マンション購入術

老朽マンションが急増!建て替えできる?できない?

マイホームとしてマンションが根づいて今に至っていますが、老朽化したマンションも出始めています。そこで注目されるのが、建て替えです。マンションの建て替えの成功事例などを基に、建て替えできるマンションの条件について考えていきましょう。

山本 久美子

執筆者:山本 久美子

最新住宅キーワードガイド

今後は老朽マンションが急増する!

分譲マンションという新しい住まいの形態が登場し、権利関係や管理運営について法律で定めようと「区分所有法」(正式名称は「建物の区分所有等に関する法律」)が制定されたのは、1962年のことです。
 
2017年末時点で分譲マンションの戸数は、約644.1万戸に達しました。1978年の宮城県沖地震を受けて、1981年に耐震基準が大きく改正されましたが、この中にはそれ以前の旧耐震基準のマンション約104万戸が含まれています。
 
国土交通省によると、築40年を超えるマンションは72.9万戸(2017年末時点)。これが、10年後には約2.5倍、20年後には約5倍になると見ています。これからは高経年化したマンションが急増するわけです。
 
必ずしも高経年化=老朽化というわけではありません。適切にメンテナンスすれば住機能が回復したり、寿命が延びたりします。
 
それでも、初期のマンションは今の耐震基準を満たしていなかったり、エレベーターが設置されていなかったり、給排水管の交換が難しい構造だったりして、建て替えせざるを得ないものも数多くあります。
 

建て替えできるマンションは限定的?

これまで建て替えが実施されたマンションは237件、実施中や準備中を含めても274件しかありません(2018年4月1日時点/国土交通省調べ)。建て替えが実現するマンションは限定的と言えるでしょう。
 
大きな理由は、建て替えに多額の費用を要すること、それゆえに管理組合での合意形成が難しいことにあります。
 
建て替えが実現したマンションの多くは、新築時に敷地にゆとりがあるなど、容積率を目いっぱい使っていないマンションに限られていました。容積率とは、建物の敷地面積に対する延べ床面積の割合のことですが、地域ごとに容積率が定められています。定められた容積率を超える建物を建てることはできませんが、容積率が余っていればその分を利用して、前より大きい建物を建てることができます。
 
建物が大きくなって新たに増えた住戸を販売して、その資金を建て替え費用に充てれば、以前から所有していた人の費用負担を減らすことができます。合意形成もしやすいと言えるでしょう。
 
建て替えの竣工年別で各戸が負担した平均額を求めた国土交通省の調査を見てみましょう。余っている容積率が大きいほど早く建て替えが実施されたからでしょうが、1996年以前や1997年~2001年では各戸が負担した平均額は300万円台(343.5万円・378.7万円)です。建て替えた時期が遅くなるほど負担額は増加して、2012年~2016年の場合では1105.9万円になっています。
 
調査結果

出典:国土交通省「マンションの再生手法及び合意形成に係る調査」


 
高額になっていると言っても平均1100万円程度の負担で済んでいますから、全額を区分所有者で負担する場合に比べるとかなり少ない額で建て替えが実現したことになります。ただし、これからは容積率にそれほど余剰がないマンションが建て替え時期に入ります。さまざまな工夫をしていかないと建て替え費用の捻出が難しく、建て替え自体が実現しないということになっていきます。
 

建て替え事例:四谷コーポラス→アトラス四谷本塩町

 民間の分譲マンションとして日本初といわれる「四谷コーポラス」が建築されたのは、1956年、区分所有法が制定された1962年よりも前のマンションでした。割賦販売やマンションの管理事業が導入されるなど“レジェンド”と呼べるマンションで、当時はかなり高額でした。
 
事例四谷

建て替え前「四谷コーポラス」の外観(提供:旭化成不動産レジデンス)


マンションの特徴は、総戸数28戸のうちメゾネットタイプ(約77平方メートル)が24戸、フラットタイプ(約51平方メートル)が4戸と、メゾネット(上下階で1住戸になる間取り)が85%を占め、共用廊下が5階建ての1階と4階にしかないということです。
 
高経年化による耐震性能の問題や給排水管の改修が困難といったことに加え、段差が多い住まいであったことなどから建て替えが検討されるようになりますが、容積率の余剰は多くありませんでした。
 
容積率の余剰が多くない場合、建て替えの費用負担が大きくなって建て替え計画が進まないことが多いのですが、コンサルタントが入って道筋をつけていったことで進展していきます。分譲時から住み続けている人や相続で譲り受けた人が多いこともあって、円滑なコミュニティができていて管理組合への関心も高いことも幸いした点です。
 
建て替えの事業協力者に選ばれたのは、旭化成不動産レジデンス。容積率の余剰(従前より1.2倍程度増加)に加え、新たに地下住戸(容積率には含まれない)を設けるなど、販売できる床面積を増やす工夫をしたり、各区分所有者の資金や間取りの要望を丁寧に取り入れるプランの工夫をしたりして、従前の5階建てを地下1階地上6階建て総戸数51戸(販売戸数27戸)のマンションとした建て替えが実現しました。
 
事例四谷

建て替え後「アトラス四谷本塩町」の外観パース(提供:旭化成不動産レジデンス)


