話題の舞台が迫力の映像で楽しめる「アジア8K映像演劇祭」

10月20~21日=坊ちゃん劇場
 
「アジア8K映像演劇祭」の見どころ
アジア8K映像演劇祭

アジア8K映像演劇祭

芸術と観光の融合を図り、平成17年の開場以来、オリジナル・ミュージカルを意欲的にロングランしてきた愛媛県東温市の「坊ちゃん劇場」。現在は羽原大介さん作・岸田敏志さん作曲『よろこびのうた』を上演中のこの劇場で、アジア各国の話題の舞台を選りすぐり、日本が誇る超高精細8Kカメラで撮影した映像を上映するという、世界初のイベントが開催されます。
韓国ミュージカル『笑う男』

韓国ミュージカル『笑う男』

記念すべき第一回の今回は、同劇場の『よろこびのうた』はもちろん、海宝直人さん主演『ポストマン』(2017年)、来年には日本版も上演される話題の韓国ミュージカル『笑う男』(2018年)、ドストエフスキーの長編小説を100分の法廷劇ミュージカルに仕上げた韓国発『カラマーゾフの兄弟』(2018年)など、ミュージカル・ファンにとっては見逃せない作品ばかり。
韓国ミュージカル『カラマーゾフの兄弟』

韓国ミュージカル『カラマーゾフの兄弟』

入場無料、要予約(劇場 電話:089-955-1174)とのことですので、温泉旅行も兼ねてぜひ出かけてみてはいかがでしょうか。(公式HP上では締切日が設定されていますが、予約はまだ受付中とのこと)
 

アジア8K映像演劇祭レポート

『アジア8K映像演劇祭』

『アジア8K映像演劇祭』会場となった愛媛県東温市の坊っちゃん劇場(C)Marino Matsushima

8Kとは“劇場最後列から視力4.0で観るような体験”
 
10月20~21日、超高精細8Kカメラで収録されたアジア各国の舞台映像が、愛媛県東温市の坊っちゃん劇場に集結。

8K撮影の舞台映像とは、単に”きれいな画質”で収録される舞台というレベルではなく、アップなどはなく“全編が引きでの画面”で収録されても隅々までクリアに見えるのが第一の特徴。スクリーンが大きければまるでそこで俳優たちが実際に演じているような臨場感で観ることができ、小さい画面でも、例えば個人のタブレットなどで視聴する際、注目した箇所を拡大してもクリアに観られるのが第一の特徴です。

今回はこの8Kの特色を生かし、各舞台をすべて引きの状態で(全景を)撮影し、400インチという巨大スクリーンで上映。世界初の試みとして注目を集めましたが、その前日には松山市の全日空ホテルにて、記者会見とシンポジウムが開催されました。
『アジア8K映像演劇祭』

『アジア8K映像演劇祭』記者会見

まず記者会見では、加藤章・東温市長からの挨拶に続き、坊っちゃん劇場を運営する(株)ジョイ・アート代表の越智陽一さんが概要を説明。8Kの舞台映像を観ると客席の最後列から視力4.0で観るような感覚になれること、今回は“アジア”だが、2020年には“世界”8K映像演劇祭の初開催を目標としていることが語られました。

また今回上映される『よろこびのうた』演出家の錦織一清さん、『カラマーゾフの兄弟』出演の若手俳優イ・フィジョンさん、『歌ザイ(ニンベンに子)戯』(台湾オペラ)のプロデューサー、主演の唐美雲(タン・メイユン)さん、韓国エンタテインメント・ナビゲーターの田代親世さんが、期待の言葉を贈ります。
『アジア8K映像演劇祭』

『アジア8K映像演劇祭』記者会見に出席した台湾の唐美雲さん。

演劇の“新たな観方”が生まれる予感
 
引き続き同会場で行われたシンポジウムでは、8Kを使った番組を手掛けるNHKエンタープライズの関山幹人エグゼクティブプロデューサー、道後温泉旅館組合副理事長の河内広志さんが加わり、『カラマーゾフの兄弟』からはイ・フィジョンさんに代わり、プロデューサーのキム・スジンさんが登壇。
シンポジウムに出席した『カラマーゾフの兄弟』プロデューサー、キム・スジンさん

