経済的不安やお金の悩み……収入が上がればストレスは消せるのか
年収が多ければ幸せになれるは間違い?
では、経済的な豊かさは、ストレスを軽減し、幸福度を増してくれるのでしょうか? 興味深いデータから考えてみたいと思います。
高収入で幸福度が減少? データから見る収入と幸福度の関連性
「年収が高ければ幸福度は増すのか」という疑問については、興味深いデータがあります。内閣府の『「満足度・生活の質に関する調査」に関する第1次報告書』(2019年)によると、世帯年収が300万円を境に、総合主観満足度はそれ以降の年収の増加と満足度に比べると大きく上昇することが示されています。一方で、世帯年収2,000万円以上3,000万円未満をピークに、それ以上の年収があっても幸福度は減少していきます。また、大阪大学COE(Center of Excellence)が20~65歳までの4,224人から回答を得た調査(2004年)によると、世帯所得500万円台から900万円台、1,100万円台から1,300万円台までの幸福度はほぼ横ばいであること、さらには世帯所得が1,500万円を超えると低下することがわかりました。
これらの統計結果を見ると、「人は年収が増すほどに幸せになれる」とは、単純に言い切れないことが分かります。
年収が増えても幸福にはなれない、心理学的理由と背景
お金が増えれば経済的な悩みからも解放され、幸せになれると考える方が多いと思いますが、事はそう単純でもないようです。人は手に入れるものが増えれば、それらを失う恐怖も増えていきます。一般的に、年収が増えると生活水準も上昇し、交際相手の質も変化していきます。たとえば、住居が郊外の手ごろなマンションから高級住宅街の億ションに変わり、飲み放題の居酒屋で楽しんでいた交際が、万単位の高級レストランでの会食を楽しむ交際へと変化していきます。このように生活や交際相手の質が変化し、日常化してくると、その質を維持できなくなることへの恐怖が募ってしまいます。特に、運によってにわかに収入を伸ばした人には、その収入を永続的に維持していけることを実感しにくく、手にした富を失うことへの恐怖が高まりやすくなります。
また、人の欲望は限りのないものです。年収が増えていくごとに、より以上の富裕層の存在を知るようになり、現在の水準では満足できなくなります。人には望む幸福を手にした途端、その幸福がたわいのないものに感じられ、より以上の幸福を追い求めていく傾向があります。これを「幸福のパラドックス」と呼びます。
さらに、一般的に高年収の方ほど多忙であり、高水準の収益を維持するために大量の仕事を抱え、社員や顧客や取引先との関係に時間とエネルギーを費やします。そのため、当然生活の中心は仕事になり、日々の安らかな暮らし、家族との和やかな団らんに割く時間が減ってしまいます。すると、家庭の問題をお金で解決することが増え、家族とのコミュニケーションがお金を介したものになりやすくなります。こうして大切な人との関係が希薄化し、情緒的な雰囲気や信頼関係が失われやすくなることがあります。
お金は「幸せのタネ」……収入に幸福感を左右されないために大切な心構え
お金は、私たちの暮らしを豊かにし、人の成長をバックアップしてくれる「幸せのタネ」です。一方で、お金はかかわり方によっては人を不安に陥れ、大切な人とのきずなを引き裂いてしまう「不幸のタネ」になることもあります。お金を「幸せのタネ」にするためには、「お金を使う目的」を明確にする必要があります。「幸せになるため」にお金とかかわりたいなら、「自分が求める幸せの形」を明確に考える必要があるのです。
それは、パートナーや家族との愛情とやすらぎを得るためですか? 自分のためだけでなく、周りの人、世の中の人々を豊かにするためでしょうか? 目的によってお金とのかかわり方も異なってきます。お金によって幸せになりたいなら、まずはこの大事なことをぜひじっくり考えてみてください。
■参考文献
- 「満足度・生活の質に関する調査」に関する第1次報告書 (内閣府 2019年)
- 「なぜあなたは不幸なのか」(大阪大学経済学 2009年)