2016年に東京で開幕、その後京都、横浜公演を経て現在、名古屋で上演中のミュージカル『ノートルダムの鐘』。人間の愛と“業”を描いたヴィクトル・ユゴーの小説『ノートルダム・ド・パリ』に想を得て、アラン・メンケンの荘厳な音楽が彩る重厚な人間ドラマに昇華させた舞台は、開幕以来大きな反響を得ています。
『ノートルダムの鐘』(C)Disney 撮影:上原タカシ

『ノートルダムの鐘』(C)Disney 撮影:上原タカシ

15世紀のパリが舞台の本作では、ノートルダム大聖堂で鐘をつく若者カジモドとジプシー娘のエスメラルダ、大聖堂の大助祭フロロー、同警備隊長のフィーバスの愛憎が色濃く描かれますが、その中で警備隊長のフィーバスを演じているのが佐久間 仁さん、清水大星さん、光田健一さん(交互出演)。

戦場での功績が認められ、大聖堂警備隊長に任命されたフィーバスは見目麗しく、女性とみれば誰でも口説くいっぽうで、実は戦争中に心に傷を負い、今で言うPTSDに悩む一面も持つ人物。エスメラルダと出会い、生き方を大きく変えてゆくこのキャラクターを、3人はどのようにとらえ、演じているでしょうか。ご自身のプロフィールも交え、たっぷりとうかがいました。

《目次》
  • 佐久間 仁さんインタビュー
  • 清水大星さんインタビュー(2頁)
  • 光田健一さんインタビュー(3頁)
 

佐久間 仁さん・インタビュー

人類が希望を持ち続けられるよう、この物語を伝えていきたい
佐久間仁 09年オーディション合格の翌年『エクウス』で四季での初舞台を踏む。『思い出を売る男』G.I.の青年、『アスペクツ オブ ラブ』ヒューゴ、『ハムレット』フランシスコ―、船乗り、『ジーザス・クライスト=スーパースター』ユダ、シモン『クレイジー・フォー・ユー』ムース、『ノートルダムの鐘』フィーバス等を演じている。(C)Marino Matsushima

佐久間仁 韓国出身。09年オーディション合格の翌年『エクウス』で四季での初舞台を踏む。『思い出を売る男』G.I.の青年、『アスペクツ オブ ラブ』ヒューゴ、『ハムレット』フランシスコ―、船乗り、『ジーザス・クライスト=スーパースター』ユダ、シモン、『クレイジー・フォー・ユー』ムース、『ノートルダムの鐘』フィーバス等を演じている。(C)Marino Matsushima

――佐久間さんはディズニー長編アニメーション版の『ノートルダムの鐘』は以前からご存知でしたか?
 
「もちろんです。高校生ぐらいの時に観ましたが、当時の僕の年齢では深いところまでは理解できず、実はそれほど強い印象は残らなかったんです」
 
――それが今は……?
 
「完全に、惚れています(笑)。舞台版はハッピーエンドではなく、観客が考えたり、想像したりできる余地がある作りですよね。アニメーション版も素敵だったけれど、僕は個人的にシリアスな作品が好きなので、舞台版を知っていっそう『ノートルダムの鐘』という作品が好きになりました」
 
アーサー・ミラー戯曲好きの自分にとってまさに理想的な作品

――シリアスなものがお好きとのことですが、例えばどういった作品がお好きなのですか?
 
「僕は大学ではストレートプレイを専攻していて、アーサー・ミラーの『るつぼ』のような、ダークな作品が好きです。劇団四季に入ってからは『ジーザス・クライスト=スーパースター』(JCS)や『エビータ』に出会って、すごく好きになりました」
 
――『るつぼ』は17世紀アメリカの魔女裁判を通して集団心理の危うさを描いた作品ですが、『JCS』や『ノートルダムの鐘』にも同様の描写があります。佐久間さんにとって『ノートルダムの鐘』はまさにぴったりの作品だったのですね。
 
「オーディションを受ける段階では全く気づきませんでした。(合格して稽古に参加して)台本を読んでから、“やった!”と思いましたね」
 
――オーディションにはどんな気構えで臨んだのですか?
 
