ストレス

「ゾーンに入る」方法は?集中力と幸福感を高めて最高の結果を出す方法

【公認心理師が解説】ゾーンに入り、最高のパフォーマンスを発揮するには? スポーツなどで前人未到の結果を出す人は、しばしば「最高に気持ちいい!」「最高の幸せ」といった言葉を口にします。これは心理学の「フロー理論」で説明できるものです。集中力を高めて至福の境地を体験するゾーンへの入り方を解説します。

大美賀 直子

執筆者:大美賀 直子

公認心理師・産業カウンセラー /ストレス ガイド

ゾーンに入る方法はある? 極上の快感をもたらす「フロー」とは

走るビジネスマン

最高のパフォーマンスを出したときの心境「チョー気持ちいい!」は、「フロー」を理解する印象的なキーワード

五輪の金メダル選手のように、最高のパフォーマンスを出すとき、人はどんな心理状態にあるか、ご存知ですか? その謎を解くキーワードが「フロー」。一般的に「ゾーン」「ゾーンに入る」と言われる状態で、精神が集中し、至福の境地に浸れる瞬間を意味します。
 
少し古い話ですが、アテネ五輪の男子平泳ぎで金メダルをとった北島康介選手の「チョー気持ちいい!」という有名な一言があります。最高の結果につながったこの極上の快感こそ、まさに「ゾーンに入った状態」「フローに入った状態」で、最高のパフォーマンスを出した人の心境です。
 

ゾーンに入ると、なぜ最高のパフォーマンスが出るのか?

ゾーンに入った状態を作り出す「フロー理論」を説明する際に、よく引用される有名な図式が「ヤーキーズ・ドットソンの法則」や「逆U字モデル」などと言われる図式です。覚醒レベルとパフォーマンスは、逆U字型の関係にあることを説明したものです。
 
ヤーキーズドットソンの法則とフロー

緊張しすぎずリラックスしすぎず、集中して取り組めるたときには最高のパフォーマンスを発揮し、至福の瞬間を味わえる


横軸の「覚醒レベル」とは、目覚めている状態。高い覚醒状態は緊張や興奮が過剰で、低い覚醒状態はリラックスしすぎています。縦軸の「パフォーマンス」は、行動の成果がどれだけ表れているかを表します。
 
図のように、「覚醒レベル」が中くらいの②「最適」の領域にいるとき、ハイパフォーマンスを発揮できることが分かります。ほどほどの緊張感とリラックスが同居した状態です。
 
覚醒レベルが高すぎると①「緊張しすぎ」の領域、低すぎると③「ダラダラ」の領域に入り、いずれもパフォーマンスを発揮できなくなってしまいます。
 
②「最適」領域の頂点にいるとき、体験できるのが「フロー」すなわち「ゾーン」です。どんな活動でも、最高のパフォーマンスを発揮できたと感じるとき、人は「肩に力が入らず、リラックスしてできた」「緊張しすぎないで楽しめた」などと言いますよね。
 

ゾーンに入る条件の一つは「チャレンジとスキルのバランス」

仕事や勉強、スポーツ、その他のあらゆる活動で至福の瞬間を体験したいなら、「ゾーンに入った状態」すなわち「フロー」を目指して努力することが大切です。

では、何を意識するとゾーンに入ることができるのでしょうか? 「フロー理論」を提唱した心理学者チクセントミハイは、条件の一つに「チャレンジとスキルがともに高く、バランスが釣り合っていること」をあげています。下の図を見てみましょう。
 
フローを体験できるプロセス

『フロー体験とグッドビジネス―仕事と生きがい』M.チクセントミハイ(著) 大森弘(監訳)/世界思想社をもとに著者作成


チクセントミハイによると、物事を始めるときには、チャレンジもスキルも低いAの状態にあります。新しいことに挑戦できる楽しさを感じていますが、その楽しさは「ゾーンに入った状態」「フロー」とは言えません。スキルが上がるとやがてBの位置になり、飽きてきます。当然、フローからも遠ざかります。

そのときこそ、課題の難易度を上げて努力するチャンス! コツコツ努力していくうちにスキルとのつり合いが取れて、Cの「フロー」(ゾーン)の位置にステップアップします。このときにようやく「仕事って楽しい!」「勉強っておもしろい!」といった心境に達します。当然、結果もついてきます。
 
ですが、やはりそのレベルに慣れてしまうとDの位置に流れ、退屈になります。そのときこそ、次なる再奮起のチャンス! もう一段難解な課題にチャレンジしましょう。コツコツ続けれてチャレンジとスキルのバランスが釣り合ったEの地点に入り、「フロー」すなわち「ゾーン」を体験できます。チャレンジもスキルも高度であるため、Cの地点より強い快感(場合によっては「チョー気持ちいい!」)を実感することができるでしょう。
 

ゾーンに入った状態を作り出す8要素

上述のように「ゾーンに入った状態」「フロー」を体験するには、チャレンジとスキルのバランスが必要です。今の生活に退屈を感じているなら、なにか一段高いレベルの課題に挑戦し、意図的にゾーンに入ることを目指してみましょう。
 
チクセントミハイは、「フロー」すなわち「ゾーンに入った状態」を構成する要素には、上述したものを含めて合計8つの要素を挙げています。
 
1. 目標が明確になっている……ゴールも大切だが、プロセスも大切。何を目指しているのか、常に明確にしている
2. すぐにフィードバックをもらえる……努力や成果について他者に相談したり、意見を聞いたりできている
3. チャレンジとスキルのバランスがとれている……上述のとおり
4. 深く集中している……取り組むべきことに没頭し、深く集中して行っている
5. 今を大切にしている……過去や未来に惑わされず、今取り組んでいる時間を大切にしている
6. 自分をコントロールできている……感情や状況に流されず、自分で自分の行動をコントロールできている
7. 時のたつのを忘れている……あっという間に時間がすぎてしまうほど、夢中になっている
8. 我を忘れている……自分自身の存在すら忘れるほど、目の前のことに没頭している
 

やるべきことから逃げて、遊びに没頭してもゾーンには入れない

ゾーンに入る体験をするには、ただ好きなことに没頭するだけではダメです。やるべきことから逃れ、目的もなく遊びに夢中になっても「ゾーンに入ること」はできません。その瞬間は楽しくても、やがてむなしさを感じてしまうでしょう。
 
自分は何を目指したいのか、目標を明確にして他者の意見も取り入れながら、自分自身をコントロールして行っていく。これをベースにして、時のたつのを忘れるほど夢中になって取り組んでいく。すると、「ゾーンに入った状態」「フロー」の境地に近づくことができます。
 
仕事や勉強、スポーツ、その他あらゆる活動を通じて、私たちは自分自身を成長させ、体験を通じて大きな感動を得たいと願っているのではないでしょうか。ぜひ、まずは自分がどの活動を通じて、最高の「ゾーン」「フロー」を味わいたいのかを考えてみませんか?
 
参考図書:『最先端科学×マインドフルネスで実現する最強のメンタル』辻良史(著)/ダイヤモンド社 『フロー体験とグッドビジネス―仕事と生きがい』M.チクセントミハイ(著) 大森弘(監訳)/世界思想社
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