学校公表の合格者数が、各塾の合格者総数と一致しない
まず、こちらの表をご覧いただきましょう。これは2021年度中学入試における、東京御三家の学校公表の合格者と、大手4塾が発表している合格実績、そして大手4塾の御三家合格者数の合計をあらわしたものです。 見ていておかしい点に気づきませんか。そう、学校公表の合格者数と大手4塾の合格者数の合計がイコールの関係になりません。さらに、表中の大手4塾以外にも、中学受験指導をおこなう塾はたくさんありますので、塾の合格者数合計はもっと多くなります。なぜだかわかりますか?“ひとり”の受験生の合格校を“複数”の塾でカウント
原因は、ひとりの受験生の合格校を、複数の塾でカウントしているからです。たとえば、メインの集団塾に通いながら、弱点克服を目的に他の個別指導塾に通っているとしましょう。ある一定期間両方の塾で授業を受け、入試が終わるとそれぞれの塾が合否を調査します。そして、合否が判明したらそれぞれの塾が合格実績としてカウントするのです。このような現象は「ダブルカウント」と呼ばれます。ちなみに、全国学習塾協会のガイドラインでは、それぞれの塾が合格実績に含めることができる生徒を「受験直前の6カ月のうち、継続的に3カ月以上在籍し、かつ受講時間数が30時間を超える」生徒に限ることを規定しています。これは塾間の競争に公平性をもたらすこと、また、ご家庭により安心し、適切に塾選びをしてもらうための規定です。それでも上記の例を考えると、2つ以上の塾で同じ子の合格実績がカウントされてしまいやすいのです。
上表の大手塾のように合格実績に「テスト生は含みません」などの注釈をつけている塾があります。逆に、そういった文言を確認できない塾もあります。なかには合格者を水増ししている可能性もあります。合格実績の数値だけを見て塾選びをするには注意が必要です。
合格実績からは見えない「不合格者」の数
成功者数しかわからない、合格実績のみで塾選びをするのは危険
たしかに、数値で示すとインパクトがあります。でも、冷静に見れば「前年比〇〇%アップ!」などの数値は、今年度の受験生と、顔や名前、実力も異なる前年度の受験生とを比較しただけの数値です。他人と比較しても「ただ合格者数が増えたかどうか」という、数値の結果しかわかりません。
中学受験は、受験生の9割以上が1回以上の不合格を経験するといわれます。全勝で入試を終える受験生は本当に珍しいのです。つまり、この合格実績からわかるのは、「成功した部分」のみです。合格実績のみで塾選びをすると、これから説明するカラクリに引っかかってしまうかもしれません。
合格者数ではわからない、見抜くべき3つのこと
吉崎さんは合格実績からだけではわからない見抜くべきことを「中学校ごとの合格率」「校舎単体での合格実績」「どんな子が受験したのか」の3点だと考えているそうです。1. 中学校ごとの合格率
合格実績から「その塾が〇〇中に何名受験させたか」「そのうち、何名が不合格だったか」がわからない以上、中学校ごとの合格率は読み取れません。合格者数は1つの指標になるかもしれませんが、見えない不合格者を意識すると、「下手な鉄砲も数撃ちゃ当たる」の可能性もあり、合格者数が多くても、合格率は低い場合が考えられます。
たとえば、開成中の2021年度入試の受験者数は1051名、合格者数は398名で、合格者の割合は受験者数のわずか38%です。多くの合格者を輩出する塾でも、それ以上の不合格者を出しているはずです。不合格者が多いということは、合格するための力をつけさせられなかったか、適切な進路指導ができなかったのかなど、指導力に問題があるのかもしれません。
2. 校舎・教室単体での合格実績
塾の合格実績からは「その塾全体の合格実績」はわかります。しかし、本当に知りたいのはそこではなく、校舎・教室単体の合格実績ですよね。何校舎・何教室もあるような大手塾の場合、校舎・教室単体の合格実績がもの足りなくても、全校舎・教室の合格実績に合わせると、ごまかせてしまいます。大手塾へ通塾を検討している場合、最寄りの校舎・教室の合格実績を問い合わせてみるとよいでしょう。
また、その塾の名を冠しても、塾の世界がヒト対ヒトである以上、校舎・教室間での指導力が同じということはありません。「子どもが合格する力をつけられるか」は、子どもの努力と、講師との相性で決まると私は考えています。塾選びは合格実績だけで決めるのではなく、実際に見学や体験を経て決めるのがかしこい選び方でしょう。
3. どんな子が受験したのか
親切な塾の場合、通塾期間や指導形態などを根拠に合格実績の対象を明記していますが、一人ひとりがどんな子かはわかりません。はじめは勉強が苦手だった子、もともと優秀な子もいるかもしれませんし、その塾のみでがんばった子や、転塾をくり返して6年生でその塾に落ち着いた子、複数の塾をかけ持ちしていた子もいるかもしれません。
そのような子たちがどこを受験し、どんな結果になったかはわかりません。その子たちは「他人の子」であり、わが子が同じように「〇〇中何名合格!」のとおりの結果を手に入れるかどうかは「やってみないとわからない」のです。これがわからない以上、合格実績のみで我が子の未来を決めることはできないと考えます。
塾選びをするなら、合格実績に頼りすぎず冷静に判断を
合格実績は参考指標のひとつでしかない。我が子に合う信頼できる塾選びを冷静に
【取材協力】吉崎正明/都内の中学受験専門塾講師/12年間在籍した大手進学塾では難関選抜講座担当を歴任し、社内数千名が出場する「授業力コンテスト全国大会」において優勝経験あり。その後家庭教師を経験し、2019年より現在に至る。全国トップレベルの授業技術と多彩な戦術眼を駆使し、御三家中などの最難関校から幅広い成績層まで、多くの受験生を救ってきた。茨城県行方市出身。元高校球児。
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