「はじめはカジモド役を受けようかと思っていたのですが、背も高すぎるし、フィーバス役の方が向いているんじゃないかという声もありまして、フィーバス役を受けました。
 
事前にいただいていたのは台本まるごとではなく、台詞の一部。エスメラルダとのやりとりだけで、全体像が分からなかったので、あれこれ考えながら臨みました。当日は演出家のスコット(・シュワルツ)さんから役柄について説明していただいたり、“今度はこういうふうにやってみて”というアドバイスをいただき、自分なりに一生懸命想像しながら取り組みました」

イマジネーションを総動員して臨んだ準備段階

――稽古がスタートしてから一番大変だったのは?
『ノートルダムの鐘』リハーサルより

『ノートルダムの鐘』リハーサルより


「クリエイティブスタッフの来日稽古までの間、台本だけを頼りにすべて想像力で作っていくのが大変でしたね。皆で“こうじゃないか、ああじゃないか”と話し合い、悩みました。スコットさんがいらっしゃってからは疑問に思う部分を全部質問して、解決していきました」
 
――実際、スコットさんと話してみて、想像と違った部分もありましたか?
 
「フィーバスがPTSDのような症状を持つという設定は、アメリカでの初演では無かったそうで、翌年の公演で追加されたのだそうです。きっとそこには相当の意味があるのだろうなと思ってはいましたが、スコットさんから“闇の部分を見せないと光も輝いて見えない”と言われ、僕が思っていたよりずっとシリアスに、ダークに見せないといけないのだと感じました」
 
――フィーバスが刹那的に見えるのは、戦争で心が傷ついたゆえでしょうか?
 
「僕はそうだと思います。彼は戦場で4年間過ごしたという設定ですが、それは相当、壮絶な経験だったと思うんですよ。“息抜き”というナンバーの中で戦場でのことがフラッシュバックするくだりがありますが、ここでフィーバスは(兵隊)仲間たちから話しかけられますよね。彼らに助けられて自分は生き延びることができた。自分は生きて、なぜ彼らは死んだのか。フィーバスにはそういう葛藤があったと思います。あるいは、仲間たちを置いて逃げたという負い目もあったかもしれません。
 
PTSDの症状はさまざまで、涙が出たり手が震えたり、爆弾の音が(幻聴で)聞こえてパニックになったりもするそうです。フィーバスもそんな症状を忘れるために、お酒や女性に逃げていた。そんな日々の中で出会ったのが、エスメラルダだったんです。
『ノートルダムの鐘』(C)Marino Matsushima

『ノートルダムの鐘』(C)Marino Matsushima

初めは彼女の見た目に惹かれたのだとは思いますが、大聖堂の中で(神に対して)自分のことではなく弱き者を助けてほしいと祈る彼女を見て、自分は戦場で逃げたが、この人は自分より他人のことを救おうとするのか、と衝撃を受けます。この時、エスメラルダは自分にとっての救いだとフィーバスは思ったのではないでしょうか。そうでないと、後にとっさの出来事の中で、仕事も地位もすべて捨てるような行動には出ないと思います」

虐げられた人が、虐げる者を許すということの意味

――そのあとの展開で、ジプシーの隠れ家がフロローたちに襲撃されそうになり逃げる時、フィーバスはエスメラルダに「僕についてきて」と言い、断られると「では僕が君についていく」と言います。男性が女性に「ついていく」という発想は、現代的というか新鮮に聞こえます。
 