シンポジウムに出席した『カラマーゾフの兄弟』プロデューサー、キム・スジンさん

まずは加藤市長より、今回のイベントのルーツには“アートヴィレッジとうおん構想”という、文化による町おこしがあり、そこに8Kという新たな要素が加わったという経緯が語られ、“(文化に力を入れるだけでなく)自然に恵まれ、心も体も元気になれる東温市にぜひ足を運んで”との呼びかけが。
 
続いて錦織一清さんから、東京生まれの自分は『よろこびのうた』がきっかけで母方の祖父が愛媛出身であることを知り、今では第二の故郷のように感じていること、また従来の舞台映像はディレクターの目線で収録されるため、少年隊の舞台で自分が一生懸命踊っていても映像ではヒガシのアップになっていたりと悔しい思いをしたこともある。しかし(高精細ゆえに)引きの画面が可能な8Kなら、今後は別な形で演劇が残っていくし、舞台を観たことのない人も8K映像をきっかけに実物を観ようと思えるかもしれない、8Kは演劇の敷居を下げてくれるのではないか。微力ながら自分も尽力したいと情熱的に語られました。
『アジア8K映像演劇祭』

『アジア8K映像演劇祭』記者会見では台湾『歌ザイ戯』抜粋の上映も。

越智社長からは、そもそも映像演劇祭を思いついたのは、愛媛で映画を観たことがある人は多いが、舞台となると圧倒的に少ない。その違いは、ハリウッド映画は愛媛に来てくれるということ。かつて相撲やプロ野球もテレビ中継をきっかけとして全国的な人気を得たのだから、臨場感溢れる8K映像でブロードウェイなどのミュージカルを観てもらう場があれば、舞台に対する関心も広まるのでは、という思いだったというお話が。
 
それを受ける形で、NHKエンタープライズの関山氏から、8Kとは圧倒的臨場感をもって映像を楽しむために研究されたもので、もはやテレビという発想は忘れたほうがいい。目の前いっぱいに画面が広がる臨場感と、画素(の点)が見えないため、人間の脳では映像と本物の区別がつかなくなる、その2点を満たす技術で、パブリックビューイングのような大画面鑑賞と個人観賞の双方で広がっていくと思っている。主役だけでなく、脇役の方にも注目していただけるという意味で、新たな演劇の見方も生まれだろう。“生の舞台”とも、通常の舞台映像とも違う“第三の芸術”と言えるのではないか、と説明。
 
観光プロモーションにおける期待も
『アジア8K映像演劇祭』

『アジア8K映像演劇祭』記者会見では韓国『カラマーゾフの兄弟』抜粋も上映されました。

では今回どんな作品が上映されるのかということで、田代さんが韓国ミュージカル『笑う男』『カラマーゾフの兄弟』を紹介。また、海外作品は言葉の壁があるが今回のように字幕付きの8K映像を観ることで、これまで海外ミュージカルを観たことがなかった人が実物を観てみたくなったり、逆に日本の素晴らしい作品を海外に見せることもできるのでは、と指摘されました。
 
ここで錦織さんから“(舞台の作り手としては)作品を8Kで撮影させてよと言われるようになったら名誉なこと。それを見越して(凝った)舞台セットを作るといったことも面白いのでは。坊っちゃん劇場を13年間、“作品第一主義”でやってきた越智社長がこの企画をスタートしているので、(映像をどう扱うかについては)大丈夫(信頼できる)と思っています“と補足コメントが入りました。
 
また道後温泉組合の河内さんは、以前から行政と組んで地域のプロモーションに努める中で、現地ではアートに力を入れてきたが、8Kはその映像保存に活用できそうだし、道後温泉には夕食後の過ごし方が見つからないと指摘されてきた中で、隣の東温市で年間250回も公演をしている坊っちゃん劇場の存在を知り、ぜひ連携していきたいと発言。様々な角度から8Kという最先端技術を使ったこの映像演劇祭の可能性が語られ、刺激的な空気感の中でお開きとなりました。
『アジア8K映像演劇祭』

『アジア8K映像演劇祭』前夜祭レセプションにて。韓国『カラマーゾフの兄弟』と台湾『歌ざい戯』のスタッフ、キャストが壇上で挨拶。(C)Marino Matsushima

シンポジウム後には関係者が一堂に会してのレセプションが開かれましたが、壇上に立った方々の熱いスピーチからは、人口34000人ほどの東温市で、公営ではなく民営の劇場が成し遂げようとしている世界初の試みに対する期待と興奮が滲み、13年間、公演を続けてきた坊っちゃん劇場が、確実に地域にミュージカル文化を根付かせ始めていることがうかがえます。
 