さて、気になる各所有者の追加負担ですが、従前より再取得する床面積を小さくした結果、建て替え費用を抑えられた人が多いといいます。
 
建て替えの竣工予定は2019年7月。新規の販売住戸は、JR中央線四ツ谷駅徒歩5分の好立地もあって、すでに完売しているそうです。
 

建て替え事例:メゾンドール早稲田→ザ・パークハウス早稲田

 次に、35戸+35戸=115戸という建て替え事例を紹介しましょう。
 
事例早稲田

ザ・パークハウス早稲田のマンション模型(筆者撮影)


もともとの分譲マンション「メゾンドール早稲田」(1971年築・7階建て35戸)では、築35年を過ぎたころから建て替えの検討に入りましたが、単独では建て替えに要する費用が高額で各戸の経済的負担が大きいため難航が予想されていました。
 
幸いなことに、隣地(国有地)に建っていた1970年築の国家公務員宿舎(7階建て35戸)が老朽化により廃止されることになり、隣地と一体で建て替えを実現する案を検討することになりました。
 
具体的な建て替え計画の検討推進にあたり管理組合は、事業協力者として三菱地所レジデンスを選びました。同社が隣地の国有地を競争入札で取得し、一体の大きな敷地になることで、10階建て総戸数115戸のマンションに建て替えることが可能になりました。
 
事例早稲田

出典:三菱地所レジデンス「新宿区戸山三丁目 隣接国有地と一体敷地での建替え事業」より


建て替えの竣工予定は2020年5月上旬。従前のメゾンドール早稲田の所有者のほとんどが建て替え後のマンションに戻る予定で、残りが一般に販売されます。単純計算すると35戸+35戸では計算上は70戸になりますが、土地を一体化することで接道条件などが改善し、土地の有効活用ができることで115戸(販売戸数79戸)になるという、難易度は高いものの恵まれた建て替えの成功事例と言えるでしょう。
 
筆者はこのマンションのモデルルームを見学しましたが、東京メトロ東西線早稲田駅徒歩6分で、都立戸山公園に面しているなどの立地条件が良いので、販売価格4900万円台~1億7000万円台ということですが、売れるのだろうなと思いました。
事例早稲田

ザ・パークハウス早稲田のモデルルーム(筆者撮影)

 

マンションは建て替えできる?できない?

管理組合で建て替えを決めるには、4/5以上の賛成が必要です。2つの事例とも建て替え決議が成立していますが、最終的には全員が建て替えに賛成しています。建て替え後に再取得して入居する割合も高いといった点で、珍しい事例と言えるでしょう。
 
空き家や賃貸になっている住戸もありましたが、どちらの場合も全員の区分所有者と連絡が取れ、賃借人の退去も円滑に進んだといいます。
 
建て替えが成功した要因の一つには、建て替えて再び住もうという「熱意や意思」が挙げられます。マンションへの愛着や仲間意識によるコミュニティの形成がなければ、建て替え計画はここまで円滑に進みません。
 
もう一つには、「建て替え費用の捻出」が挙げられます。隣地の取得による一体化で利用できる容積率を大きく引き上げたり、地下住戸による増床などの工夫もカギを握ります。場合によっては、区分所有者に資金力があるということも必要になるでしょう。資金力や家族構成などに応じて従前より小さい面積を再取得するといったことも選択肢となります。
 
都心立地の小規模マンションという共通する条件もありました。住んでいるマンションにプライドを持っていることや、小規模のメリットを生かしてコミュニティ形成がしやすかったことなども「熱意や意思」につながるでしょう。

加えて、都心の好立地であれば需要があり、販売する際に高く売れるという「事業収益性」も大きな要因になります。同じ面積でも高く売れるほど、建て替え費用をカバーできるわけです。
 

建て替えは条件がそろうかどうかがネック

逆に言うと、条件がそろわないマンションは建て替えが難しいということになります。相続で登記があいまいになっていて区分所有者が特定できない、賃貸化したオーナーの区分所有者が管理組合に関心がない、管理組合の活動自体が活発でないといった場合は、建て替え決議が成立しない要因になります。
 
立地が悪く需要がない場合は、事業収益性の面で建て替えのハードルが高くなります。区分所有者の所得差が大きい場合も費用の捻出で合意が難しい要因になり得ます。
 
これからのマンションの建て替えは、余剰容積率に頼った費用捻出が難しいものが増えていきます。政府も耐震性能不足のマンションなどで建て替える際に売却をしやすくしたり、一定の条件を満たせば容積率を緩和できたりといった「マンション建替え円滑化法」(正式には「マンションの建替え等の円滑化に関する法律」)の改正を行っています。

すべての老朽マンションが建て替えできるわけではありませんが、少なくとも管理組合の熱意がなければ、事業協力者の適切なサポートを得て、建て替え費用の負担軽減のためにさまざまな工夫を探る道も開けないでしょう。さて、あなたのマンションはどうでしょうか?
※記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。

あわせて読みたい

あなたにオススメ

    表示について

    カテゴリー一覧

    All Aboutサービス・メディア

    All About公式SNS
    日々の生活や仕事を楽しむための情報を毎日お届けします。
    公式SNS一覧
    © All About, Inc. All rights reserved. 掲載の記事・写真・イラストなど、すべてのコンテンツの無断複写・転載・公衆送信等を禁じます