「この時点の彼は、彼女のためにすべてを捨ててしまっています。もう何も持っていないので、ついていくしかないのではないでしょうか。中世の男性らしくないかもしれませんが、実際にこういう状況になったら言うかもしれません。自分にとってエスメラルダは光であり、救い。それくらいの存在だから、あなたでないと僕は意味がないという思いで言っていると思います。あなたについていく、何があっても、と。
 
エスメラルダが一度断ったのは、兵隊とジプシーというのが、当時は会うことさえあり得ない立場だったからです。エスメラルダにとって、兵隊たちは自分たちの仲間を(抑圧し)殺す存在。その大将を愛してはいけない、と自分を抑えるのですが、(最終的には)フィーバスの気持ちを受け取るのです。
 
(ジプシーのリーダーである)クロパンも、ずっとフィーバスを嫌がっていますが、エスメラルダに対する気持ちが本物だと知って、最後に手を差し伸べる。そこにどれだけ大きな意味があるか。一番虐げられた立場の人が権力を持つ人を許すということが、どれだけ難しいことか。彼の心を動かすためにも、僕はあのシーンでいかにエスメラルダを愛しているか、思いを伝える必要があると思っています」
『ノートルダムの鐘』リハーサルより

『ノートルダムの鐘』リハーサルより

――もう一つ、フィーバスで印象的なのが“たぶん、最初から(自分は)何も持っていなかったんだ”という台詞。自分を客観的に見つめた台詞はとても潔く聞こえますが、こういう発想はエスメラルダに出会ったことで生まれたのでしょうか?
 
「そうでしょうね。でなければこの台詞は言えないと思います。フィーバスとしては、彼女と出会ったことで何が一番大事か、分かったのだと思います」
 
22世紀、23世紀になっても上演し続けるべき作品

――この作品を21世紀の今、上演する意義についてどう思われますか?
 
「社会には差別など、様々な問題があるなかで、この作品のメッセージは時代を問わず、伝えるべきものだと思います。それは22世紀でも、23世紀になっても同じではないでしょうか。上演し続けるべき作品だと思います」
 
――中世のエスメラルダが“いつか人がみんな賢くなって……”と歌うけれど、今も人間の世界には厳然と問題があり続けることを思うと、私たちはいったい希望を持てるのかと思ってしまったりもしますが……。
 
「難しいところですよね。人間は変わらないのかもしれない。それでも希望を持たないと人は生きていけない。伝え続けなければいけないと思います」
 
――本作で特にお好きな箇所は?
 
「僕はカジモドの登場と最後の演出が大好きで、いつも素晴らしいと思います。一人の純粋な青年が、その演出によって一瞬で変化する。心は同じなのに、見た目が変わることで周囲が変わってしまうのはなぜか。大きな意味のある演出だと思いますし、毎回感動します」
 
――開幕から2年近く経ちましたが、より深まったと感じる部分はありますか?
『ノートルダムの鐘』(C)Disney 撮影:上原タカシ

『ノートルダムの鐘』(C)Disney 撮影:上原タカシ

「自分から変わるというより、共演者たちと一緒にやっていく中で自分も変わってきたように感じます。新しい発見もたくさんありましたね。役づくりにおいては、自分と役との共通点を探そうとする2年間でもありました。今もまだ宿題はたくさんありますし、深めている途中です」
 
自分にしかできない表現を、追求していきたい
 
――プロフィールについても少しうかがいたいと思いますが、佐久間さんがそもそも四季を目指したのは?
 
「大学ではストレートプレイを専攻していて、歌やダンスにはそれほど興味がなかったのですが、大学の恩師から“経験として四季のオーディションを受けてみたら”と勧められました。当時、映画のオーディションの最終段階で落ちたばかりで、落ち込んでいたこともあって、挑戦してみようと思いました。オーディションでは、浅利(慶太)先生が僕の何かを見つけて選んでくださったのだと思います。
 
入ってみるとレッスンシステムは充実していて、毎日のように全国で公演が行われていることを知り、こういう劇団はほかにはないし、こんなチャンスは滅多にないと思うようになりました。普通は一つの演目のオーディションに落ちたらそれで終わりですが、ここならできるまでレッスンを積むことができる。できるようになるまで時間がかかってもやろうと一生懸命、自分なりに努力してきました」
 
――これまでで、特に印象に残っている役は?
 
