乱れているところが数多く存在する。それゆえ、「さくらトラム」という愛称を疑問視する向きが少なくないのだ。

SAについても「さくらトラム」の愛称を広く認知させようとして決めたようだ。都電荒川線の頭文字TAではないのか、という意見もある。もっとも、考えようによっては、Streetcar Arakawa lineの頭文字と思えばいいわけで、「さくらトラム」という愛称が、今後、定着するかどうか注視していきたいと思う。
 

3. バラが咲き乱れる沿線

バラと都電

バラと都電は良く似合う(三ノ輪橋にて)

前述したように、荒川区内や大塚駅前付近(豊島区)の線路際は季節になるとバラが咲き乱れ、目の保養になる。これは荒川区がボランティアとともに総延長4kmにわたって線路際に約140種1万3000株のバラを植栽した結果なのだ。
バラが咲き乱れる荒川車庫前付近

バラが咲き乱れる荒川車庫前付近を走るレトロ風電車9000形

きれいなスポットは何カ所もあり、「花の観光地づくり大賞」や三ノ輪橋停留場の項目で述べたように関東の駅百選の認定理由となるなど各所から評価されている。
 

4. 荒川車庫と「都電おもいで広場」

荒川車庫

都電が待機する荒川車庫

都電の車庫は、荒川車庫前(SA 13)にある。時間帯によっては車庫に入出庫するため、荒川車庫前行きやこの停留場始発の電車が設定されている。普段は立ち入り禁止だが、時々車庫のイベントがあり、そのときは内部を見学できる。
都電おもいで広場

都電おもいで広場

車庫に隣接して「都電おもいで広場」があり、土休日に公開されている。2両の電車が展示されていて、5500形は、1954年に当時のアメリカの最新技術を導入してつくられた車両で、PCCカーの愛称。もう1両は7500形で1962年に製造された、都電としては珍しい2つ目のライトが特徴だ。晩年は朝ラッシュ時の通学輸送に活躍したことから「学園号」の愛称で親しまれた。
 

5. バラエティに富んださまざまな車両

8900形

2015年に登場した8900形

現在、都電荒川線を走っている電車は7700形(8両)、8500形(5両)、9000形(2両)、8800形(10両)、8900形(8両)の5種類である(カッコ内は車両の数)。同じ形式の車両でも塗色の違いやさまざまなラッピング車両があるので、見た目は同じ車両がほぼない状態で、実にバラエティに富んでいる。
9000形

レトロ風車両として人気の9000形

9000形は2両のみ製造されたレトロ風の新型車両で、上半分はクリーム色で共通だが、下半分は茶色と青色の2種類がある。イベントや貸し切りにも用いられる人気車両だ。
 

6. ユニークで美味しい「都電もなか」

都電もなか

新旧さまざまな箱に入った「都電もなか」

都電をあしらった名物といえば「都電もなか」が知られている。王子駅前停留場(SA 16)から三ノ輪橋方面へ2駅先の梶原停留場(SA 14)近くにある明美という和菓子店で製造販売されている。バラエティに富んだ都電の車両を模した箱に入っている。
車庫型ケースと路線図の包装紙

都電もなか10両が収まる車庫型ケースや路線図をあしらった包装紙など

1個(お店では1両という)160円だが、10両買うと、希望すれば都電の車庫をイメージした箱に入れてくれる。賞味期限は購入してから10日間とそれほど長くない。都電に乗って買いに行きたいものだ。
 

7. 道路を走る区間

路面を走る都電

桜満開の飛鳥山付近の路面を走る都電

荒川線が生き延びたのは、路面電車といいながらも道路上ではない専用軌道を走る区間が圧倒的に多かったからだ。それでも、王子駅前から飛鳥山停留場(SA 17)までの500m近い距離は明治通りの上をクルマと一緒になって走る都内では稀有な情景が見られる。

このほかにも道路の上を走っているように見える区間があるが、道路と線路ははっきりと分離しているので本来の路面走行区間ではない。
 

8. ホームに隣接した飲食店

庚申塚のホーム

おはぎで有名なお店は庚申塚のホーム直結だ

庚申塚停留場(SA 21)は、「おばあちゃんの原宿」として知られる巣鴨地蔵通り商店街の北西の終端部の先にある。2008年末にレトロ風にリニューアルされた。三ノ輪橋方面行きのホームに直結して飲食店があり、おはぎがおいしいとして有名なお店だ。飲食をしながら都電が眺められるユニークさがウケている。コロナ禍で休業していたが、ようやく再開した。
 

9. 地下鉄の雑司が谷駅と都電雑司ヶ谷停留場の位置関係

鬼子母神前停留場の標示板

鬼子母神前停留場の標示板。隣駅、都電雑司ヶ谷および副都心線の雑司が谷駅の案内が見える

鬼子母神前停留場(SA 27)のすぐ近くに東京メトロ副都心線の雑司が谷駅がある。この駅は2008年6月に開業した。それ以前、都電荒川線には雑司ヶ谷停留場があったものの、副都心線の駅は鬼子母神前停留場と至近距離にあり、雑司ヶ谷停留場とはかなり離れていた。したがって雑司ヶ谷停留場と地下鉄の雑司が谷駅は別物として扱われ、乗換駅とはみなされないこととなった。

しかし、それでは混乱を招くので、都電荒川線の雑司ヶ谷停留場は「都電雑司ヶ谷」と改名して、乗り換えのできない駅として区別されることとなったのである。それでもどこか釈然としない。

ちなみに都電雑司ヶ谷停留場は、雑司ヶ谷霊園の目の前にある。
 

10. 早稲田停留場から早稲田大学へ

早稲田停留場

都電荒川線の西の起終点・早稲田

早稲田停留場(SA 30)は都電荒川線の西の終点である。同じ早稲田を名乗る東京メトロ東西線の早稲田駅とは遠く離れていて、歩いて10分ほどかかる。都電の停留場から東西線の早稲田駅に向かうには早稲田大学の正門と大隈講堂の間の公道を通り抜けることになるが、道案内の表示がほとんどないので、初めて訪れる人は迷うかもしれない。

早稲田大学の学生は、地下鉄東西線の早稲田駅やJR山手線や西武新宿線も乗り入れる高田馬場駅からバスや徒歩で大学へ向かう人が多く、都電で通学するのは少数派であろう。
早稲田大学の大隈講堂

「紺碧の空」の下、早稲田大学の大隈講堂を仰ぎ見る

映画「男はつらいよ」シリーズの第40作「寅次郎サラダ記念日」(1988年公開)で、寅さんは早稲田大学を訪れる。甥の満男に行き方を訊くと、「三ノ輪橋から滝野川を通って早稲田に行くチンチン電車があるだろ。東京で唯ひとつの。あの終点で降りればいいんだよ」と教わる。そして都電荒川線が銀幕に登場し、次のシーンで寅さんは早稲田のキャンパスにいるのだ。

柴又から三ノ輪橋までの行き方は簡単ではない。想像するに、映画の公開当時、柴又駅からは京成本線への直通電車があったので、寅さんは京成電鉄で町屋まで行き、そこで荒川線に乗り換えたのではないだろうか?
 
都電荒川線については語りつくせないほど話題が豊富だ。首都圏に住んでいるならば、ぜひふらりと散策に出かけて、新たな発見をするとともに沿線の下町情緒を味わってみることをおすすめしたい。

都電荒川線のページ(東京都交通局のサイト)


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