ストレス

ヤングケアラーが抱える生きづらさの問題と解決のヒント

【公認心理師が解説】「ヤングケアラー」とは、家事や家族の世話を担う子どもや若者たちのこと。近年、ヤングケアラーが抱える問題が、たびたび報じられています。「ヤングケアラー」はどのような思いを抱え、生きづらさを感じているのでしょう。私のカウンセリング経験と子どもの心の成長ステップをもとに解説します。

大美賀 直子

執筆者:大美賀 直子

公認心理師・産業カウンセラー /ストレス ガイド

ヤングケアラーとは……家事や家族の世話を担う子どもや若者たち

ヤングケアラーの問題とは

家族のために頑張る中で、「子どもらしさ」を楽しむ機会を失ってしまう問題も……

本来、大人が担うべき家事や家族の世話などを担う子どもを「ヤングケアラー」といいます。現在のところ法的な定義はありませんが、一般社団法人日本ケアラー連盟によると18歳未満の子どもを「ヤングケアラー」「子どもケアラー」、18歳から概ね30代までは「若者ケアラー」とされています。
 
この記事では、大学生や専門学校生も含めた就学期にあるケアラーを「ヤングケアラー」としてお話したいと思います。
 

親の病気・きょうだいの世話・介護……ヤングケアラーの多様な事情

ヤングケアラーというと、介護が必要になった家族のケアをする子どもや若者のことだと思われている方も多いかもしれませんが、ヤングケアラーが担うのは介護だけではありません。

私自身、カウンセリングのなかで、ヤングケアラーの若者やかつてヤングケアラーだった成人の方とお会いする機会があるのですが、ご事情はさまざまです。
 
たとえば、
  • 親の病気が続き、小学生の頃から家族の料理を作ってきた
  • 親に精神疾患があり気持ちの浮き沈みが大きく、子どもの頃から親の気持ちを受け止めて支えてきた
  • 家庭が経済的に苦しく、子どもの頃から内職の手伝いをして家計を支えてきた
  • きょうだいの数が多く、自分が毎日きょうだいの面倒をみてきた
  • 親が外国人で日本語や日本の習慣をよく理解できず、親の代理にならざるを得ない場面が多かった
など、さまざまな状況が見られます。子どもの頃は自分が置かれている事情を俯瞰する術もなく、子どもとしては重過ぎる責任を担っていることに気づかないまま、成長していることが少なくありません。
 
とはいえ、家族のケアに追われて遊びたいのに遊べない、勉強する時間をもてない。将来の夢を描けない……。このような状況に置かれ、生きづらさを感じている子が少なくないものです。
 

ヤングケアラーはなぜ問題か? 人間の心が成長する3つのステップ

親を手伝い、親を懸命に支える子どもの努力はすばらしいものですが、なぜ今、ヤングケアラーが問題になっているのでしょうか。ヤングケアラーが抱えやすい問題について理解するために、まず人間の心の成長について解説します。

人間の心は、大きく次の3つのステップを経て成長するとされています。
 
最初に育つのが「無邪気な心」。ありのままの欲求を伝え、思い切り遊び、喜怒哀楽を自由に表現できる心です。素直な感情を受け止められ、寄り添いと共感、やさしいフィードバックを受けることで子どもの心は安心し、すくすくと成長していきます。
 
次に育つのが「けじめの心」。生活習慣やルールを守ること、集団のなかでのふるまい方を学んでいきます。家庭の中で、園生活や学校生活で、やるべきこととしてはいけないことの道理を大人に教わりながら、けじめを身につけていきます。
 
最後に育つのが「バランスの心」。「無邪気な心」と「けじめの心」との狭間で生じる葛藤を調整することです。自分の置かれている状況を客観視することで、やりたいこととやるべきことの折り合いをつけることができます。
 

ヤングケアラーは「無邪気な心」を育てる時間がもちにくい

ヤングケアラーには、上記の3つの各ステップをしっかりと経験しておらず、特に「無邪気な心」を十分に育てる機会をもてなかった人が多いようです。子どもらしい欲求をがまんし、常に家族のことを優先的に考えて行動せざるを得なかっためです。
 
遊びたい気持ちがあっても、親が心配だから早く帰らなければならない。やりたいことがあっても、家庭の事情で無理だからあきらめざるを得ない。こうした中で、子ども時代に「無邪気な心」が育ち切らないままでいると、無邪気さから生じる自由な感情や欲求を発揮できなくなります。

そうしたなか、家族のケアという責務を担うために「けじめの心」や「バランスの心」を自分なりに急速に育てていかなければならなくなると、本当の感情や希望がわからず、人生を楽しく思えない、自分らしさがわからない……。そんな思いを抱えてしまうことが少なくありません。
 

ヤングケアラーの心の問題を解決する一歩は?

人は誰にでも、自分らしく幸せに生きる権利があります。そのためには、上記の心の3つの成長をまんべんなく経験していく必要があります。「無邪気な心」は、成長してからでも育むことができます。それには、自分の素直な気持ちに継続的に寄り添ってくれる人が必要です。

つまり、ヤングケアラーが自分らしく、前向きな気持ちで生きていくには、ヤングケアラーのことをよく理解し、気持ちを受け止めてくれる人や場所に出会うことが何よりも大切だと思います。
 
学校や地域などの身近な場所で、そうした人や場所に出会えるかもしれません。厚生労働省のサイトにも、ヤングケアラーの相談窓口が紹介されています。当事者の会などに参加するのもよい方法かもしれません。
 

話すことでヒントが見つかる……よき理解者・支援者と積極的に交流を

私が出会ったヤングケアラーの方の多くは、家族のことをとても大切に思っています。家族の力になってきたこれまでの人生のことも、大切だと思っています。

ただ、心のどこかに自分らしさがわからず、心から楽しめていないという思いがあり、寂しさを抱えていることも少なくありません。将来のことを考える余裕がなく、自分が本当にやりたいことに向き合う機会を持てないでいる方も少なくありません。
 
ヤングケアラーの事情をよく知り、気持ちを受け止めてくれる人に話すことによって、自分の人生を充実させ、幸せに生きるヒントが見つかるかもしれません。金銭面の援助、介護支援などのさまざまな情報についても知ることができ、自分一人が抱えなくてもいいこともわかるでしょう。

ぜひ相談できる人に話しながら、自分のこと、これからのことをじっくり考えていきませんか?

■参考 ヤングケアラーについて(厚生労働省)
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