「入団して一年目に『JCS』にアンサンブルで出演して、後にシモン役を演じました。そして今年、目指していたユダ役を初めて演じることができました。合格した時のことは、今もはっきりと覚えています。夢がかなったこの瞬間は、決して忘れられません」
 
――『JCS』のユダとジーザスの関係は演出によっても、演じる方によってもいろいろありえますが、佐久間さんはどうとらえて演じましたか?
 
「(僕の場合は)ユダはジーザスのことを誰よりも愛している人間として演じました。弟子たちそれぞれがジーザスを愛しているけれど、その中でも最も愛している。頭がよく、状況を客観的に見ることができる彼は、このままいけば何が起こるかもわかっていて、ジーザスに対して“そんなことをしたら危ない、やめてください”と何度も止めようとするけれど、ジーザスはやめてくれません」
 
――ユダからはたくさん発しているのに、ジーザスはそれを拒む。切ないですね。
 
「切ないです。そしてユダは悩んで悩んで、わかってほしいという意味でジーザスを裏切る。ふつうの“裏切り”ではないと思います。本当に愛しているからこその行動であって、男女の愛以上の愛が、そこにはあると思います」
 
――今後まだまだ、深めていきたい役ですね。
 
「まだまだです。もっともっと深められると思っています」
 
――ミュージカルという未知の分野に挑み始めて、現在も続いているのは、まだ満足していない、ということでしょうか?
 
「全く満足してないですよ。よく、名優の方々が、“舞台ではカタルシスを感じる”とおっしゃっていますが、僕は一度もそういうことがありません。けれど、たとえそれができたとしても、“もっと感じたい”と思って続けていくのかもしれないですね(笑)。自分にしかできない表現を追求していきたいです」
 
*次頁で清水大星さんインタビューをお送りします!

 清水大星さん・インタビュー

あのラストは“終わり”ではなく“旅立ち”だと思っています
清水大星 11年オーディション合格の翌年『ジーザス・クライスト=スーパースター』司祭で四季での初舞台を踏む。(同作では後にジーザス役を演じる)。『リトルマーメイド』エリック、シェフ・ルイ、『ノートルダムの鐘』フィーバス等を演じている。(C)Marino Matsushima

清水大星 11年オーディション合格の翌年『ジーザス・クライスト=スーパースター』司祭で四季での初舞台を踏む。(同作では後にジーザス役を演じる)。『リトルマーメイド』エリック、シェフ・ルイ、『ノートルダムの鐘』フィーバス等を演じている。(C)Marino Matsushima

――清水さんはディズニー長編アニメーション版の『ノートルダムの鐘』やユゴーの原作小説には、以前から触れていらっしゃいましたか?
 
「アニメーションは観たことがあったのですが、小説の方は読んだことがなく、演出家から、稽古の前にぜひ読んでほしいといわれていたので、じっくり読ませていただきました。(本作に関わって)アニメーション版の見え方は、がらりと変わりましたね。登場人物一人一人の必死な生き方や、憧れといったものが感じられますし、表情一つとっても違って見えてきます」

徹底的に楽曲を体に取り込むことからスタートしました

――オーディションにはどう臨みましたか?
 
「課題曲は“息抜き”だったのですが、リズムや音程が崩れないように、まずはピアノで徹底的に(メロディを)聞き込みました。そして次に、歌詞が正確に伝わるよう、フォーカスがぶれないように歌うことを心掛けました」
 
――フィーバスという役をどのように作っていきましたか?
 