映像演劇祭では“まるで引っ越し公演を観ているよう”な臨場感を体験
『アジア8K映像演劇祭』

『アジア8K映像演劇祭』期間中は東温市のゆるキャラ、いのとんも出勤(⁈)。場を和ませていました。(C)Marino Matsushima

翌日、映像演劇祭が開幕し、まずは坊っちゃん劇場の演目『よろこびのうた』(実際のカンパニーはこの時期、徳島で公演中のため不在)を鑑賞。400インチという大スクリーンに映し出された情景はかなり実寸に近く、遠近感もたっぷり。NHKエンタープライズの関山さんが言われた通り、映像特有のドットが見えないため、次第に目の前にあるものが映像なのか実際の人間なのか、判然としない感覚になっていきます。収録時にたまたま俳優が噛んだ台詞にも、思わずはらはら。若干、カメラの光量の調節の具合か、暗く感じられる箇所もありましたが、実際の舞台を観る際と同様の体力消耗と感動を実感できたのが何よりの驚きでした。(作品内容については後日掲載の「11月の注目!ミュージカル」で、作曲・岸田敏志さんへのインタビューとともに掲載します)。
 
もう一本、話題の韓国ミュージカル『笑う男』に至っては、絢爛豪華なセットに観ているこちらが飲み込まれるような感覚に。『レ・ミゼラブル』『ノートルダム・ド・パリ』のヴィクトル・ユゴー原作らしく、人間の業と希望をワイルドホーンの力強い音楽で描き、演出のロバート・ヨハンソンの、(最近、日本でも手掛けた)『マリー・アントワネット』同様、直球の政治的メッセージがずしりとお腹に響きます。
 
ある悲しい事情で“笑う男”と呼ばれる主人公が後半、アイデンティティを取り戻して歌うナンバーの、ワイルドホーン史上最強⁈というほどのパワフルなメロディ、そして新人俳優パク・ガンヒョンの声の驚異的な伸びにも引き込まれますが、人間のモラルはどこへいったのか、社会はこのままでいいのかというメッセージを一身に背負い、激しい感情の変化を見せる主人公は見るからに難役。来年の日本版では浦井健治さんがキャスティングされていますが、シェイクスピア劇等、様々な演目を経験し演技力を培って来ている彼に託されているものの大きさが感じられます。
 
いっぽうで彼の養父役は、韓国版では嘆きの多い“老け役”ですが、山口祐一郎さんはまた異なるスケール感をもって演じてくれるのではないか。さらにはじめは曲者的な色合いを帯びて登場するが、ストーリーの進展とともに本作の一縷の望みを象徴するような存在になってゆく女公爵役を、朝夏まなとさんはどう演じるだろうと、時に想像を巡らせつつ、迫力の鑑賞体験を楽しみました。
 
合間の時間には、坊っちゃん劇場の越智代表、そして翌日上映の韓国創作ミュージカル『カラマーゾフの兄弟』のキム・スジンプロデューサー、俳優のイ・フィジョンさんにも取材。
 
目指すのは“演劇界のカンヌ映画祭”
『アジア8K映像演劇祭』

坊っちゃん劇場代表の越智良一さん(C)Marino Matsushima

越智さんに改めて今回の映像演劇祭開催の背景についてうかがったところ、最初のきっかけとしては、2012年の『誓いのコイン』ロシア公演が予想を遥かに超えた大好評(全公演が満席、カーテンコールは総立ち)で、これを映像化しておけばさらに多くの人に観ていただけるのにと思い、以降の公演は映像収録に力を入れてきたが、どうしてもカメラワークが入るため、作品の演出家から“この撮り方では私がお客さんに観てほしいものが入っていない、これは私の作品ではない”と言われることがあった。けれども8Kなら画面全部を入れることができると聞き、これだと思ったとのこと。
 
今回のラインナップについては、まず世界最高の演劇国と言われるロシアの作品を呼びたかったが、現地に2000以上ある劇場のほとんどが国立で交渉に時間がかかる。だがロシアのトップスターでモスクワに自分の劇場、劇団を持っている人がいると聞き、交渉をしたら「自分の作品を日本で観てもらえるなら嬉しい」と快諾された。

