起業・会社設立のノウハウ

飲食店が緊急事態宣言を機に超アナログ管理から「kintone」を使ってDXに挑む

アナログ一辺倒といわれる飲食業界ですが、DX化に向けてさまざまな工夫を行っているお店があります。小規模飲食店が「kintone」を活用して超アナログ管理だった出退勤や経費精算をデジタル化した事例を紹介します。

柳谷 智宣

執筆者:柳谷 智宣

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2018年に経済産業省が発表した「DX(デジタルトランスフォーメーション)レポート」をきっかけとして、日本中の企業がデジタル化・IT化に興味を持ち始め、コロナ禍で急速に普及している状況です。飲食業界も遅ればせながら、デジタル化が進み始めました。

大企業であれば、さまざまな施策が打てるのですが、小規模企業だとITサービスの最低契約金額からして負担になってしまう傾向にあります。とはいえ、紙とペンでの管理は効率が悪く、トラブルや属人化の原因になってしまいます。

筆者が経営する「原価BAR」も現場ではアナログ管理も多いのですが、ゆっくりとデジタル化を進めています。従来はExcelで行っていた売上管理や頭の中で行っていた情報共有、何をしていいのか分からず着手していなかった顧客管理を行うため、「kintone」を導入しました。今回は、小規模飲食店の「kintone」活用術について紹介します。
 

飲食業界がアナログ一辺倒なワケ

サイボウズが提供しているkintone。木村文乃さんのCMを目にした人も多いでしょう

サイボウズが提供しているkintone。木村文乃さんのCMを目にした人も多いでしょう

筆者はお酒好きが高じて、共同創業者として2011年に「原価BAR」をオープンしました。ITライターでしたので、アナログ一本槍の飲食業界に経験を活かせると思ったのです。しかし、飲食業界がアナログ一辺倒なのには理由がありました。

ITサービスのベースとなるコストが負担になり、中小規模の飲食店だと費用対効果を出しにくいのです。さらに、従業員はITリテラシーを学ぶ機会がなく、慣れていません。従業員達は必ず現場に集合するため、フェイストゥフェイスのコミュニケーションがメインになります。

そのため、まずは情報発信のためにTwitterやFacebookを使い始めました。電子メールは全スタッフに発行せず、その代わりに情報共有プラットフォームとして「サイボウズLive」というグループウェアを使っていました。「サイボウズLive」がサービスを終了することが発表されたので、2018年9月にビジネスチャットツール「Slack」を導入しました。
以前は「サイボウズLive」を導入しました。筆者と一緒に映っているのが共同経営者の横山さんです

以前は「サイボウズLive」を導入していました。筆者と一緒に映っているのが共同経営者の横山さんです

10年かけてですが、徐々にITツールを使う下地ができていました。しかし、業務フローには個人個人が作ったExcelファイルやアナログな紙がたくさん残っています。紙にメモをしたり、書類を紙で保管・管理したり、通帳に記帳するため銀行に行ったりしているのです。これらを排除し、デジタル化することで、業務効率を改善し、経営課題を解消していきたいと考えていました。
 

小規模飲食店が「kintone」を導入した理由

筆者はITライターで、近年はSaaS(Software as a Service)と呼ばれるWebサービスやスタートアップ・ベンチャーといった領域で取材や執筆活動を行っています。

飲食店向けのSaaSは数え切れないくらい登場しています。しかし、中小企業だとあれもこれも契約するわけにはいきません。そうすると、どこかにボトルネックが残ってしまいます。そんな中、サイボウズが提供する「kintone(キントーン)」に出合いました。

kintoneはWebデータベース型の業務アプリを構築できるクラウドのプラットフォームです。自分で業務システムを作れるというのがウリ。基本的に何でも作れるので、最初は眉に唾を付けて見ていました。何でもできるということは、それぞれに特化したサービスには劣るはずだ、と考えていたのです。

しかし、偶然kintoneの解説記事や取材記事を依頼されることがあり、知見を深めていくと、これは中小企業の希望の星なのではないかと感じるようになりました。何せ、1ユーザー月額1500円という価格で利用できるコスト感もありがたいところです。
kintone(画像はホームページより)

kintone(画像はホームページより)

kintoneで一通りのアプリを作れるようになってから、「原価BAR」にも導入しないかと共同経営者に持ちかけました。筆者が言うのであれば反対はしないが、どうするのかは分からない、という感じです。

kintoneはアプリを作るのも重要ですが、社内に浸透させるというのも同じくらい重要であることは分かっていました。アプリを作ったのに社内で使ってもらえなかった、という失敗事例を何度も取材したことがあるからです。
 

「デジタル化」ができていない状況から導入に向けて

そんな中、2020年2月、新型コロナウイルスのニュースが出始めたころです。社員の1人、鈴木君がプログラミングを勉強したいと相談してきました。「原価BAR」のシステムをゼロから構築し、業務効率を向上したいと言うのです。

最高のタイミングだと、口説きにかかりました。これからは、プログラミングなしでアプリを構築できるローコード・ノーコードプラットフォームが普及していくと考えている。誰でも扱えるとはいえ、深い理解と知識があった方がいいアプリが作れるのは当然。だから、kintoneを学ばないか、というわけです。

kintoneを社内で広めるには、経営層の確固たるバックアップと共に、現場にも情熱のある担当者が必要になります。熱くkintoneの良さをプレゼンし、その場は盛り上がりました。しかし、鈴木君が帰宅してからkintoneを調べたところ、「見た目が扱いづらそうで興味を持てなかった」と言うのです。結局、30万円かけてプログラミングスクールに行きました。
鈴木君をkintoneの沼へ引きずり込もうとした初回アタックはスルーされました

鈴木君をkintoneの沼へ引きずり込もうとした初回アタックはスルーされました

最後の手段として、筆者がIT担当としてやるしかないのかなと考えていた2020年5月、コロナ禍で緊急事態宣言が出されました。飲食店としては大ダメージの長期休業です。しかし、こんな機会は滅多にないので、ITの勉強会を社内で開催しました。すると、随分受入れてくれる雰囲気になっています。

社内で繰り返し言い続けた上、社会的にもDX(デジタルトランスフォーメーション)が必要だよね、というイメージが広がりはじめてきたからでしょう。

実は、DXとはITを使って新たな価値を創造することを意味しており、現場はまだその手前の「デジタル化」ができていない状況です。しかし、まずは踏み出さなければ進みません。ここでkintoneの本格導入が実現したのです。

もう一つ、鈴木君には悪いのですが、タイミングが良かったのは鈴木君のプログラミング学習が頓挫していたことです。2カ月頑張ったのですが、それだけではシステムをゼロから構築するスキルまで辿り着かなかったのです。目標とするレベルまでにはまだ時間がかかりそうだと感じて挫折したと言っていました。

「原価BAR」をオープンできないなら、他の収益源を作らなければなりません。そこで、物販サイトを構築し、その情報管理をkintoneで行うようにしました。それまでは、「Slack」で無理矢理管理していた、ストック型の情報もkintoneに移行します。顧客台帳もアプリ化しました。お客さまの1人が「原価BAR」のためにクラウドファンディングを立ち上げてくれたので、その支援者管理やメール送信などもkintoneで行いました。
クラウドファンディングの管理をkintoneで行いました

クラウドファンディングの管理をkintoneで行いました

ここまではすべて筆者がアプリを作り、鈴木君にメンテナンスや改修を任せました。社内もkintoneを使う下地ができてきたのですが、緊急事態宣言が解除されるとまた忙しい日々に戻り、活用度が低下してしまいました。

>超アナログ管理だった出退勤と経費精算をkintoneで管理
 
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