「当初は体型が細かったこともあって、はじめは“隊長”らしく見えるよう、運動しながら食べる日々でした。(日本版オリジナルキャストとして)この役で初めて台詞の言い方を考えたり、動線を作っていくということも経験しましたが、(演出家からは)“まずはやってみて”と言われることが多く、自由度が高かったです。
 
人物像については、はじめは“軽い男がエスメラルダとの出会いによって変わっていく”程度にしかとらえられなかったですが、次第に、そう簡単に説明できるものではなく、表には出ないけれど内面にはすごく深いものを持っている人物なのだな、と感じるようになりました。
『ノートルダムの鐘』リハーサルより。撮影・阿部章仁

『ノートルダムの鐘』リハーサルより。撮影・阿部章仁

戦争を経験したことで一日一日が長くて、生きることに喜びが見いだせなくなっていたフィーバスが、自分より他人のことを先に考えるエスメラルダという人物に出会う。この出会いによって、彼は自分でも着ていることに気が付いていなかった鎧を脱ぐことができたのではないでしょうか。
 
ただ人間というだけの前提で、魂が惹かれ合う場面を大切にしています

そんなエスメラルダに、自分からも(思い切った申し出をして)お返しをするのが、奇跡御殿で歌う“奇跡もとめて”。ジプシーたちを人間扱いしていない兵隊の一人だった自分が、ジプシーであるエスメラルダと関わるうち、ジプシーも兵隊も関係なく、ただ人間というだけの前提で、もしかしたら恋愛的なものも超えて、惹かれ合う。フィーバスとしては、この曲があることでこの作品に登場する意味がさらに強まると思います。僕が特に大切にしている曲です」
 
――その後、エスメラルダとフィーバスはフロローたちに囚われ、フィーバスはとりあえずフロローの言うことをきくよう説得しますが、彼女は人間の尊厳のため、首を縦に振りません。そんな彼女の気持ちを尊重するフィーバスの心中というのは……?
 
「まさにその部分が、僕自身、なかなか受け入れることができず、ずっとつらく感じていました。舞台上でも罪悪感のようなものを感じて、体に力が入ってしまって。でも、彼女もまだ恐怖を感じているのだから、自分のことを考えている場合ではない、と思い直しました。この人が一瞬でも安心していられるならそれでいい。そういう気持ちでいると、相手の心に集中することができるようになりました。それが正解かどうかはわからないのですが……」
 
フィーバスこそが最もつらいのかもしれない

――彼女の気持ちになって、彼女の決心を受け入れよう、と。
 
「はい。今回(名古屋公演前)の稽古でスコットさんと話していて、ふと彼が“この後、どうなったんだろう。もしかしたら一番つらいのはフィーバスなんじゃないかと思えてきた”と話してくださったのですが、実際に演じていてそういうつらさはありますね」
 
――ラストもさぞや……。
 
「しかし、僕は“終わり”ではなく、“旅立ち”ととらえています」
 
――そこで得た何かを胸に生きてゆく、と……?
 
「そう信じたいですね」
 
――この作品を現代に上演する意義は何だとお考えですか?
『ノートルダムの鐘』リハーサルより。撮影・阿部章仁

『ノートルダムの鐘』リハーサルより。撮影・阿部章仁

「カジモドの外見が物語の発端ですが、単純に外見の話であれば、ほかにもふさわしい戯曲は存在すると思います。それより、登場人物たちの行動、選択を見ていると、人間はわかりにくい面もある反面、非常にわかりやすくもある。人間の本質はいつの世も同じなのだな、という気がします」
 
――名古屋公演ではお役をどう深めたいと思っていますか?
 
「自分はこうやる、というところから始めるのではなく、相手役としっかり向き合って、彼・彼女を鏡として、自分を確認できるようになりたいと思っています」
 
作品を愛し続けられるよう、日々努力をし続けたい
 
――プロフィールについても少しお聞かせください。四季に入ったのは?
 
