主なポイントは以下のとおりです。
・給与所得控除の引き下げ
・基礎控除の見直し
・所得金額調整控除の創設
・配偶者控除・扶養控除などの合計所得金額要件の見直し
・未婚のひとり親に対する寡婦(寡夫)控除の追加
ひとつひとつみていきましょう。
給与所得控除の引き下げ
給与所得者の必要経費は正規や非正規、パートやアルバイト、営業職や事務職といった雇用形態や就労形態、職種の如何を問わず税法上、法定されています。このことを給与所得控除というのですが平成29年から令和元年の年末調整に対応してきたものが下記の図表となります。
これが令和2年以降、下記のように置き換わるので令和2年の年末調整はこの給与所得控除により給与所得が算定される初めての年末調整となります。
ポイントは給与所得控除額の最低額が65万円から55万円に引き下げられることに代表されるように、総じてどの所得層においても10万円引き下げられるほか、給与の収入金額、つまり一般的には年収が850万円を超えた場合、給与所得控除額の上限が195万円に抑えられることにあります。
基礎控除の見直し
このように給与所得控除が引き下げられた結果、「いきなり増税か」というとそんなことにはなりません。14種類ある所得控除のうち、基礎控除が従来の38万円から原則として48万円に引き上げられています。確かに上記のとおり、合計所得金額が上がるにつれ、段階的に縮小されているのですが、「給与の収入金額が2000万円を超える人」はそもそも年末調整の対象者から外れますから、年末調整の対象者であれば、すべからく基礎控除が48万円に引き上がるととらえておいていいと考えます。
高額所得者は所得金額調整控除申告書への記入も忘れずに
さらに、年収850万円超ある人は「所得金額調整控除を受けられるのではないか」ということを検討してみてください。所得金額調整控除の適用対象者ですが、給与等の収入金額が850万円を超える給与所得者で以下のいずれかの要件を満たす者であれば、適用が受けられます。
- 本人が特別障害者に該当する者
- 年齢23歳未満の扶養親族を有する者
- 特別障害者である同一生計配偶者または扶養親族を有する者
これに記入することにより、年収850万円超の高額所得者であっても、給与所得控除に所得金額調整控除を上乗せされるので、実質「給与所得控除10万円の減額」の影響しか受けないことになります。
なお、国税庁が発表している「年末調整のしかた」には、所得金額調整控除申告書の記載例として、年齢23歳未満の扶養親族を有する者がいる場合が公表されていますので、参考にしてみてください。
配偶者控除・扶養控除などの合計所得金額要件の見直し
給与所得控除の引き下げに影響された税制改正で、令和2年の年末調整から実施されるものには、配偶者控除、扶養控除などの合計所得金額要件の見直しがあります。具体的には 同一生計配偶者、扶養親族、源泉控除対象配偶者、配偶者特別控除の対象となる配偶者および勤労学生の合計所得金額要件がそれぞれ10万円引き上げられ、下表のとおりとなっています。
ここでポイントとなってくるのは配偶者控除・扶養控除が適用されるかどうかの判断材料のひとつが「合計所得金額38万円以下」から「合計所得金額48万円以下」に引き上げられたのであって、配偶者控除の所得控除額や通常の扶養控除の所得控除額が「38万円」から「48万円」に引き上げられたのではない、ということです。
算式で説明すると以下のとおりです。
適用対象者となる大学生の長男に102万円のアルバイト収入があった場合、平成29年から令和元年間であれば65万円の給与所得控除が適用されるので合計所得金額要件の判定は
- 102万円-65万円=37万円
しかし、令和2年以降の給与所得控除の最低額は55万円なので、算式は
- 102万円-55万円=47万円
したがって、この合計所得金額の要件そのものを「38万円」から「48万円」に引き上げた最初の年末調整が2020年(令和2年)から開始されます。
未婚のひとり親に対する寡婦(寡夫)控除の追加
従来の寡婦控除および寡夫控除は原因に「離婚あるいは死別後婚姻せず」あるいは「死別後婚姻せず」とあるため、婚姻関係にあった配偶者と「死別」もしくは「離別」したという要件が必要でした。ところが、2020年以降、「ひとり親であれば婚姻の有無を問わない」という制度に改められました。
一方で、「合計所得金額500万円超」の場合、寡婦控除も寡夫控除も適用が受けられなくなることから、「経済困窮に陥る可能性が高い」シングルマザー(あるいはシングルファーザー)に手厚い税制改正となっています。
年末調整実務においては、「住民票において、世帯主と事実上婚姻関係と同様の事情にあると認められる記載がなされていないこと」の事実確認が必要です。
該当者は早めに「世帯全体の住民票の写し」の交付を受けるなどの準備が必要です。
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