起業・会社設立のノウハウ

飲食店がDX&情報共有ツールに「Slack」を選んだワケ。具体的な活用方法は?

「DX」が騒がれている昨今、飲食業界でもさまざまな工夫を行っているお店があります。今回は筆者が経営する「原価BAR」の事例から、小規模飲食店の「slack」活用術を紹介します。

柳谷 智宣

執筆者:柳谷 智宣

スマートフォンガイド

2018年に経済産業省が発表した「DX(デジタルトランスフォーメーション)レポート」をきっかけに、飲食業界も遅ればせながら、急速にデジタル化が進み始めています。

今回は筆者が経営する「原価BAR」の事例から、小規模飲食店の「slack」活用術を紹介します。
 

お店の拡大とともにコミュニケーション密度の低下が課題に

原価BARは2011年に五反田で創業し、すぐに同じビルに2店舗目、翌年に赤坂見附店、銀座店と展開していきました。当時、社員は10人でアルバイトもたくさんいます。筆者は経営に携わっており、現場にはほとんど出ません。そのため、電話とメールでやりとりしていました。

忙しい日々を過ごすうち、次第にコミュニケーション密度の低下が課題となってきました。同じ店舗内のスタッフはもちろん顔を合わせているので、意思の疎通が図れています。しかし、店舗間や経営者とは1カ月に1度の会議でしか対面していないからでした。

お店が急拡大している最中ですので、トラブルは日常茶飯事です。後になって聞かされることも増え、大トラブルに発展する前に手を打つ必要があると考えました。
 

予算が少ない中、選んだグループウェアは「サイボウズLive」

2012年でも、ビジネス情報を共有するツールはいくつかありました。しかし、飲食店はなにせ利益率が悪いです。ITシステムに大きな予算はかけられません。そこで選んだのが、「サイボウズLive」。サイボウズが開発するグループウェアです。2012年12月に導入しました。

無料というのはもちろんありがたいのですが、決め手になったのはスマホアプリが用意されている点です。経営者はPCで操作しますが、スタッフは全員スマホで利用します。ほとんどがPCを持ってさえいません。
創業当時の情報共有ツールは「サイボウズLive」です

創業当時の情報共有ツールは「サイボウズLive」です

もう一つが、外部への情報漏えい対策です。原価BARでは当時、経営者以外にメールアドレスを発行していませんでした。誤送信により、外部へ見られてはいけない内容が広まることを回避したかったのです。デジタルリテラシーが付いたら付与することにしました。グループウェアであれば外部に情報が漏れる心配はありません。

そこから5年、「サイボウズLive」を便利に使わせていただき、原価BARにとって重要な情報共有ツールとなりました。しかし、2017年10月、サービスの終了が告知されました。猶予期間の後、なくなってしまうのです。有料プランを用意してくれれば契約するほど気に入っていたのですが、仕方がありません。移行先を探しました。
 

「サイボウズLive」の代替で検討したのは

筆者はITライターですので、最先端の企業導入事例を数え切れないくらい執筆しています。その経験から、予算のない中小企業にとっての選択肢も熟知しています。ただし、何を選ぶのかは勝手には決められません。社長の鶴の一声で導入したツールが、社内で全く使われずに、導入失敗となるケースもよくあるからです。

そこで、まずは当時無料バージョンが公開されたばかりの「Microsoft Teams」を導入しました。マイクロソフト製品であれば外れるわけがありませんし、サービスが終了してしまうこともないでしょう。全員に個人所有のメールアドレスでアカウントを取ってもらい、使い始めました。

しかし、スタッフにヒアリングするまでもなく、本格的な導入は無理であることが分かりました。想像以上に使いにくいのです。UIが分かりにくく、目的を達成するための操作が分かりません。20年もITライターとしてマイクロソフト製品を使い倒してきた筆者がこうなのであれば、スタッフに使いこなすことは無理でしょう。

そこで次は「チャットワーク」を導入しました。筆者もフリーランサーとして契約しているビジネスチャットサービスです。2011年に日本でローンチしました。日本人が日本のビジネス向けに作っただけあり、とても分かりやすく、シンプルに使えます。
次に試したのが筆者がフリーランスとして活用している「チャットワーク」です

次に試したのが筆者がフリーランスとして活用している「チャットワーク」です

飲食店であれば、これで決まりだと思ったら、スタッフの反応がイマイチでした。そこで、個人的に興味のあった「Slack」を試用してみました。期限なく、無料で利用できるのがありがたいところです。試用期間が1カ月だと、ビジネスの現場で試すには短すぎるからです。
 

「Slack」を本格導入

これがはまりました。なんと満場一致で本格導入に賛成が集ったのです。キーボード操作やコマンド操作などができ、エンジニアとかプログラマが好きそうなUIだと思っていたので、驚きました。

無料版だと1万件までのメッセージを検索できるので、しばらく使おうと思っていたのですが、11ユーザーで使い倒すとあっという間に突破してしまい、2018年9月に有料契約して本格導入しました。
スタッフ全員が使いやすいというので「Slack」を本格導入しました

スタッフ全員が使いやすいというので「Slack」を本格導入しました

「Slack」は基本的に企業の中を風通し良くするために、すべてオープンチャンネルでコミュニケーションすべし、とのスタンスを取っています。しかし、経営の数値や店長への指示など、全員に見せなくてもいいのでは?と思う情報もあるので、いくつかはプライベートチャンネルを作成しています。
 

皆が使ってくれるように工夫したこと

後は店舗ごとにチャンネルを作って情報共有を図りました。無料試用の段階で全員触って気に入っているだけあり、普通に使い始めてくれました。ITツールの導入はスタッフに使ってもらうということが大きなハードルになります。今回は、色々触ってもらい、気に入ったものを選んだことで成功したようです。
スマホアプリで活発にコミュニケーションしています

スマホアプリで活発にコミュニケーションしています

ただし、みんな基本的なチャットとしか利用しませんでした。筆者がさまざまなメディアで執筆した「Slack」の活用記事も読んでくれません。そこで、わざといろいろな機能を使って「Slack」に投稿しました。ユーザーを指定してメンションを付けたり、引用したり、他の投稿をさらに共有したりしたのです。すると、便利だと思った機能は真似してくれるようになりました。

>次ページ「運用面で気をつけていること」
 
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