「僕はもともとパイロット志望だったのですが、視力の関係で諦めました。そんな折に『オペラ座の怪人』を観る機会があり、こういう職業があるんだと興味を抱いたんです。舞台俳優について調べているうち、劇団四季のオーディションの話を聞いて受験しました。その時はまだ劇団の本質までは理解できていなかったのですが、長く演劇を続けている劇団だから(修業の)価値はきっとあると思って入団を決めました」
 
――ということは、歌や踊りは劇団に入ってから?
 
「ミュージカルに出演したいと思った時に声楽を始めましたが、スタートが遅い分、レッスンにはなかなかついていけず、まずは歌唱力のある方の歌を聴いては真似をする、というところから始めました」
 
――入団後は大変でしたか?
 
「そうですね。まず日本語がなかなか上達せず、自分がいつか台詞を話せるようになるなんてありえるのだろうか?と思っていました。もともと自信家ではないけれど、同期のみんなが僕よりはるかに真面目で熱心で。僕には無理なのでは、と諦めかけたこともありました。でも、思い詰めていたところにちょうど先輩が“温泉に行こうよ”と声をかけてくださって……」
 
――おお、その先輩、素晴らしいタイミングでしたね(笑)。
 
「はい(笑)。有難かったです」
 
――これまで演じられた中で、特に印象に残っているお役は何でしょうか?
 
「やはり『ノートルダムの鐘』のフィーバスですね。ここで学んだことが大きいです」
 
――『ジーザス・クライスト=スーパースター』のジーザスはいかがでしたか? そこはかとなく色気があり、マグダラのマリアが彼を“一人の男として愛している”というのが納得できるジーザスだと感じました。
 
「劇団四季の演出ではあまり恋愛的な関係性は打ち出していませんが、どちらにしても、そもそもジーザスとしてはそういう視点は持っていないんです。ですから、自分がこうしたらこう見えるというようなことは考えず、マリアの心に任せていました」
 
――どんな表現者を目指していますか?
 
「難しいですね。さまざまな役を演じるたびに、目標として見えてくるものは違ってくるので、あくまで今の目標なのですが、僕はこれまで人に甘えるのが苦手で、一人で考え込んだり、資料を集めて読み込むことが多かったんです。これからはもっとオープンに、心を裸にして俳優として成長していきたいです。
 
そう思うようになったのはジーザスを演じてからで、やはり(役があまりにも大きく)自分にはどうにもできないことがあると無力さを感じてしまったこともあって。その後フィーバスを演じた時に、嘘の芝居だけはするまい、と思うようになりました。毎日、フィーバスとして感じながら芝居ができるように。そして作品をずっと好きなままでいたい。そのために一日、一日を努力するしかないと思っています」
 
*次頁で光田健一さんインタビューをお送りします!

光田健一さん・インタビュー

民衆に歌いかけるナンバーでは、その後との落差を意識しています
光田健一 韓国出身。10年オーディションに合格し『エビータ』で四季での初舞台を踏む。『ジーザス・クライスト=スーパースター』ペテロ、アンサンブル『ガンバの大冒険』『リトルマーメイド』『エクウス』『劇団四季ソング&ダンス The Spirit』『オペラ座の怪人』ラウル等を演じている。(C)Marino Matsushima

光田健一 韓国出身。10年オーディションに合格し『エビータ』で四季での初舞台を踏む。『ジーザス・クライスト=スーパースター』ペテロ、アンサンブル、『ガンバの大冒険』『リトルマーメイド』『エクウス』『劇団四季ソング&ダンス The Spirit』『オペラ座の怪人』ラウル等を演じている。(C)Marino Matsushima

――光田さんのフィーバスは清新で、“颯爽と現れた……”という形容がぴったりですね。何歳ぐらいの設定で演じていらっしゃいますか?
 
「20代後半のイメージで演じています」
 
――ディズニー長編アニメーション版は以前からご存知でしたか?
 
