(筆者Marino Matsushimaをツイッターでフォローしていただけますと、記事更新時にお知らせします)
10月の注目!ミュージカル
『るろうに剣心』←観劇レポートUP!
『深夜食堂』←壮一帆さん・愛加あゆさんトークショー&観劇レポートをUP!(2頁)
10月の注目!映像イベント
「アジア8K映像演劇祭」←現地取材レポートをUP!(3頁)
「東京国際映画祭」(3頁)
別途特集のミュージカル
『生きる』←新納慎也さん&小西遼生さん、ジェイソン・ハウランドさんインタビュー、稽古場レポートをUP!
『ノートルダムの鐘』←佐久間仁さん・清水大星さん・光田健一さんインタビューと名古屋公演観劇レポートをUP!
『スリル・ミー』←成河さんインタビューをUP!
『レ・ミゼラブル』←佐藤隆紀さんインタビューを掲載予定
“早霧剣心”が奇跡の復活『るろうに剣心』
10月11日~11月7日=新橋演舞場、11月15~24日=大阪松竹座 公式HP『るろうに剣心』の見どころ 幕末から明治へと、大きな時代のうねりに翻弄されながらも真摯に生きる人々を描き、シリーズ累計発行部数6000万部という驚異的な人気を誇るコミック『るろうに剣心』。2016年に宝塚歌劇団によって上演され、好評を博した舞台が、今回は男女キャストによって上演されます。
主人公・緋村剣心を演じるのは、宝塚版でも同役を演じた早霧せいなさん。涼やかな存在感と美しい剣さばき、絶妙なコメディ・センスが高く評価された早霧剣心が、男女混合キャストの中でどう輝くか、注目されます。 共演陣には、今回、舞台版のために新たに登場する加納惣三郎役に松岡充さん。ほか、上白石萌歌さん、廣瀬友祐さん、三浦涼介さん、上山竜治さん、植原卓也さん、愛原実花さん、松岡広大さんら多彩な顔触れが勢ぞろい。新橋演舞場と大阪松竹座という“和の殿堂”でどんな幕末エンタテインメントが誕生するか、目が離せません。
『るろうに剣心』観劇レポート:歌舞伎の手法も取り入れた、絶妙のエンタテインメント舞台
明治11年・東京。神谷活心流の師範代・神谷薫は流浪人(るろうに)の剣心という男と知り合い、道場に招く。屈託ない青年と見えた彼には、かつて幕末の京都で“人斬り抜刀斎”と呼ばれ、恐れられた過去があった。今は“不殺(ころさず)の誓い”をたて、弱者のために剣をふるう彼に薫はいつしか惹かれてゆくが、二人は運命に引き寄せられるように謎の実業家と関わることに。実業家の正体とは、そしてそのもくろみとは……? 長編の原作漫画のうち《東京編》をベースとした今回の舞台には、いずれ劣らぬ強烈な個性のキャラクターが多数登場。ある陰謀を巡って複雑に絡みあってゆく彼らを、大劇場公演ならではの豪華キャストが体現します。彼ら一人一人にしどころがあり、キャッチ―なナンバーを織り交ぜながら時にしっとり、時にエキサイティングに展開する構成も巧みですが、今回は新橋演舞場、大阪松竹座での公演ということもあり、六法風の花道引っ込みや宙乗り風の登場、すっぽんの活用など、歌舞伎の手法が取り入れられているのも楽しい趣向。脚本・演出の小池修一郎さんの面目躍如と言えましょう。 しかし今回の舞台の第一のポイントと言えば、やはり主人公の剣心を宝塚版から引き続き、早霧せいなさんが演じている点。加納惣三郎役の松岡充さん、斎藤一役の廣瀬友祐さん、四乃森蒼紫役の三浦涼介さんら、華々しい面々が変革と混沌の時代に生きる者たちを男くさく演じる中で、ほどよくユーモラスで力みがなく、いっぽうで立ち回りの美しい“早霧剣心”はひときわ清々しく、絶対的な正義の人として際立ち、“男が演じる男役”たちと並んでも全く違和感がありません。 加納役の松岡充さんは歌唱、所作に独自の美学を覗かせ、原作には登場しないこの役柄を加納としての“筋”を通して表現。“驚異の再現性”で斎藤一を演じる廣瀬友祐さんは、新選組から体制側へと立場を変えた彼のニヒルさ、こだわりを力強く描いています。 四乃森役の三浦涼介さんは登場の度に場内の空気を変え、御庭番衆を率いて歌う“最強という名の華を添えて”では、孤高のオーラの中に秘めた情熱がさく裂。“死の商人”こと武田観柳役の上山竜治さんは、混沌の時代に高揚し、金に憑りつかれた商人をエキセントリックに体現。『ミス・サイゴン』の“アメリカン・ドリーム”を彷彿とさせるソロ・ナンバー“これがガトリング砲”での狂気を帯びた歌唱は強烈なインパクトを残します。 剣心の仲間となる怪力の喧嘩屋・相楽左之助役の植原卓也さんは、豪快さと身体能力を生かしたキレのある動きが魅力的。名乗りをあげるくだりでは、歌舞伎の見得をギャグではなく、きちんと咀嚼して行っているのが流石です。“剣心の影”として、彼が抜刀斎と呼ばれていた頃を演じる松岡広大さんは、スピーディーかつダイナミックな立ち回りで躍動。一つの役の過去と現在を二人の、それも今回は男女の俳優が演じる妙を際立たせます。また瓦版売りと実業家宅に出入りするフランス人・セバスチャン役の遠山裕介さんが歌、居ずまいともに抜群の安定感。 女性陣では上白石萌歌さんが薫役の善良さ、まっすぐな魂を体現し、高荷恵役の愛原実花さんは長い黒髪がよく似合うのみならず、医師の家の令嬢としての知性とその境遇ゆえの憂いを的確に表現。また神谷活心流に入門する少年・弥彦役の(トリプルキャストのうちこの日の出演)大河原爽介くんが明瞭な口跡で間合いも良く、将来、弥彦が一門にとって中心的な存在になってゆく予感さえ抱かせます。さらに山形有朋役の宮川浩さん、その妻役・月影瞳さんら実力派がしっかりと舞台を引き締め、隙はありません。
休憩を含めて3時間程度の上演時間ながら、目の前で次々起こる事態にハラハラドキドキするうち、あっという間に幕切れとなる本作。爽やかな余韻が残ることで三世代鑑賞にもふさわしく、今年を代表するエンタテインメント舞台の一つであると言えましょう。
*次頁で『深夜食堂』をご紹介します!