ラウル子爵役・小野田龍之介さんインタビュー
小野田龍之介 91年神奈川生まれ。幼少から学んでいるダンスと圧倒的な歌唱力を武器に、ミュージカルを中心に活躍中。近年の出演作品は、『ウェストサイド物語』『三銃士』『ミス・サイゴン』『メリー・ポピンズ』など。11年のシルヴェスター・リーヴァイ国際ミュージカル歌唱コンサート・コンクールではリーヴァイ特別賞を受賞。『ラブ・ネバー・ダイ』の後には『レ・ミゼラブル』への出演が控えている。(C)Marino Matsushima
“特別な作品”の続編とあって、身の引き締まる思い
――小野田さんは前作にあたる『オペラ座の怪人』にはどんなイメージをお持ちだったでしょうか。
「俳優という立場からすると、いろいろなミュージカルがある中でも特別な作品、特に格式の高い作品という印象を持っていました。ロイド=ウェバーさんの音楽はクラシック音楽だけでなく、そこにポップスやハードロックの要素を加えていて、歌いこなすのは簡単ではないだろうな、と。
またファントム、クリスティーヌ、ラウルを中心として、少人数に集約された物語なので、明確に演じないと、ただただ素晴らしい音楽が流れていって“結局誰が何を思ったお芝居なんだろう”と思われかねないな、とも思いました」
ラウルの“激変”に対して驚きは無かった
――それに続くのが今回の『ラブ・ネバー・ダイ』です。
「(前作と)話が違うと感じられる部分もあるかと思いますが、それを成立させるのが役者の力量なのかなと思っています。ただ単にメロディを美しく歌うのではなく、僕であればラウルの心にぶら下がっている重りを感じながら歌詞をお伝えするなかで、“そういう見方もあるのね”と納得いただけたら嬉しいです。
でも僕自身は、ラウルが『オペラ座の怪人』事件以降、ギャンブルで失敗し、お酒に走ってしまう人間に堕落していたことに関しては驚きませんでした。というのは、ラウルとクリスティーヌが繋がりをもったきっかけは(裕福な貴族と歌手という)経済的なものであって、もちろんそこから愛が芽生えていったわけではあるけど、決して芸術的な部分がきっかけではないですよね。彼はクリスティーヌの音楽的才能を完全に理解して結婚したわけではないと思うんです。
そんな二人が互いに年齢を重ねていくうち、社交の場には連れ立って行けても、彼女が音楽界のスターたちと話をしているところには入っていけない。愛する人が愛している領域に入り込んでいけないのは、ものすごく苦しいことだと思うんですね。“好きにしておいで”と相手を送り出す日々が続くと、人間はどうしても孤独になる。ラウルはそこでギャンブルやお酒という方向に行ってしまったのだと思います。とても切ないですね」
――ラウルとしてはどんな夫婦でありたかったのでしょうか。
「彼としては、ただただ穏やかな生活を送りたかっただけだと思います。歌手としてのクリスティーヌを支えようという気持ちだったろうし、彼女がやっていることを否定したことは一度もないと思うんですよ。ただ、自分がふがいなくなってきてしまったわけであって」
――芸術を理解しきれない自分に対して?
「そう思います。人と交流することはうまくできても、音楽の専門的な部分はわからない。愛する人がとても楽しく喋ってるところに入っていけないつらさというのも、共感していただける部分ではないかと思います。ラウルはラウルなりに、つらかったんでしょうね」
いかに真心を伝え、妻の心を揺り動かすか
――そんなラウルはファントムと、クリスティーヌを巡って大きな賭けをすることに。賭けた直後に、ラウルは彼女に舞台に立たないよう懇願します。彼の真心が伝わるこの部分は、大きな見どころですね。
「事態が大きく動くところですよね。乗せられやすい(軽はずみな部分もある)ラウルですが、ここでその本心が分かる。ただ、ラウルという人間の全てがクリアになるわけではなく、“君を愛してるよ”だけでは終われないナンバーだと思っています。彼の内面にはファントムと賭けをしてしまったことに対する恐怖もあるし、もし勝てば借金を返せる、邪魔なファントムもいなくなるという都合のいい期待もしている。そんな部分も重くのしかかったままこの歌を歌うんだな、と今、稽古の中で感じています」
――ここでクリスティーヌの心をどう揺さぶるかが、その後の展開の面白さを左右しそうですね。
「俳優の演じ方次第なのでしょうね。ただ単にうじうじした男で終わるか、“彼は彼で本当に苦しんだ結果、お酒に走ったり、妻子に強く当たったりと常にむしゃくしゃした男になってしまったんだな”となるか。お客様に共感していただけるよう、作っていきたいなと思います」
――妻のみならず、息子のグスタフに対しても強く当たってしまうのは?
「グスタフはピアノも弾けば歌声もきれいだったりして、音楽を楽しいと感じている。ラウルは“お前もか、お前も音楽に行ってしまうんだな”と思ったでしょう。3人で幸せにやっていこうと思っていたのに、妻と子が音楽を巡って二人だけで楽しくやっている。自分だけがそこに入っていけないつらさが、強く当たらせてしまったのではと思います」
“二人のファントム”への思い
――今回、特に楽しみにしていることは?
「何より、二人のファントムとの共演ですね。まず日本のオリジナルのファントム、市村正親さんと共演できる。こんな光栄なことはありません。僕が初めて聴いた日本人のファントムも市村さんで、ファントムと言えば“わたしの~宝物に~”という、あの市村さんの声がすぐ蘇ります。『ミス・サイゴン』でもそうでしたが、初演から出演している方と共演させていただけるというのは俳優として、本当に特別なことです。『オペラ座の怪人』初演のエネルギーがあったからこそ、作品は成功して今も日本で愛されているし、『ラブ・ネバー・ダイ』も上演できる。その初代ファントムとご一緒できるのは、本当に大きな財産ですね。僕の俳優人生の中で、27歳の時に市村さんとファントムの世界にいられたというのは大きな誇りになると思います。
また今回、ラウルを演じることになって、『オペラ座の歌人』の音源を聴くにあたりどなたのバージョンで聴こうかとなった時に、石丸幹二さんのラウルで聴いたんですよ。ラウルを長年演じられた石丸さんの後に、続編である本作でラウルを演じさせていただくということについては、独特の緊張感があります。同時にどこか高揚感も、喜びもありますね。
ミュージカルファンとしては、ラウルだった石丸さんがファントムになって、どんな形になられるのか。いろいろなファントムと共演されるなかでファントムのエキスをたくさん吸収されていると思うので、どんなファントムになるのか、そしてそこに僕がどう対峙させていただけるのか、非常に楽しみです」
――どんな舞台になりそうでしょうか?
「もともと『オペラ座の怪人』のメロディがあちこちにちりばめられている作品ですが、今回は特にそれが多くなっています。『オペラ座の怪人』を愛する方にはそこも楽しんでいただけると思いますし、前作をご覧になっていなくても成り立つドラマです。
壮大な音楽の中で繰り広げられる星空のようなドラマですが、とにかく、僕は身を投じて繊細に作っていきたいですね。何か一つでもいいので、“あの人物の気持ちわかるな”と共感していただける物語になればと思っています」
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*次頁でクリスティーヌ役、濱田めぐみさんインタビューをお届けします!