「僕は劇団四季に入るまでは知りませんでした。韓国ではユゴーの『ノートルダム・ド・パリ』の舞台版といえばフレンチ・ミュージカル版(『ノートルダム・ド・パリ』)が有名で、僕も学生時代にそちらの曲をよく聴いていたんです。
 
それが、四季に入って2011年にコーラスで出演した『劇団四季 ソング&ダンスThe Spirit』のオープニングで、『ノートルダムの鐘』のナンバーが使われ、ディズニー版もあるんだと知りました。それから数年が経って、この作品の舞台版を四季が上演するということになり、それぞれの役を調べたところ、フィーバスは役柄も音域も自分に合うような気がして挑戦したんです」

派手な作品ではない分、演出の見事さに圧倒されます

――オーディションではどんなことに留意したのでしょうか?
 
「当時、僕はまだメインの役を勤めたことがなく、自分にとっては台詞が大きなチャレンジでした。また言葉だけではなく、役の雰囲気をいかに出すかにも、集中して取り組みました」
 
――そして横浜公演でフィーバス・デビュー。実際に出演してみていかがでしたか?
 
「考えていた以上の衝撃を受けました。この作品は装置にしても照明にしても、それほど派手ではないのですが、会衆が喋りながら転換をするのが斬新ですし、音楽が素晴らしいのはもちろん、強いメッセージ性を持っていて、圧倒的な作品の力にとても惹かれます。
 
苦労したのは、登場時のナンバー“息抜き”で、野性味を出すことです。普段の自分とは全く性格が違うので、フィーバスらしく登場できるよう、特に気をつけていますね。二幕ではエスメラルダへの一途な思いを大切に演じています」
 
――役をつかむのに、どんな工夫をされましたか?
 
「“息抜き”では決められた動きが多いので、視線や歩き方まで自分の中で細かく設定して稽古しました。どうしたらもっと色男に見えるかといったことも研究しましたね。繰り返しやっていくなかで体に役柄がなじみ、通し稽古では“フィーバスらしい余裕が見えるよ”と言っていただけるようにもなりました」
 
“パリの人々よ……”と呼びかけるくだりは希望に満ちて歌っています

――お気に入りのシーンはありますか?
 
「囚われの身だったフィーバスが縄を解かれて、民衆に歌で訴えかけるところですね。とても大事なメッセージを伝えていますし、メロディも好きです。前奏も気に入っていて、わくわくするほど。エキサイトしすぎて物語から浮かないよう、注意しています(笑)」
 
――その後の展開とは落差がありますね。
『ノートルダムの鐘』リハーサルより。撮影・阿部章仁

『ノートルダムの鐘』リハーサルより。撮影・阿部章仁

「そうなんです。だからこそ、ここで希望をもって演じることが大事なんだと思います。後の展開とのコントラストがより鮮明になると思って、僕は晴れやかに歌っています」
 
――中世の物語であるこの作品を今、上演する意義はどんなところにあると思いますか?
 
「人間の本質は、昔も今もあまり変わっていないんだと思います。金持ちであろうとなかろうと、権力を持っていようといまいと……。そういう姿を見ながら、今を生きる人たちが力強いメッセージを受け取ることのできる作品なんだろうと思います」
 
――シリアスな作品ですと、カンパニーの雰囲気もおのずからシリアスな感じでしょうか?
 
「『ノートルダムの鐘』のカンパニーの人たちは、本当にこの作品が好きですし、稽古や出演を重ねていくうちにさらに好きになっています。この作品のメッセージをお客様に届けたいという気持ちで繋がっているので、先輩も後輩もなく、自由で、和気あいあいとした雰囲気がありますね。後輩も多いのですが、稽古の後にアドバイスしてくれて、すごく勉強になります」
 
始めと終わりで全く違うキャラクターに変化するのがフィーバスの魅力

――稽古でスコットさんから言われた言葉で、印象に残っていることはありますか?
 