次に韓国の『カラマーゾフの兄弟』については劇場主と数年前に会った時には映像化に乗り気でなかったが、今年になって『カラマーゾフ~』が閉幕と決まり、その後も多くの人に観ていただけるならとOKが出た。『笑う男』も最初は難しそうだったが来年、日本版が上演されることもあって承諾され、台湾作品については台湾を代表する芸術ということで紹介され、100人以上出演する舞台は引っ越し公演が難しいが、こういう形で日本で観ていただけるならと快諾を得た。『よろこびのうた』と並ぶ日本のミュージカル『ポストマン』については制作会社と以前からお付き合いがあり、実現したのだそうです。
 
今後については日本でも人気のある韓国ミュージカルを一つの柱にしつつ、2020年の“世界”8K映像演劇祭に向け、英米の作品も取り入れていきたい。この作品を通して地元の人々、日本全国、海外のミュージカル・ファンに様々な作品を楽しんでいただき、舞台振興とともに地域の活性化にも役立ちたい。将来的には見本市も同時開催し、バイヤーも来場するようなフェスティバルを思い描いているそうです。「例えば東京国際映画祭のような?」と尋ねると、「(世界を代表する映画祭である)カンヌ映画祭ですね」と越智さん。
 
時間をかけて練り上げた『カラマーゾフの兄弟』
『アジア8K映像演劇祭』

『アジア8K映像演劇祭』のために来日した『カラマーゾフの兄弟』キャストの一人、イ・フィジョンさん。ミュージカル版『バンジージャンプする』等に出演している。(C)Marino Matsushima

今年4月までソウルで上演されたオリジナル・ミュージカル『カラマーゾフの兄弟』は、ドストエフスキーの長編小説を男性5人で演じるミステリー・タッチの作品で、緊密な空気感の舞台。小さいころから母親と観劇を楽しみ、大学では舞台制作を学んだというプロデューサー、キム・スジンさんはこれまではストレート・プレイを手掛け、ミュージカルは本作が初めてだったそうですが、自分としては両者には境界は感じておらず、人間の善悪や宗教などシリアスなテーマを扱う本作を舞台化するにあたり、この形式がふさわしいと思った。脚本家や作曲家、演出家と2年をかけ、ショーケース(試演会)を行いながら丁寧に作り上げたのだそう。

彼女がその歌声とルックスにほれ込んでショーケースからキャスティングしたというイ・フィジョンさんは、もともとは映画俳優志望だったが歌が好きで、芸術大学在学中にミュージカルのオーディションを受けてみて以来、ミュージカルに出演するようになった。初めて本作の台本を読んだときは難しいと感じられたが、役どころが気に入っている。いつか日本でも演じる機会があったら嬉しい、とのことでした。
 
8K映像演劇には確かに強烈なインパクトがあり、芸術的な面でも、アーカイブ的な面においても今後、舞台芸術の上演形態に革命を起こすことになるかもしれません。しかし8K映像演劇祭の目標はあくまで“大勢の人を巻き込むこと”だという越智さん。地元の人々、海外まで舞台を観に行くのは無理でも国内だったら観に行ってみたいという他県のミュージカル・ファンを軸として、内外からの道後温泉観光客、日本に招聘する作品を探すプロモーター(バイヤー)など、どこまで客層を広げてゆけるか。未知数の部分も多いだけに無限の可能性を秘めた演劇祭からは、今後も目が離せません。
 

今年はアジアの音楽映画特集が登場「東京国際映画祭」

10月25日~11月3日=六本木をはじめ都内各地で開催
 
「東京国際映画祭」の見どころ
『めくるめく愛の詩』(C)Amin Mohamad

『めくるめく愛の詩』(C)Amin Mohamad

例年、東京の秋を彩ってきた東京国際映画祭。31回目の今年は、CROSS CUT ASIA特集で「ラララ東南アジア」と題し、フィリピン・ラップからタイ歌謡まで、音で旅する東南アジア映画が一挙上映されます。

1970年代からの20年にわたる愛をミュージカル風に追った『めくるめく愛の詩』(インドネシア)など、西洋とはまた違う音世界が楽しめそうな作品ばかり。特に4時間におよぶフィリピンのアカペラ歌唱劇『悪魔の季節』は浄瑠璃のような雰囲気もあり、独特の世界観に引き込まれるかもしれません。 公式HP

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