「役についての疑問点をフィーバス役の3人で話し合うことが多いのですが、フィーバスの最後の行動についてアドバイスをいただけたのが印象に残っていますね。1幕で登場した時には明るく見えるキャラクターが、最終的にはまったく変わっているというのがこの役の魅力なのだ、と。名古屋ではここを掘り下げていきたいです」
 
――フィーバスの今後についても気になりますね。
 
「自分でもいろいろ研究してやっていこうと思っていますが、ぜひお客様にも想像していただきたいです」
 
――この部分に限らず、名古屋公演に向けて、全般的に深化している感触はありますか?
 
「いい意味で、変わったと思います。細かい疑問点が解決できたことで、今はより“リアル”な作品になってきたと思います。すでにご覧になった方にも、ぜひもう一度ご覧いただいて、変化を発見していただけたらと思います」
 
嘘のないリアルな芝居を、探求し続けたい

――プロフィールについてもうかがいますが、光田さんはなぜ劇団四季に入られたのですか?
 
「大学では演劇を専攻していて、ミュージカルは興味がないわけではありませんでしたが、歌やダンスを専門にやってきた人のものであって、自分がやるものではないだろうと思っていました。それが日本で研修の機会があり、劇団四季の舞台を観るうち、ここで稽古すればすごく勉強になるのではと思うようになったんです。特にバレエ等のレッスンが受けられることが魅力的でした」
 
――知らない世界に飛び込むのは大きな決断ではなかったですか?
 
「大学の先輩で劇団四季で活躍している方が何人かいたので、心の支えになりました。また、同期の神永、佐久間、谷原とは仲が良くて、いつも互いにアドバイスし合っているんです。さまざまな支えがあって、ここまで続けることができました」
 
――そして昨年、ついに『オペラ座の怪人』ラウル役に抜擢されたのですね。
 
「一番演じたい役だったので、初めてのメインの役がラウルでとてもうれしかったです。合格したと分かった瞬間のことは、今も忘れられません。その後、1年半くらいの稽古を経てラウル役としてデビューしました」
 
――ラウル役で一番大切なことは何でしょうか?
 
「立ち姿から何からたくさんありますが、特に歌ですね。『ノートルダムの鐘』はお芝居の中に歌が入っている印象ですが、『オペラ座~』は基本、全編が歌。きちんとした発声でないと何を言っているか分かりませんし、歌で芝居をするということの難しさを痛感しました。この経験があったからこそ、今のフィーバスにつながっていると感じます」
 
――どんな表現者を目指していますか?
 
「舞台の上で嘘がないように生きたいですね。長期にわたって一つの役を演じるなかで、毎日新鮮に演じることの難しさをあらためて感じました。“リアル”に生きる姿をお見せすることを、これからも大切にしていきたいです」
 
――例えば恋に落ちるシーンを毎日演じるにあたって、どんな工夫をされていますか? 以前、韓国で『アイーダ』のラダメス役の方にお会いした時、“毎日、目であるとか肌であるとか、相手役の違う箇所を見つめるようにしている”というお話をうかがったことがあります。
 
「そうですね、自分のこれまでの人生体験などと比較しながら、新鮮さを持ち続けるよう心掛けています。また、劇団四季では一つの役を複数の俳優が演じており、例えば『ノートルダムの鐘』横浜公演では、4人のエスメラルダ役の俳優と共演できました。4人とも台本にある言動は同じでも、(間合いなど)役へのアプローチが少しずつ違う。こういう場合はこう受け止めて反応するといいんだな、と勉強になりましたね。スコットさんも、“キャストが固定化していないことで、劇団四季の舞台はその都度、新鮮。それがこのカンパニーの良さなんだよ”とおっしゃっていました。こうした機会を通して研究を続けていきたいです」
 
*公演情報*『ノートルダムの鐘』上演中~3月31日分まで発売中=名古屋四季劇場 公式HP
                                                                                         
※記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。